黒酢の効用と安全性は? [健康]
黒酢や米酢など「酢が万病に効く!」というのは今週号の『週刊大衆』(6月24日号)の連載記事「0円健康法」です。このコーナーでは身近にある簡単な道具で体をほぐしたり気分転換したりといった方法を解説。私もこのブログでご紹介したことがありますが、今回は道具ではなく食品(調味料)である酢(米酢・黒酢)を紹介しています。
酢は、女性週刊誌やテレビの情報番組でもしばしば健康食品として取り上げられる食材なので、今回は酢の安全性や有効性などについても見ていきたいと思います。
酢を構成するといわれるのがクエン酸。運動をすると、脂肪を燃焼してエネルギーに変えるクエン酸回路の働きが鈍ることで疲労を感じるものの、クエン酸を補給することで再びエネルギー代謝が活発になる。すなわち酢は疲労回復にいいといわれてきました。
同誌ではそれに加えて、酢酸も多く含まれていることに着目。薬学博士の田村智彦氏が酢酸の効用を説明しています。
「実は、中高年の健康維持にとって、この酢酸の効用も大きいんです。酢酸を摂取すると、腸は弱酸性になります。そして、これが血中に取り込まれると、血液がアルカリ化します。酢の健康効果はこれによるところが大きいのです」
アルカリ化することで免疫力が強くなり、痛風の原因となる尿酸も体がアルカリに傾くことで排泄がスムーズになるというのです。
ただ、この手の話はよく聞くのですが、私は懐疑的です。
酢といえばしょせん調味料です。そんなもので、いちいち体が酸性になったりアルカリ性になったりしたらどうなるのでしょう。
人間は食事をするたびに、大きくコンディションが変わってしまうことになります。
たとえば、肉を食べたからと言って、体が酸性になるわけではなく、というか酸性に傾かないようなコントロール機能を人間の体は持っているのです。
酢には血圧降下作用もあるといいます。
ここは調べてみました。
内閣府の機関である食品安全委員会という調査機関のデータベースによると、収縮期血圧130~159 mmHgかつ拡張期血圧85~99 mmHgの成人に、15%濃度の黒酢含有飲料 (34名) 、またはは15%濃度のリンゴ酢含有飲料 (31名) 、それと酢に見せかけたニセ(プラセボ)飲料 (33名) を10週間摂取させた二重盲検試験を行ったことがあるそうです。
それによると、たしかに、黒酢ならびにリンゴ酢含有飲料の摂取により、2~10週後の収縮期血圧が低下し、血圧低下作用には、黒酢に特徴的な豊富なアミノ酸やペプチドではなく、酢酸であることが示唆されたという予備的な報告があるそうです (健康・栄養食品研究.2003;6(1):51-68) 。
ただし、これはあくまでも「予備的な報告」です。
ではどんなコンディションの時にどれくらいの量を摂取すれば改善するのか、交絡因子はどうなのか、という調査は全く行われていません。
つまり、疫学調査としては、まだ「たまたまそうなった」の域を出ていません。
さらにゆるがせにできないのは、同誌によると酢は「がん予防にも効果がある」と述べている点です。
「最近は、がんを誘発する酵素を抑え、がん予防にも効果があるという研究成果もあります。酢の効用は実に多岐にわたっています」
具体的にどの研究の成果なのかは述べられていませんが、酢は本当にがんに効果があるのでしょうか。
食品安全委員会によれば、「黒酢の有効性についてはヒトでの信頼できる十分なデータが見当たらない」と結論を出しています。
おそらく、根拠となっているのは動物実験か試験管レベルでのテストだと思いますが、たとえその食材のある成分に「抗がん作用」があるからといって、だから即「がんに効く」とは限りません。そのふたつのことには大きな距離があるのです。
実は、酢に限らず、食材のある成分に抗がん作用がある、という調査結果が出ることは珍しいことではありません。この世の中、抗がん食材はごろごろしています。
しかし、その成分に本当にがんを退治する力があったとしても、人間の体内のがん細胞の成長する力の方が強かったら、その「抗がん作用」は効いたといえるような効果は出せません。
成分がそもそも人間の体内で十分にその作用を発揮できるかどうかだってわかりません。
たとえば、パイナップルやキウイの酵素は、タンパク質を分解するといいます。
たしかにパイナップルを食べすぎると、舌が酵素によって分解されてヒリヒリしてきます。
ところが、人間の胃の中は強い酸性のため、いったん食べてしまったら、その酵素は働けなくなります。いくらパイナップルが強い酵素を持っていても、人間の胃に穴を開けることはできません。
抗がん食品が、強い消化力を持つヒトの胃袋の中で分解・消化されてもその作用を発揮できるのでしょうか。
健康にいいとメディアが報じると、日本人はバカ正直というか、たくさん摂る人が出ます。最近は「お酢でダイエット」といったテーマで女性週刊誌が記事を作ることもあります。
しかし、酢についていえばこれは気を付けた方がよさそうです。
黒酢に含まれる酢酸は、高濃度のものを摂取すると中毒を起こす可能性も指摘しています。30%酢酸を約100mL摂取した後、激しい腹痛と嘔吐、著明な溶血尿が認められ、その後無尿、呼吸困難、播種性血管内凝固症候群になったという報告があります (日本集中治療医学会雑誌.2004;11:217-21) 。
以上のことから、先の食品安全委員会の結論はこう書かれています。
そういったことを知っておいた上で、では「食品として摂取する」場合にはどうすればいいでしょうか。同誌の記事に戻ると、こう書かれています。
コーヒーに黒酢。おかずにマイ酢をひとふり。これくらいなら安全性についても問題なく習慣としてできそうですね。いかがでしょうか。
酢は、女性週刊誌やテレビの情報番組でもしばしば健康食品として取り上げられる食材なので、今回は酢の安全性や有効性などについても見ていきたいと思います。
酢を構成するといわれるのがクエン酸。運動をすると、脂肪を燃焼してエネルギーに変えるクエン酸回路の働きが鈍ることで疲労を感じるものの、クエン酸を補給することで再びエネルギー代謝が活発になる。すなわち酢は疲労回復にいいといわれてきました。
同誌ではそれに加えて、酢酸も多く含まれていることに着目。薬学博士の田村智彦氏が酢酸の効用を説明しています。
「実は、中高年の健康維持にとって、この酢酸の効用も大きいんです。酢酸を摂取すると、腸は弱酸性になります。そして、これが血中に取り込まれると、血液がアルカリ化します。酢の健康効果はこれによるところが大きいのです」
アルカリ化することで免疫力が強くなり、痛風の原因となる尿酸も体がアルカリに傾くことで排泄がスムーズになるというのです。
ただ、この手の話はよく聞くのですが、私は懐疑的です。
酢といえばしょせん調味料です。そんなもので、いちいち体が酸性になったりアルカリ性になったりしたらどうなるのでしょう。
人間は食事をするたびに、大きくコンディションが変わってしまうことになります。
たとえば、肉を食べたからと言って、体が酸性になるわけではなく、というか酸性に傾かないようなコントロール機能を人間の体は持っているのです。
酢には血圧降下作用もあるといいます。
ここは調べてみました。
内閣府の機関である食品安全委員会という調査機関のデータベースによると、収縮期血圧130~159 mmHgかつ拡張期血圧85~99 mmHgの成人に、15%濃度の黒酢含有飲料 (34名) 、またはは15%濃度のリンゴ酢含有飲料 (31名) 、それと酢に見せかけたニセ(プラセボ)飲料 (33名) を10週間摂取させた二重盲検試験を行ったことがあるそうです。
それによると、たしかに、黒酢ならびにリンゴ酢含有飲料の摂取により、2~10週後の収縮期血圧が低下し、血圧低下作用には、黒酢に特徴的な豊富なアミノ酸やペプチドではなく、酢酸であることが示唆されたという予備的な報告があるそうです (健康・栄養食品研究.2003;6(1):51-68) 。
ただし、これはあくまでも「予備的な報告」です。
ではどんなコンディションの時にどれくらいの量を摂取すれば改善するのか、交絡因子はどうなのか、という調査は全く行われていません。
つまり、疫学調査としては、まだ「たまたまそうなった」の域を出ていません。
さらにゆるがせにできないのは、同誌によると酢は「がん予防にも効果がある」と述べている点です。
「最近は、がんを誘発する酵素を抑え、がん予防にも効果があるという研究成果もあります。酢の効用は実に多岐にわたっています」
具体的にどの研究の成果なのかは述べられていませんが、酢は本当にがんに効果があるのでしょうか。
食品安全委員会によれば、「黒酢の有効性についてはヒトでの信頼できる十分なデータが見当たらない」と結論を出しています。
おそらく、根拠となっているのは動物実験か試験管レベルでのテストだと思いますが、たとえその食材のある成分に「抗がん作用」があるからといって、だから即「がんに効く」とは限りません。そのふたつのことには大きな距離があるのです。
実は、酢に限らず、食材のある成分に抗がん作用がある、という調査結果が出ることは珍しいことではありません。この世の中、抗がん食材はごろごろしています。
しかし、その成分に本当にがんを退治する力があったとしても、人間の体内のがん細胞の成長する力の方が強かったら、その「抗がん作用」は効いたといえるような効果は出せません。
成分がそもそも人間の体内で十分にその作用を発揮できるかどうかだってわかりません。
たとえば、パイナップルやキウイの酵素は、タンパク質を分解するといいます。
たしかにパイナップルを食べすぎると、舌が酵素によって分解されてヒリヒリしてきます。
ところが、人間の胃の中は強い酸性のため、いったん食べてしまったら、その酵素は働けなくなります。いくらパイナップルが強い酵素を持っていても、人間の胃に穴を開けることはできません。
抗がん食品が、強い消化力を持つヒトの胃袋の中で分解・消化されてもその作用を発揮できるのでしょうか。
健康にいいとメディアが報じると、日本人はバカ正直というか、たくさん摂る人が出ます。最近は「お酢でダイエット」といったテーマで女性週刊誌が記事を作ることもあります。
しかし、酢についていえばこれは気を付けた方がよさそうです。
黒酢に含まれる酢酸は、高濃度のものを摂取すると中毒を起こす可能性も指摘しています。30%酢酸を約100mL摂取した後、激しい腹痛と嘔吐、著明な溶血尿が認められ、その後無尿、呼吸困難、播種性血管内凝固症候群になったという報告があります (日本集中治療医学会雑誌.2004;11:217-21) 。
以上のことから、先の食品安全委員会の結論はこう書かれています。
黒酢を食品として摂取する場合はおそらく安全と思われる。妊娠中・授乳中の摂取における安全性については十分なデータが見当たらないため、食事以外からの過剰摂取は避けたほうがよい。黒酢に含まれる酢酸は、高濃度のものを摂取すると中毒を起こす可能性が示唆されている。
そういったことを知っておいた上で、では「食品として摂取する」場合にはどうすればいいでしょうか。同誌の記事に戻ると、こう書かれています。
まず、アイスコーヒーに10滴ぐらい調理用の米酢を入れて飲んでみた。 ちょっと酸味が強いコーヒーという感じで、味はまずまずだが、酢のツーンとした刺激臭が気になった。 そこで、米酢を黒酢に替えると、嫌な刺激臭もなく、思いのほかおいしく飲めて、これなら毎日続けられると感じた。(中略) うまいと感じる“マイ酢”を台所や食卓に置き、飲み物やおかずにひと振りする。これが食生活に酢を定着させるうえでも大切だ。
コーヒーに黒酢。おかずにマイ酢をひとふり。これくらいなら安全性についても問題なく習慣としてできそうですね。いかがでしょうか。
本家鹿児島福山町「くろず屋」の健康黒酢レシピ (講談社のお料理BOOK)
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- 出版社/メーカー: 講談社
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