戦後史の激動。今日は、ネットで大変話題になった「『テレビ政治』の内幕」(PHP)を、今ごろになって読んでみたので、それについて今更書いてみます。相変わらず私は流行に乗り遅れる人間です。
版元(PHP)でおわかりのように、同書は保守の側から、民主党政権やマスコミを批判している書です。民主党は「左翼」で問題があるのに、テレビはその問題点を放送しなかった、という構成です。
著者の三橋貴明氏は、ネットを本拠地としている売出し中の文化人で、ウエブ掲示板で、しばしば名前を見かけます。
で、私の感想ですが、結論から述べると、指摘している点に賛成できる部分はいくつかありますが、同書の根拠には学術論文のような正確さがなく、ともすればバイアスのかかった極論(曲論?)になっている憾みがあります。
保守という一方の側に立って、賛否を見極め否については徹底的に批判している、いかにもネット掲示板的な特徴を見ることができます。
たとえば、「保守」からは評判の悪い小沢一郎氏について、同書は「メディアはみな擁護した」とまで書いています。
私は、それについては「思わずのげぞった」という同書のくだりをそのままお返しで使わせていただきたい。
保守の側からは気に入らない点もあったのかもしれませんが、第三者的にはどう見ても小沢一郎氏に対するブルジョアマスコミは、代表時代から総バッシングで、「擁護」といえるのは「日刊ゲンダイ」と「週刊ポスト」だけだったでしょう。
同書で「親民主」とレッテルを貼ったみのもんたの「朝ズバッ!」を私は2年間ウオッチングしてきましたが、もともとこの番組は鳩山政権時代から民主党には批判的で、小沢一郎氏が叩かれているときは、いわゆる小沢系、もしくは鳩山系の親小沢議員をゲストに出演させて、何度も小沢一郎氏に対するたな卸しを行っていました。
また、同書は「民主党は小沢一郎に頭が上がらない」と書いていますが、実際には、小沢一郎幹事長は、政策決定権をもたない(つまり実権がない)異常な条件での就任だったと、私は側近の平野貞夫氏から取材しています。
同書は「テレビに騙されるな」といいながら、おそらくは取材をせずそれこそメディアでの印象で語っているように思いますが、いかがでしょうか。だとすれば残念です。
また、同書は人権擁護法案に否定的で、その問題点指摘には全面的に同意します。
が、その先が問題で、それが「左翼団体の生き残り」であると粗雑にまとめているのです。
同法案は自由民主党、民主党、公明党らが推進しているもので、日本共産党は同法案に反対しています。
同書の指摘を額面どおりに読めば、自公民は「左翼」で、日本共産党は左翼ではないことになります。
まったくもって変な話ですね。
同書に限らず、ネットでは漠然と「左翼」「左派」というレッテルを使うのですが、ではそれはどのような定義なのかが曖昧です。だから、そんなおかしな話になるのです。
要するに非保守の主張がある勢力はみなそうらしいのですが、だったらそう正確に呼べばいいのです。
たとえば、同書では民主党内の元社会党勢を「左派」などと呼んでいますが、彼らの多くは社会党時代、ほとんどが政権構想研究会という党内最右派閥にいた人たちで、彼らは社会党時代からマルクス的社会主義など標榜しておりません。。
日本社会党は、86年に新宣言という綱領的宣言をしていますが、これは党としてマルクス的社会主義をやめますという宣言で、それはとりもなおさず、党内の「最左派」である社会主義協会派の敗北を示しています。
ですから、民主党内に同書が述べるほど社会主義協会派はいるとは思えません。すでに社会党時代から彼らは傍流になり、落選したり新社会党に移ったりしています。
少なくとも、同書は具体的な根拠のないまま「社会党勢⇒左翼⇒マルクス協会派(に決まっている)」という安易なレッテルを貼っているようにしか見えません。ここも残念な点です。
もちろん、民主党政権が、「弱者」をテーマとした法案や政策を主張している中に、首を傾げざるを得ない点があることは私も同感です。
ただし、その「犯人」は、私は「左翼」だの「左派」だのという十派一からげの曖昧な言い方をすべきではなく、いわゆる「社会民主主義」というものにあるのではないか、と見ています。
社会民主主義というのは、近代政党ならよくも悪くももっている思想です。
ですから、自由民主党にも民主党にも公明党にも社会民主主義的要素があるのです。
そのように分析せず、ネットの議論のように、さかしらに「右か、左か」などというレッテル論争をしていたら何も具体的な解明ができません。
同書は、民主党は左右がはっきりしている一部の議員以外は「ノンポリ」だと指摘していますが、まさにそのノンポリこそが、「社会民主主義」という曖昧な政治観を引きずりまわしているのです。
といっても、私は社会民主主義という思想自体を否定しているのではありません。
社会民主主義というのは、人権や福祉国家建設に積極的なはたらきをする可能性がある一方で、矛盾や動揺も抱えていると私は思います。
社会が平時ではないとき、もっと具体的に言えば、現在のように新自由主義という強烈な方向性が示されているとき、社会民主主義はそれと戦うのではなく、おうおうにして後者の特徴がでてしまうのではないか。そんなふうに私は見ているのです。
と、ネット文化人の著書を是々非々で論じてみましたが、みなさんはいかがお考えですか。
「テレビ政治」の内幕
- 作者: 三橋 貴明
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2010/02/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
2012-09-19 03:05
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コメント(9)
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どうしたらいいんでしょうね?どんな主義主張にも矛盾する点・補えない点がありますものね。極論でいうと、人類が滅びるしかないかな!!地球のために!!なんちゃって。
by φ(・ω・)かきかき (2012-09-19 03:55)
面白そうな内容の本ですね、
読んでから政治のニュースなど観ると
また違って見えてきそうですね。
by pandan (2012-09-19 05:16)
こういう政治内容の本は固そうで読んだことがありませんね。ただ、よく美容院で時間待ちに読む女性誌にちよっとおもしろおかしく書かれているのを見たりします。
いっぷくさんが書かれると読んでみたくなっちゃいますね(^-^)
by リキマルコ (2012-09-19 06:02)
政治不信感増えていきます〜〜〜ぅ。
by lamer (2012-09-19 11:07)
例えば、
100の悪事に対して、最も軽い3だけを非難する。
そして、あとの97にはまったく触れない。
マスコミの小沢に対するスタンスが、
上のようなものであったとしたらどうだろう。
その行為は明らかに擁護と言えるものですね。
そう、批判に見せかけた擁護とアリバイ作り。
マスコミが小沢を本気で潰す気なら、
とっくの昔に消えているでしょう。
by マスコミは韓国の傀儡? (2012-09-19 12:28)
鳥越さんが出ていたテレ朝の朝番組(今はモーニングバード)はかなり小沢さんを擁護していましたけどね。
by 村野 (2012-09-19 13:03)
小沢さんは何をしてもたたかれていたような~
by chima (2012-09-19 14:11)
政治は、色々難しくて、結局何を頼るかと言うと、マスコミでした(^^;) 色々勉強が必要だと痛感しました(^^;)
by さうざんバー (2012-09-19 19:23)
いっぷく さん、こんばんは。
面白い見解ですね。
でも、自分のこと言われている気がしました・・・
オイラもネットで見た表面的な情報で
知識に関しても歴史に関しても底が浅いのですよね。
まぁ、それでもテレビを鵜呑みにするということは金輪際ないでしょうけど。
by uryyyyyy (2012-09-19 21:41)