マスコミとは何ぞや、という話を先日から書き始めましたが、マスコミと一口に言ってもメディアははいろいろあります。
全体として語れることとともに、それぞれのメディアごとの固有の特徴についても見ていく必要があると思います。
今回からしばらくは、女性雑誌について、井上輝子+女性雑誌研究会著「女性雑誌を解読する」(垣内出版社)という研究レポートを参考にみていきたいと思います。
女性雑誌というのは、「週刊女性」「女性自身」「女性セブン」など時事系雑誌、「non-no」や「Sweet」などファッション誌、「婦人公論」など文字通り婦人誌など様々あります。
井上輝子+女性雑誌研究会著「女性雑誌を解読する」(垣内出版社)は、そうした女性雑誌のタイトルや記事のページ数などから、女性雑誌の特徴と役割を考察しています。
まず、女性雑誌をパラパラとめくって気づくことは、広告が多い。井上輝子さんは、「広告メディアとしての女性雑誌」について同書第2章で書いていますが、その結論とも言える部分を、かなり長くなりますが、引用します。
雑誌の広告化は,同時に雑誌のビジュアル化と連動しているが,ここで注目すべきことは,広告の道具立てとしてあらゆるものが動員されることを通じて,あらゆるものが商品化されていくことである。たとえば,女性の笑顔や身体がしばしば広告に用いられる。美しい女性の姿を見せることで,商品の広告効果が高まるばかりでなく,起用されたモデルにとっても,広告に登用されたという事実によって「美女」のお墨付きをもらったことになり,商品もモデルもともに社会的評価が上がる結果となる。「マスコミの地位付与機能」(マートソとラザースフェルド)がこれである。
女性の身体がこうして道具化されることは,女性の身体が品評の対象と化すことでもある。胸や腰の形から身体全体のバラソスまで様ざまの角度から,女性の身体が品定めされる。しかも,化粧品広告や痩身・整形広告を通じて,マスメディアによって「美」の基準が提示され,読者に少しでも美しくなるよう示唆されるという事態の中で,品定めの対象は,モデルや美人コンテスト出場者という限られた志願者にとどまらず,広く女性全体に拡大していく。美人コンテストの日常化現象とでも呼ぶべき事態が現出するわけである。
ことは女性の身体にとどまらない。自然の地形や動植物から建造物など,ありとあらゆるものが商品化され,品評と消費の素材とされる結果,すべてのものが,それ自体の有する固有の価値によってではなく,商品価値という一律の尺度によって評価されるようになる。
ここで特に問題としたいのは,この価値尺度が,資本の主導の下に,しかも欧米諸国の文化を背景としてつくられていることである。たとえばいま挙げた女性の身体を例にとれば,その理想とされる形は,女性たち自身が自ら望んでっくりあげたものではもちろんなく,欧米の白人の顔立ちや体型をモデルとして,化粧品産業によって提示されたものである。化粧品メーカーと女性雑誌とは一致して,日本であれメキシコであれ,世界各地の読者に向かって,化粧水や口紅やシャンプーを購入することで,白人風の「美しい」顔や身体が手に入れられると約束する。
要約すると、女性雑誌には
・価値観の商品化があり、それが
・資本の主導と
・欧米諸国の文化
を背景としてつくられている特徴がある、ということです。
たとえば、女性は流行に弱い、という分析がありますが、それは女性が主体的自覚的に考えることが苦手だからではなく、女性雑誌の「価値観の商品化」によって、メディアに出ているもの、話題のものには価値があるのだ、という刷り込みが行われているのではないか、といえるかもしれません。
「欧米諸国の文化」についても、たしかに、女性がやせて美しくあれ、という「文化」は、1967年のイギリスのタレント・ツイッギーの来日が契機となっている、と分析する専門家は少なくありません。
ダイエットというと、まるで現代人は誰しもやらなければならないかのように一般化していますが、健康面からのアドバイスというよりも、「この写真に写っているこんなにきれいな女性のようになるために痩せましょう」という誘導になっている、というのが井上輝子さんの分析です。
私は男だからということもあると思いますが、恥ずかしながら、井上輝子さんが書かれていることを読むまで、女性の「美」のコンテストに批判的であることの意味がわかりませんでした。
小学校や中学校の頃、男子だけでこっそりやりませんでしたか。クラスの女の子の中で誰が一番きれいか、という人気投票(笑)。
コンテストはその大人版ぐらいにしか考えていなかったので、選ばれない女子が不愉快なのはわかるけど、だからといって別にやらしとけばいいじゃない、選ばれた女性は勲章になるし、ぐらいに考えていました。
今から考えるとお恥ずかしい次第です。
そうしてみると、女性雑誌は、主たる読者層(女性)だけでなく、その発信する価値観が社会に広範に広がり、男性を含めて啓蒙しうるわけです。メディアの力というのは侮れません。
2012-07-28 03:49
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コメント(3)
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なるほど! 分かりやすいお話でした。
コンテンツの制御(何に価値があるのか、その基準を作ること)を超えたコンテクストの自動生成(そうした基準に従って、私たちが自らコンテンツを選び取るさま)といった、マスコミが多かれ少なかれ持っている特徴が、女性雑誌という媒体では露骨にあらわれるのかも知れません。
by ばたお (2012-07-28 06:53)
人気投票って女子の間でもしてましたよ〜
by pandan (2012-07-28 07:23)
ジェンダー論の出始めの頃だったような気が致しますが、20年経っても基本はまったく変わらない雑誌と読み手にも驚かれます。妄言多謝。
by yutakami (2012-07-28 22:30)