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『喜劇一発大必勝』ハナ肇と山田洋次コンビの最終作は怪喜劇! [懐かし映画・ドラマ]

『喜劇一発大必勝』(1969年、松竹)を鑑賞しました。主演がハナ肇、原作が藤原審爾の『三文大将』。脚本は森崎東・山田洋次。監督も山田洋次です。当時、第24回毎日映画コンクール監督賞を受賞していますが、たとえば『幸せの黄色いハンカチ』のような作品とは全く異なる作風です。



今回の『喜劇一発大必勝』の原作は読んだことがありませんが、主人公は、昔読んだ、藤原審爾の『天才投手』という小説の主人公とどこか似ている怪物キャラクターです。

喜劇といっても、一昨日の『『スクラップ集団』高度経済成長への皮肉と諧謔』のような諧謔(かいぎゃく)ではなく、かといってギャグのスラップスティックともいえない。

怪喜劇といいたくなるような壮絶な展開で度肝を抜かれました。

たぶん、原作の藤原審爾や、脚本の森崎東色が強く出ているのでしょう。

山田洋次監督とハナ肇


『男はつらいよ』で、松竹を支える巨匠となった山田洋次監督が若手の頃、御用達の主役がハナ肇でした。

馬鹿まるだし』(1964年)に始まり、『いいかげん馬鹿』(1964年)『馬鹿が戦車でやって来る』(1964年)などの「バカシリース」。

『運が良けりゃ』(1966年)『なつかしい風来坊』(1966年)、そして、『喜劇一発勝負』(1967年)『ハナ肇の一発大冒険』(1968年)など「一発シリーズ」などに続き、本作は8作目となります。

ところが、この『喜劇一発大必勝』を最後に、2人は袂を分かち、以後山田洋次監督は、渥美清と『男はつらいよ』を97年まで撮り続けます。

なべおさみの『病室のシャボン玉ホリデー―ハナ肇、最期の29日間』(文藝春秋)によると、ハナ肇の臨終間際に、山田洋次監督と倍賞千恵子が見舞いに行ったそうです。

ハナ肇は山田洋次監督に、「謝らなきゃならないと思っていた」と言い、山田洋次監督は「何を言うんだよ、ハナちゃん」と「和解」。

それが何であるかは、「『大御所同士の葛藤』は自分には知る由もない」と、なべおさみは明らかにしていません。

ナンセンスもそこまでやるか、のあらすじ


場所は方言から見て瀬戸内海に面した町のようです。

瀬戸内海

バスの車掌・荒木つる代(倍賞千恵子)が住む長屋には、彼女に密かに想いを寄せる保健所職員・左門(谷啓)や、現業系労働者(田武謙三、佐山俊二、桑山正一、佐藤蛾次郎)や警官(犬塚弘)、医師(左卜全)などが住んでいました。

そこに住んでいた一人・ウマ(いかりや長介)がフグにあたって急死。

谷啓は棺桶代を寄贈するものの、何と4人はそれを飲んでしまいます。

そしてここからがすごい。

カラーテレビが入っていたダンボールに亡骸を詰め込み、倍賞千恵子が乗務するバスで運ぶものの、降りる際に足が出てしまうという、ホラー映画並みの展開です。

そして、骨つぼを前にバカ騒ぎをする4人の前に、ボルネオ帰りの御大(ハナ肇)が登場。

すりこぎでウマの骨を砕き、白湯と醤油を入れて4人に無理やり飲ませます。

4人は翌朝、腹痛と下痢で大騒ぎ。

これはもう、今だったら絶対にできないシーンでしょう。

でも、山田洋次監督はこういう作品も撮っていた、というのはなんかホッとします。

石井ふく子作品で、すっかりお茶の間向きのキャラクターを演じていた京塚昌子が、かつては喜劇で活躍していたように……。

ハナ肇は身勝手なふるまいをして長屋の人を苦しませたので、谷啓が勇気を奮って怪我をさせます。

それによって、ならず者のハナ肇は逆に、谷啓に親近感をいだきます。

ハナ肇は、服役中の夫から離婚費用に30万円を強要されている倍賞千恵子のために、労災で金を作ろうと、足場からわざと足を滑らせて落ちます。

それを防ごうと下で受け止めた谷啓は絶命。

ところが、お通夜の晩に、ハナ肇が谷啓の体を棺桶から引きずり出し、ダンスを踊るうちに谷啓が息を吹き返します。

ナンセンスもそこまでやるか、あっぱれという感じですね。

谷啓は倍賞千恵子にプロポーズしますが、倍賞千恵子は、「まだ夫の籍に入っている」とことわります。

もちろん、それは口実で、谷啓はいい人だけどノリきれないということなのでしょう。

もしかしたら、実はハナ肇の方を好きだということかもしれません。

女性の心は複雑ですね。

ショックで谷啓は長屋から姿を消し、工業地帯の埋立地にある廃バスで寝起きしていましたが、そのバスを潰そうとショベルカーを運転していた労働者はハナ肇でした。

なんだかんだ言って2人は再会を喜んでいるというラストです。

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『男はつらいよ』のプロトタイプ?


地上波では自粛せざるをえないようなエピソードは別として、ストーリーは、のちの『男はつらいよ』のひとつのパターンになっています。

車寅次郎が女性に惚れる。

その女性のために尽くそうと思った。

しかし、その女性を好きな男性がいた。

潔くあきらめるが、実は女性は車寅次郎の方が好きだった。

車寅次郎は、旅先でそのフラれた男性と再会する……。

今回、車寅次郎にあたるのがハナ肇で、別の男性にあたるのが谷啓です。

ハナ肇のキャラクターが渥美清ともっとも違うのは、「がさつ」であること。

『男はつらいよ』は、「ハナ肇」シリーズをよりデリケートに進化させたものなのかもしれません。

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