補完代替療法とか、統合医療といった価値観や治療法がしばしば議論になります。今週号の『サンデー毎日』(2015年3月1日号)では、『医学の進歩でこんなに変わった!「がん治療費」最新常識8』といいう記事を掲載しています。サブタイトルとして、「支出額は月平均6万円、民間療法はどこまで有効か」と書かれています。
もっとも、記事の趣旨は、治療費そのものがテーマではありません
高いお金を出して効果や安全性も定かでないものが必要なのかと、「補完代替療法」を懐疑する内容です。
「補完代替療法」。要するに、病院の通常治療だけでなく、健康食品・サプリメントや、あまたの民間療法を加える「治療法」です。
しかし、それは果たして「補完」になるのか。「“藁”をもつかみたい患者の心理に健康食ブームも加わり、効果の実感できないまま多額のカネをつぎ込む」だけではないかとリードには書かれています。
記事には、「がんの代替療法の科学的検証と臨床応用に関する研究」班や、国立がん研究センターがん研究開発費「がん代替医療の科学的検証に関する研究」などのグループが、健康食品・サプリメントの安全性や有効性を分析したところ、
臨床研究では、がんが縮小したり消失したりといった抗がん効果が「有効」とする報告はひとつもなかったことを紹介しています。
また、QOL(生活の質)では、抗がん剤の副作用を軽減するなどの効果が認められるものがあったものの、アガリクスが原因で深刻な肝機能障害に陥った症例もあると注意を促しています。
『がんの補完代替医療ガイドブック』
記事では、『がんの補完代替医療ガイドブック』(2012年)を紹介しています。
これは、補完代替療法の医学的評価や、通常治療と「併用」する上での注意点などがまとめられています。
ネットでも公開されているので、だれでも目を通せます。
http://www.jcam-net.jp/topics/data/cam_guide.pdf
『がんの補完代替医療ガイドブック』では、その補完代替療法を受ける前の注意点、そして、医師(主治医)や看護師、セラピストに確認すべきことがまとめられています。
そして、アガリクス、プロポリス、AHCC、鮫の軟骨、メシマコブなど有名な「抗がん健康食品」について、これまでどのような試験が行われたか有効性の真相が明かされています。
また現在の通常治療で、個別の補完代替療法との「併用」をどう扱うべきかを、「推奨」「容認、場合により推奨」「容認」「反対」の4段階に分けて紹介しています。
たとえば、「低脂肪食」という補完代替療法は一見ヘルシーに見えますが、治療中に低栄養の状態の患者には「避けたほうが良い(要するに「反対」)」としています。
記事は、補完代替療法を選択する価値観を尊重して慎重な表現ではありますが、最後に、ガイドブックを執筆した大野智医師(嵐の大野智と同姓同名か……)は、「その(補完代替療法の)リスクを減らしたいと思うなら、健康食品は一切使わないという選択肢もあります」と、シビアに結んでいます。
医学的に信頼するための「ふるい」
2人に1人がいずれはがんになり、部位によっては生存率が低く絶対的な治療法が確立していないことで、やれるものはなんでもやっておきたい、という患者やその家族の価値観を頭から否定することはできません。
もとより、治療するか、健康食品に頼るか、何もせず座して死を待つかは、患者サイドが答えを出すことだからです。
ただ、後悔のない判断をするためには、まず事実を知らなければなりません。
補完代替療法を検討しているなら、上記の『がんの補完代替医療ガイドブック』は最低限目を通すべきものだと思います。
そして、業者・施術者による補完代替療法の宣伝が、医学的にどのくらい信用が置けるかどうかを判断するめやすも必要だと思います。
医師の坪野吉孝氏は、『食べ物とがん予防―健康情報をどう読むか』(文春新書)などにおいて、医学的な価値を知るための「ふるい」をわかりやすく説明しています。
かんたんにご説明しましょう。
『食べ物とがん予防―健康情報をどう読むか』より
まず、具体的な研究を根拠としていないものは全く論外です。
次に、根拠となる研究があっても、試験管や動物実験だけではあてになりません。ヒトを対象とした試験が行われているかどうかを見ておきましょう。
次に、その結果は専門家の厳しいチェックを受けているかどうかを見ましょう。「学会に発表」といっても、学会なんてしょせん研究発表サークルですから、作ろうと思えばすぐに作れます。権威ある専門雑誌に論文を掲載しているかどうかが大切です。もっとも、この「ふるい」は、STAP細胞の方が見事にぶっ壊してくれましたが。
さらに、研究の内容が、無作為割付や前向きの試験かということも見ておきましょう。「前向き」とは、結果から原因を考察する(後ろ向き)のではなく、将来をみる追跡調査です。「無作為割付」というのは、それを行った人と行っていない人を比較する試験です。要するに試験の「質」が大切だということです。
最後に、その考察がその研究だけでなく、複数の研究によって裏付けられているかどうか、ということも見ておくべきことだと坪野吉孝氏はまとめています。
「えー、そんなにいっぱい『ふるい』があるの?」
と思われますか。
やはり、人間は間違い得るものですし、客観性や再現性を、現時点の水準で確認するには、そこまで行わなければならないということです。
まあいずれにしても、補完代替医療は、そもそも値段が高いと思いますね。
健康食品などは高すぎます。
私のような文無しは、その点ですでに補完代替療法とは縁がありませんが、抗がん剤のダメージの軽減等、使い方次第では否定出来ないものもあるそうですから、だったらなおさら、そこを見なおしたほうがいいのではないかなあと思います。
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