『逆に病気を呼び込んでいる44の健康法』(川嶋朗著、宝島社)を読みました。2002年に「健康増進法」が成立して以来、健康情報や民間療法は、今まで以上に私たちの暮らしに関わる機会が多くなりました。しかし、それらのすべてが正しいとはいえません。同書は、巷間流行している健康情報の中で、否定すべきものを44編選んでその理由を解説しています。
1980年代以降、我が国では第二臨調主導のもとで、社会保障制度の見直しが積み上げられてきました。
わかりやすく書きますと、医療費がパンクするから医療サービスを削る「行革」を行いますと言ったら国民は納得しません。
そこで、「民活」と「自己責任」を強調する健康「増進」を唱えることにしました。
健康管理の自己責任化と、社会保障制度を市場化へシフトさせる「構造改革」です。。
ひらたくいえば、「国は医療費をケチるよ」とはいわずに、「みなさんのカラダなのですから、健康はみなさん自身が守りましょう」と言い換えたわけです。
それが、今の健康増進法です。
立法化までの地ならし期間には、○○を食べると××によい、という様々な「健康食材」番組が登場しましたが、その先頭を切ったのが、みのもんたの『午後は○○おもいッきりテレビ』でした。
あの番組には、そういう「歴史的」な役割があったのです。
そして、健康増進法施行後は、健康情報や民間療法は、ますます私たちの暮らしに関わる機会が多くなりました。
もちろん、理由はそれだけでなく、平均寿命が延びて高齢化社会になったり、インターネットが普及して情報の量も質も増えたり、医学が発展して逆に要求が高くなったことで医学への不満が出たりしたことも、昨今の「健康情報」の氾濫の要因ではあると思います。
しかし、いずれにしてもそうした情報は、流行することが必ずしも正しいわけではありません。
根拠自体が曖昧なもの、交絡因子によって大きく結果が変わってくるものなどが少なくないからです。
ということで、前置きが長くなりましたが、
先日ご紹介した、『
ボケたくなければカレーを食べなさい』の著者である川嶋朗氏(東京有明医療大学教授)が書いた、『逆に病気を呼び込んでいる44の健康法』(宝島社)を今回ご紹介します。
巷間、健康に良いと言われていることが、実はそうではなかったという話を集めています。
もちろん、その反証的研究のすべてを川嶋朗氏自身が行ったわけではなく、医学者としてそうした覆った健康情報をまとめた書籍ということです。
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サーチュイン遺伝子は長寿の鍵とはいえない
私は、以前、HbA1c(ヘモグロビン・エイワンシー)が少し上がったために少食を実践してみましたが、5キロ近く体重がやせてしまい、ひどい目にあいました。
この書籍をご紹介する気になったのは、同書で「逆に病気を呼び込んでいる健康法」として、「長寿遺伝子のスイッチを入れるため、1日1食」という「健康情報」が取り上げられていたからです。
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同書はその健康情報を否定する理由として、「サーチュイン遺伝子は長寿の鍵とはいえず、寿命延長効果はない」が科学の主流だからと書かれています。
飢餓状態になると長寿遺伝子にスイッチが入るというのは、NHKスペシャル『あなたの寿命は延ばせる~発見!長寿遺伝子~』(2011年6月12日放送)がその発端であると川嶋朗氏は指摘しています。
番組では、マサチューセッツ工科大学(MIT)生物学部のレオナード・ガランテ教授が発見した「サーチュイン遺伝子(Sirtuin)」のスイッチが入ると、がんの抑制、活性酸素の消去、筋力の強化、糖尿病・認知症の予防、脂肪の燃焼、老化の抑制などに働くが、空腹時にスイッチが入ると放送されました。
さらに、サーチュイン遺伝子は赤ワインに多く含まれるポリフェノールの一種、レスベラトロールによって活性化されるとも紹介。それ以来、赤ワインは長寿の健康食品に祭り上げられてしまったわけです。
しかし、川嶋朗氏は、グラス1杯の赤ワインに含まれるレスベラトロールの量は、実験に使われた投与量の0.3%にすぎず、人間の体重に置き換えると、1日にボトル100本前後を飲まなければならない量なので、赤ワインでサーチュイン遺伝子を活性化するのは非現実的であると断言。
そもそも、少食でサーチュイン遺伝子が活性化するという研究自体、データの取り方に致命的な誤りがあり、今では論文も否定されていることを紹介。レオナード・ガランテ氏自身が、自身が行なった過去の実験には不備があったことを認めています。
たばこはやはり健康によくありません
それ以外の否定すべき健康情報には、このようなものも書かれています。
・水をたくさん飲む
・がん予防ににんじんジュースを飲んでいる
・肉はなるべく食べない
・タバコは健康に悪いので禁煙している
・コレステロールの原因になるので卵は1日1個しか食べない
・血圧高めで塩分を控えている
・低カローリダイエットをしている
・ジムに通って筋トレしている
・炭水化物抜きダイエットをしている
・紫外線に当たらないようにしている
・風邪のときは抗生物質を飲む
・毎年、健康診断を受けている
同書によれば、健康のためならこれは全部「間違い」ということです。
理由については同書をご覧ください。
ただ、その中には全面的に賛成でよいかどうかは一概にいえないようなものもあるような気もします。
たとえば、「風邪のときは抗生物質を飲む」は、私の妻もそうでしたが、肺炎をこじらせれば抗生物質は否定できません。
これは、単なる風邪なのにやみくもに飲む、処方することの弊害を説いたもので、万病のもとである風邪の進行具合によっては、医師の管理下における抗生物質の使用はあり得ない選択ではないと思います。
あとは、やはり「タバコは健康に悪いので禁煙している」を入れているのが、わかりにくいように思います。
発がん物質のカタマリともいえるたばこをやめて何が悪いのでしょうか。
じゃあ、たばこを吸ったほうが健康にいいのでしょうか。
そうではありません。
同書は、「タバコが健康に悪影響を与えることは間違いありません」と断っています。
だったらなぜそれでも否定すべき健康情報に入っているか。
喫煙率は低下しているのに、肺がんは増えているからだそうです。
説明は省きますが、これは、タバコに害があることを否定する論理にはなっていないですよね。
同書は、たばこをやめるかどうかは価値観の問題であり、タバコさえやめれば健康になるという勘違いをしないように、という意味で入れているようです。
そういうことでしたら、私が編集者だったら、もっとわかりやすく
×「タバコは健康に悪いので禁煙している」
↓
○「タバコをやめれば肺がんにはならない」
としたと思います。
医学は、より高次の説で既知が否定されていくものです。
今は正しいことになっていても、いずれそれは否定される時が来るかもしれません。
同書の結論は、そんな不安定で瑣末な健康情報にこだわるよりも、ストレスフリーの方が健康に良い、となっています。
病気にならないようにと気をかけるあまり、逆に病気になるようなことは避けたいものです。
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