『乱れる』(1964年、東宝)を観ました。成瀬巳喜男監督が手がけた、高峰秀子と加山雄三による義姉弟の“禁断の愛”を描いた作品です。キムタクではありませんが、何を演じても加山雄三と言われたシンプルなキャラクターが、今回はうまく作品のモチーフにハマッて、観ていて非常に心地良い作品に仕上がったと思いました。(画像は『乱れる』より)
礼子(
高峰秀子)は、戦争中勤労奉仕で静岡・清水に来た時に、森田屋酒店の女将さん・しず(三益愛子)に見初められ、そこの長男と結婚しました。
ところが長男は戦死し、以来20年、森田屋酒店をバラックから立て直し、残されたしずや、夫の弟・幸司(
加山雄三)の面倒を見ながら切り盛りしています。
幸司は、大学を出てから東京の会社に就職したものの、すぐに辞めてしまい、ホステス(
浜美枝)と遊びで付き合ったり、商店街の店主たち(柳谷寛、十朱久雄、
佐田豊)と麻雀に明け暮れたりして、まじめに働きません。
すでに嫁いでいる森田屋酒店の長女・久子(草笛光子)は、礼子の功労を軽視。幸司が怠け者なのは礼子がいるからであるといい、礼子にはお役御免させて、幸司に跡を継がせたいと思っています。
次女の孝子(白川由美)は、いったん結婚に失敗したものの再婚。“出戻り”の立場なので久子ほど自分の主張はしませんが、経験上再婚するもの悪くない、という立場です。
商店街にはスーパー「清水屋」ができ、店員の森園(藤木悠)は、加賀食料店(柳谷寛)の半値以下で鶏卵を販売。
店の先行きを儚んだ柳谷寛は自殺してしまい、妻(中北千枝子)は、スーパーに殺されたと絶叫します。
そんな時、久子の夫(北村和夫)は幸司に、店をスーパーにする気なら資金を出すと提案。
幸司は、店の功労者である礼子を社長にすることを条件としますが、礼子を追い出したい久子の意向を受けている久子の夫は、ウンと言いません。
そんなとき、幸司は礼子に、告白します。
礼子と一緒にいたいから東京の会社をやめ、礼子の仕事を奪いたくないから、あえて怠け者だったことも告白。
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告白からクライマックスへ
以来、2人の関係はぎこちなくなります。
といっても、悪気のない“若大将”幸司は告白後はケロッとしていつもどおりなのですが(笑)、告白された礼子の方はうろたえてしまい、つっかけ荒く話したり、いつも分けてあげるおかずを「あたしが食べるのよ」と分けなかったりと、意識しっぱなし。
『乱れる』より
私は、こういう女性の“面倒くさい自己表現”は実は苦手なのですが、我が同郷(東京大田区・蒲田)の“デコちゃん”のこのシーンは思いっきりいじらしいので、微笑ましいというか羨ましいというか、心地よく観ることができます。
さて、スーパーの話や幸司の件などから、礼子は居づらくなって、結局故郷の新庄に帰ることにします。
すると、その成り行きを作った張本人のくせに、幸司は礼子を送って行くと言い出し、しかも最寄りの駅までではなく、何と新庄まで付き合う心づもりです。
そして、車中は、礼子に差し入れたみかんも弁当もみんな自分が食べています。
この幸司の悪気のなさも、なかなか真似できません。
礼子は、そんな幸司の悪気のない一途さや、車中向い合って幸司の寝顔を見ているうちに、義姉の立場を措いて、1度だけ男女の関係に踏み込むことを意識し、新庄の手前の大石田駅で途中下車。銀山温泉の旅館に向かいます。
部屋は布団が並べて敷かれ、礼子は、こよりを幸司の薬指に巻きます。
そして、「女ですもの。あなたから告白されてから、あなたの姿が見えないと、あなたを探すようになったわ。そのくせ、あなたがそばにいると、不安で不安で、気が狂いそうだったの」と告白。
このシーン、そういうことを言われた経験のない私は、拳を握りしめてドキドキしています(汗)
そして、幸司は礼子を抱き寄せ、礼子も自分から手を回します。
……ところが、ところがです。
ここで礼子は一線を踏み越えられず、何とキスを拒絶!
そして、急転直下、悲劇的な結末が……
いつもネタバレごめんですが、今回のラストはやはり、実際の作品を御覧ください。
もしかしたらネットの何処かに書かれているかもしれませんが、私は、男女の愛、とくにこうした禁断の愛はよくわかりませんので、私の述べる結末ではなく、やはり実際にご覧になった方がいいのではないかと思います。
「義姉さん」と呼ばなければよかったのかも……
幸司が、一途なのは良かったのですが、礼子を名前で呼ばず、一貫して「義姉さん」と呼びつづけたことが、若大将にとっての“敗因”だったのかもしれません。
いったんその気になった礼子も、ふと我に返って「義姉さん」に戻ってしまったんでしょうね。
ネットのレビューを見ると賛否両論ありますが、昔の作品でも十分感情移入できたので、私にとっては秀作だと思います。
同時上映は、以前ご紹介した『喜劇駅前女将』だったそうです。
『喜劇駅前女将』60~70年代オールスターと当時の人気力士が出演!
『喜劇駅前女将』より
出演者の合計の出演料は、もしかしたら『喜劇駅前女将』の方が高かったかもしれませんが、たぶん『喜劇駅前女将』がB面・プログラムピクチャー扱いだったんでしょう。
最近よくご紹介している『若大将』シリーズも、最初は併映作扱いだったのが、人気シリーズになったのです。
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加山雄三のキャラクターは、俳優として深みがないような評価もありますが、こうした若大将シリーズや本作を観ると、一騎当千の個性じゃないかと私は思っています。
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