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平塚八兵衛さん、昭和史に残る異質な凶悪事件を手かげた刑事人生 [社会]

平塚八兵衛さん、昭和史に残る異質な凶悪事件を手かげた刑事人生

平塚八兵衛さん(ひらつかはちべえ、1913年9月22日~1979年10月30日)の生まれた日です。退職時の階級は警視。小平事件、帝銀事件、下山事件、BOACスチュワーデス殺人事件、吉展ちゃん誘拐殺人事件、カクタホテル殺人事件、三億円事件などを手掛けた刑事です。



先日、漫画図書館Zをご紹介したときに、あわせて佐藤まさあきさんの『実録昭和猟奇事件』全6巻が公開されていることも書きました。

本書は、昭和に起こったひときわ異質な凶悪事件について、佐藤まさあきさん自身が取材してマンガにした「完全ノンフィクション・ドキュメンタリー・コミック」(公式サイトより)です。

その中には、冒頭に書いた帝銀事件、吉展ちゃん誘拐殺人事件についても取り上げています。

帝銀事件


帝銀事件は、『実録昭和猟奇事件』の4巻に掲載されています。

1948年1月26日に起こった、帝国銀行(現三井住友銀行)椎名町支店(東京都豊島区長崎、現在は存在しない)で発生した毒物大量殺人事件です。

犯人が行内で、「近くの家で集団赤痢が発生した。GHQが行内を消毒する前に予防薬を飲んでもらいたい」と言って、客や行員合計16人(8歳から49歳)に遅効性の青酸化合物を飲ませて12人がなくなった事件です。

平沢貞通という画家が逮捕されました。

化学の知識もない画家が、どうして容疑者になったのか。

理由は3つあります。

まず、佐藤まさあきさんの描き方では冤罪であり、GHQの実験であったことを示唆しています。

当時アメリカに占領されていた日本は、その真相に迫れなかったというわけです。

ふたつめは、平沢貞通が犯罪者ではあったことです。

過去にはつまらない詐欺でパクられています。

ただ、それについても佐藤まさあきさんはマンガの中で、詐欺と大量殺人では犯罪の質が違うので、詐欺師だからこそ帝銀事件は違うのではないか、という見方をしています。

そして3つ目は、平塚八兵衛さんの取り調べで自白していることです。

現代では自白による供述ではなく、客観的な証拠を採用していますし、そもそも自白「させる」強引な取り調べ自体が否定されています。

ただ、科学的な捜査が行われていなかった当時は、容疑者の証言が事件の決め手になっていることが多かったため、その“強引さ”しか頼るものがなく、結果的にそれが真相に到達できたこともありました。

吉展ちゃん事件


吉展ちゃん事件とは、1963年3月31日に、東京都台東区入谷町(現松が谷)で起きた誘拐殺人事件です。

お金に困っていた小原保は、黒澤明監督の『天国と地獄』予告編を見て営利誘拐を思いつきます。

そして、吉展ちゃんをすでに金を受け取る前に殺してしまいますが、捜査員はチームワークの悪さもあって身代金をとられた上に逮捕もできませんでした。

その後、公開捜査となり、ザッピーナッツ、フランク永井、ボニー・ジャックス、市川染五郎(現松本白鸚)などが、『かえしておくれ今すぐに』という、小原保に呼びかける歌をリリース。

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私は、事件後何年かたってから、ラジオ番組でこの曲を聴きましたが、それはそれは重い、そして子供心には怖い曲でした。

小原保は、当初から容疑者の一人として捜査線上に上がっていましたが、アリバイがあったためにクロにできませんでした。

そこで、平塚八兵衛さんが捜査に参加。

母親のいる福島県まで行って、丹念に聞き込みを行って崩せないと思われていたアリバイを崩し、逮捕にこぎつけました。

「加害者の人権というが、被害者と被害者の人権はどうなるんだ!!」というのは、その時平塚八兵衛さんが言ったとされる名言です。

この誘拐事件を機に、身代金目的の営利誘拐が通常の営利誘拐よりも重い刑罰を科すよう改められたり、犯罪捜査における電話の逆探知が認められるようになったりしました。

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粘り強さと足で裏を取る地道な作業の賜物


平塚八兵衛さんは、「落としの八兵衛」「喧嘩八兵衛」「鬼の八兵衛」「捜査の神様」など数々の異名で知られる敏腕の刑事として、退職後も事件を報じるテレビのコメンテーターをつとめました。

ワイドショーではしばしば、元刑事に事件の足取りを追わせたり、犯人の推理をさせたりしますが、そのさきがけになった方です。

帝銀事件や3億円事件のように、手掛けた事件のすべてをすっきり解決したわけではありませんが、人間が別人格の人間に、自ら犯した罪を打ち明けるに至るのは、粘り強さと足で裏を取る地道な作業の賜物だと思います。

といっても、単なる捜査の鬼ではなく、罪を憎んで人を憎まずの考えから、死刑執行後の小原保が、先祖代々の墓に入れてもらえなかったことを悲しむ気持ちも持ち合わせていました。

戦後史上の大事件、ご存知ですか。

刑事一代―平塚八兵衛の昭和事件史 (新潮文庫)
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実録昭和猟奇事件4
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  • 作者: 佐々木 嘉信
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  • 発売日: 2004/11/28
  • メディア: 文庫



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コメント 10

pn

被害者の人権はもちろんですが加害者の親族の人権も何とかしてやらないといかんと思う、犯人の親ってだけで後ろ指差されるのはなんかなぁ。
by pn (2019-09-22 21:48) 

ナベちはる

>容疑者の証言が事件の決め手になっていることが多かったため、その“強引さ”しか頼るものがなく、結果的にそれが真相に到達できたこともありました。

事件を解明するためのやり方が他になければ、当時の事件解決方法として、自白を用いたのは致し方ない部分もありますね。
by ナベちはる (2019-09-23 01:23) 

ヤマカゼ

3億円事件は覚えています。未解決ですね。
by ヤマカゼ (2019-09-23 05:52) 

なかちゃん

極端な言い方かもしれませんが、被害者の人権の前には加害者の人権など無しでいいと思います。
ず~~っと昔からのボクの持論です(^^;

by なかちゃん (2019-09-23 08:22) 

kou

個人的には昔の事件の自白はかなり怪しいもののあると思ってます。
最近の報道は被害者側の人権は全く無視ですね。芸能人にも元暴走族の総長なんてのを売り物にしている人もいますが、陰で何人もの人を傷つけてきたんでしょうね。
by kou (2019-09-23 10:57) 

扶侶夢

「帝銀事件」と同じく「下山事件」「三鷹事件」にもGHQが絡んでいたと言われています。当時の迷宮入り事件の一部には何らかの関係でGHQ絡みと噂されていますね。「三億円事件」も一時、犯人はアメリカに逃げたとかアメリカ人のブレーンが居たとか言われていましたね。
吉展ちゃん事件も小原保の名もリアルタイムで耳にしていましたが、ザ・ピーナッツその他が歌う『かえしておくれ今すぐに』は初耳で驚きました。
by 扶侶夢 (2019-09-23 11:59) 

Take-Zee

吉展ちゃん事件、かわいそうな結末でした。
今はこんな事件が連日起きています・・
お金の要求がないだけです。

by Take-Zee (2019-09-23 16:23) 

ヨッシーパパ

特集が組まれるほど、活躍された刑事だったのですね。
by ヨッシーパパ (2019-09-23 18:19) 

えくりぷす

ご無沙汰しております。平塚八兵衛は、数年前に渡辺謙が演じたドラマが印象に残っています。(先月も再放送したようで…)
吉展ちゃん事件の犯人を自白させるテープもテレビで流したはずですが、朴訥とした語りで、意外な印象を受けた記憶があります。もう一度聞いてみたいです。
by えくりぷす (2019-09-24 15:04) 

犬眉母

昭和史の生き字引の一人だったんでしょうね。
ノンキャリで、殉職ではないのに退職時に
昇進というのは、この方の功労を表していると思いました。
by 犬眉母 (2019-09-27 00:43) 

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