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『喜劇駅前金融』蒲田出身の松尾和子もシリーズ出演 [東宝昭和喜劇]

喜劇駅前金融

『喜劇駅前金融』(1965年、東京映画、東宝)を鑑賞しました。喜劇駅前シリーズ(全24作)の第12作目です。本作は、尾崎紅葉の『金色夜叉』を、お馴染みのメンバーの設定に置き換えた話です。現在の大田区蒲田出身である松尾和子も出演。和田弘とマヒナスターズとともに『駅前小唄』を歌い、当時の歌謡界の流行だったハワイアンミュージックを聞かせてくれます。(上の画像はDVD『喜劇駅前金融』解説より)



尾崎紅葉の『金色夜叉』は、鴨沢宮(お宮)に結婚の約束を反故にされた間貫一の話です。熱海の海岸で、「来年の今月今夜のこの月を僕の涙で曇らせてみせる」と悔し泣きして高利貸しになる話ですが、まさにそのストーリーを東宝昭和喜劇の世界でなぞったのが、今回の『喜劇駅前金融』です。

間貫一がフランキー堺、鴨沢宮が大空真弓。

シリーズおなじみの登場人物たちも、それぞれお金によって人生を左右されています。

また、同作にはカメオ出演に近いのですが、当時淡路恵子の「夫」(未入籍)だったビンボー・ダナオが出ています。

でも、同年、2人は離婚しているのです。

翌年には萬屋錦之介と結婚していますから、少なくともこの時期、夫婦としてはいい関係ではなかったのではないでしょうか。

それでも出演したのは、たとえば、別れる前に記念に共演しておきたいなど、淡路恵子の意向があったのかもしれません。

ネタバレ御免のあらすじ


まずは主役の3人の設定から。伴野孫作(伴淳三郎)とかね子(乙羽信子)夫妻は高利貸しです。徳之助(森繁久彌)は40歳で試験に受かったばかりの新米税理士。

次郎(フランキー堺)はクラブのトランペット奏者です。会計学の権威と言われる前川博士(加東大介)と花子(沢村貞子)夫妻に見込まれるものの、学者の世界を飛び出した身です。

フランキー堺は、加東大介の娘(大空真弓)と婚約中でしたが、大空真弓は加東大介夫妻の勧めもあって、森繁久彌と大学の同期で、祖父の代から山師だった成金社長の高岡(三木のり平)と結婚。

熱海の海岸でフランキー堺と大空真弓は、『金色夜叉』の貫一・お宮のシーンを再現します。

そして、「自分は金に負けたんだ」と思ったフランキー堺は、伴淳三郎夫妻に頼んで高利貸修業を始めます。

森繁久彌は、やはり大学時代、恋人(淡路恵子)にお金持ちの老人(有島一郎)と財産目当ての結婚をされたショックで独身。しかも大学の後輩のフランキー堺に生活費を用立ててもらうほど赤貧でしたが、顧問をつとめる料理屋の女将・圭子(淡島千景)に税理士としての頭脳を見込まれ、一緒に暮らすようになります。

要するに、ここまでは、金のある人が「幸せ」も買ってしまうという展開です。

その後、「昭和40年不況」(←本当にあった)になり、クラブは倒産。淡島千景の料理屋も、三木のり平の会社も金回りが悪くなります。

その結果、高利貸しの伴淳三郎は妻に逃げられます。

フランキー堺も拝金主義が嫌になってトランペッターに戻り、自分の有り金をはたいてクラブホステス・染子(池内淳子)に債務保証してもらっていた金を支配人(山茶花究)に返します。

森繁久彌と淡島千景もお金のことで喧嘩になりますが、仲直りします。

三木のり平は、どうせ金で買った女房だから逃げられると思い込み自殺しようとしますが、大空真弓はそれを否定して、2人で屋台引きから出直します。

結論は、金がなくても愛情があれば人はともに行きていける、というきれいなまとめ方です。

全体としてシリーズでは今までにない真面目な作り方でしたが、相変わらず、伴淳三郎だけはアチャラカな役回りです。

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大田区蒲田出身の松尾和子


今回注目したいのは松尾和子。

松尾和子
『アサヒ芸能』(2013年11月7日特大号)より

フランキー堺にちょっぴりお熱のクラブホステス・池内淳子の同僚・松井和江役です。

佳境に入り、淡島千景が森繁久彌を刺激するために、森繁久彌の見ている前で他の男(ビンボー・ダナオ)とダンスをするのですが、森繁久彌が負けじとダンスをする相手が松尾和子です。

松尾和子は、翌66年にも『喜劇駅前弁天』に出演しています。

出身(生まれ)は蒲田区。今の大田区の蒲田です。またひとり、東宝昭和喜劇に大田区出身者の登場です。

ちなみに、このブログでこれまでご紹介した大田区生まれ、もしくは大田区出身の東宝昭和喜劇出演者は、淡島千景(池上)、フランキー堺(池上)、小沢昭一(蒲田・女塚)、立原博(大森・入新井)、犬塚弘(大森・山王)、谷啓(田園調布)などです。

やはり大田区の梅田(今の西馬込)に豪邸を構えていた、力道山が経営するクラブ・リキの専属歌手だったときにレコード会社のビクターにスカウトされました。

『アサヒ芸能』(2013年11月7日特大号)には、「力道山『没後50年』の新事実」という短期集中連載(全3回)の第1回として、「『力道山の遺体のそばで号泣していた』松尾和子」と書かれています。

力道山の記事に載る松尾和子
『アサヒ芸能』(2013年11月7日特大号)より

同誌によると、松尾和子は力道山の寵愛を受けた芸能人の一人だったとか。

松尾和子は、1959年に『グッド・ナイト/東京ナイト・クラブ』でレコードデビュー。

『グッド・ナイト』は和田弘とマヒナスターズ、『東京ナイト・クラブ』はフランク永井との共唱ですから、ビクターとしては相当期待もしたのでしょう。

やはり、和田弘とマヒナスターズが松尾和子を迎え入れた、彼女にとっては第2弾の『誰よりも君を愛す』(1960年)は、「第2回レコード大賞」で大賞を受賞しました。

『誰よりも君を愛す』のジャケット
『サウンドファインダー』より
http://www.soundfinder.jp/products/view/1483190

和田弘とマヒナスターズは、ハワイアンミュージックからスタートしていますから、本作でもその曲調に貫かれた『駅前小唄』を披露しています。

『駅前小唄』
DVD『駅前金融』より

ムード歌謡ないしはムードコーラスといわれるジャンルは、和田弘とマヒナスターズ&松尾和子が先鞭をつけ、その後の黒沢明とロス・プリモス、鶴岡雅義と東京ロマンチカ、ロス・インディオスらの活躍につながっていったのではないかと思います。

余談ですが、ムード歌謡というと、森聖二や三條正人の、切なく心に響く美しい歌声が蘇ります。

本作を見ているうちに、ムード歌謡についても調べてみたくなりました。

喜劇 駅前金融 [DVD]

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