東宝クレージー映画。これまでこのブログ「戦後史の激動」で何度も記事にした、植木等主演作品や、ハナ肇とクレージーキャッツのメンバー全員が出演した1960年代の東宝映画30本のことを指します。作品のレビューを見ると、必ず「この作品を見ると明るく前向きな気持ちになれる」と書かれるのですが、その理由が今回わかりました。
『クレージーの殴り込み清水港』(1970年、東宝)を収録した『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジンVol.28』(講談社)が、昨日発売になりました。
東宝黄金時代といわれた60年代の同社看板シリーズだったクレージー映画28本(『若い季節』2本含む)、森繁久彌の社長シリーズ12本、てなもんやシリーズ3本、コント55号2本、喜劇駅前シリーズ5本で合計50作品。今回はその28作目のリリースです。
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東宝 昭和の爆笑喜劇DVDマガジン 高度経済成長時代の“笑い”
映画DVDとともに作品に関連した読み物も加えて、書籍コードで発売されています。
全50巻の半分を超えた今作は、石橋エータローが抜ける前の最後の「7人のクレージーキャッツの作品」です。
『クレージーの怪盗ジバコ』より
ストーリーは、追分の三五郎(植木等)が、諸事情から森の石松(谷啓)になりすまし、清水の次郎長親分(ハナ肇)の名代で150両持って仏の友吉親分(北沢彪)の待つ木曽へ向かう。
が、途中、女(夏圭子)に金をスラれてしまう。
村の一膳飯屋(石橋エータロー、星由里子)で、証文を書いてメシにありつきやっと仏一家に辿り着いた三五郎は、悪代官(田武謙三)と地元ヤクザの鮫造(高品格)が結託し、友吉親分が借金のかたに娘のお葉(内藤洋子)をさし出せといわれていることや、三五郎の金をスッたのも鮫造一家であることを知る。
そこで、三五郎は森の石松と奇想天外な策略をめぐらして事態を動かし、最後は清水次郎長のトリックで鮫造一家は全員御用になるという話です。
清水次郎長は、水戸黄門や忠臣蔵などと並ぶ時代劇の定番ですが、今回は、今風にいうとスピンオフ作品といえるでしょう。
ヒロインは、これまでのクレージー映画に出てくる浜美枝や団令子や野川由美子らではなく、いちばん人気があった頃の内藤洋子です。
ただ、時代劇も面白いのですが、やっぱりクレージー映画は、どちらかというとより感情移入できる現代の方が設定としては面白いかもしれませんね。
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なぜ東宝クレージー映画を見ると元気が出るのか
ところで、収録されているのはDVDマガジンということで、毎回いろいろな読み物が掲載されているのですが、毎回関係者がエッセイを綴る「爆笑喜劇バンザイ!」というコーナーには、クレージーキャッツの歌の作詞や出演番組の構成作家を担当した、青島幸男氏の長女である青島美幸氏が登場。
青島幸男氏の歌についてこう述べています。
そんなクレージーの歌を作った父は若い頃に肺を患い、死にたいと思ったこともあったようです。でも結局、「どっちみちつらい目には遭うんだ」と吹っ切れて暗闇から青空が見えた。そのときの解放感がクレージーの歌詞に結びついているんだと思います。「生きるって切ないね」と言いながら、「でも、所詮そんなものでしょ。だから負けないで生きていこうよ」というメッセージが歌詞にこめられていますよね。
だから落ち込んだときに聴くと元気が出ます。私はいじめられっ子でしたが、中学3年生のときにクレージーが歌う父の曲で暗い気持ちが吹っ切れました。以来、私はスーダラ教の信者なんです(笑)。
ここを読んだとき、
なるほど!
と、私は思いました。
クレージー映画というと、根拠はないけど、見ると明るい気持ち、前向きな気持ちに、なるというのは、私だけでなくみなさんのほぼ共通した感想です。
『クレージー作戦くたばれ!無責任』より
ですが、ではどうしてそうなれるのか、ということについて、私は明確な答えを見出せずにいました。
たしかに作中、設定は違えど毎回植木等は、「明るく行こうよ」「パーッと行こうよ」と言っています。
『クレージー作戦くたばれ!無責任』より
しかし、ストーリーはよくよく見ると、挫折や失敗が多く、しかもそれは自分の力不足というより、他人に裏切られたり、足を引っ張られたりする、結構暗くて痛ましい展開ばかりです。
『クレージー作戦くたばれ!無責任』より
かといって、その後の展開は決して、黒いものでも屁理屈で白いと思い込んで自分をごまかす「ポジティブシンキング」とは違うんですね。
落ち込むシーンもちゃんとありますから。
『クレージー作戦先手必勝!』より
『クレージー作戦くたばれ!無責任』より
要するに、不幸・不運の事実は素直に落ち込む。
逃げずにとことん落ち込んだ上で、でも、まあ人生そういうこともあると思い直す。
生きている限りは、道を探して前に進まなければならないんだと、粛々と切り替えていくわけです。
つまり、クレージー映画の明るさは、無理に心がける、建前やキレイ事の明るさではなくて、人生のあらゆる出来事を真正面で受け止める「悟った明るさ」なので、そこには哲学的な説得力というか、真実を感じるのです。
思えば、私自身の人生も26歳の頃、胸を患い、青島幸男さんが大学院を中退したように、せっかく入り直した大学を続けられませんでした。
せっかく自覚的に考えた人生設計がそこで壊れてしまい、3年前には火災によってそれまで積み上げてきたあらゆるものが台無しになってしまいました。
そんな私にとって、「生きるって切ないね」「でも、(人生)所詮そんなものでしょ。だから負けないで生きていこうよ」という青島美幸さんの理解は、我が意を得たりという心境なのです。
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