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「金権編集長」はブラックジャーナリズムか [スポーツ]

『「金権編集長」ザンゲ録』(文藝春秋社)という書籍を、今しがた読み上げたばかりです。著者はターザン山本氏。新刊ではないのですが、検索するとレビューのブログ記事が続々出てきます。おそらく私は、それらのブログとは少し異なるニュアンスで同書について感想を書けると思うので、ここで記事にします。

「金権編集長」ザンゲ録

ターザン山本氏というのは、かつて『週刊プロレス』の編集長だった人物です。

何だよ、またプロレスかよ、と仰るかもしれませんが、もちろん、このブログはプロレスブログをうたっているわけではないので、プロレスファンでなくとも知っていただきたいことも書いてみたいと思います。

それはどういうことかというと、ブラックジャーナリズムについてです。

みなさんは、ブラックジャーナリズムってご存じですか。

3年前でしたか、官房機密費から政治評論家などにお金が渡っていたことを野中広務氏が暴露しました。

ジャーナリズムを標榜するマスコミやジャーナリストが、実はその取材対象からお金をもらっている、しかも国を動かす機関から……、トンでもないことです。

こんな話まででてしまったら、今さら、それ以外のメディア、たとえばスポーツや芸能などでそのような癒着を知ったところで、もう驚きもしないでしょう。

これをいいか悪いかと言われれば、もちろん悪いに決まっています。

ただ、その場合、そこで動くお金の見返りが、具体的に約定として記されているわけではありません。「よきにはからえ」の世界です。我が国の付け届け文化と無関係ともいえず、それゆえ、こうしたやりとりはいつまでたってもなくなりません。

マスコミの堕落ではあるけれども、客観的に「ジャーナリスト魂を売った」とまでいえるのかどうかは一概に言えないのは歯がゆいところです。

一方、ブラックジャーナリズムというのは、明らかに動くお金の目的がはっきりしていることです。

たとえば、ある業界のA社とB社が争っている場合、どちらかがメディアを使って叩き記事を書きライバル社にダメージを負わせ、その見返りにそのメディアに金を払うのがブラックジャーナリズムです。

または、メディア自体が叩く対象に直接「記事に書くぞ」と脅して、何らかの見返りを得る場合もあります。

そのような経緯でできた叩き記事というのは、往々にして第2弾、第3弾と続けざまに出版されます。量的な攻撃でによって、相手はダメージを受けるし、メディアは依頼主から報酬を得られるために続けざまに出ることが多いのです。

いったん頼んだ方は、後ろめたいので、メディアの企画する第2弾、第3弾を断れないということも見通してのことです。

それをネタに金をもらっている点で「ジャーナリスト魂を売った」行為であるし、何より、この手法はもう、裏社会のやり方そのものなんです。

つまり、ブラックジャーナリズムというのは、反社会的な言論行為といっていいと思います。

そして、内容も、自分たちの利益のために行っているので、社会的な公益性をもった内容ではなかったり、決めつけやトバシに満ちたものであったりすることが多いです。

私はその点で、「よきにはからえ」と「ブラックジャーナリズム」は、どちらもけしからんことではあるけれども、両者には線引きができるし、第一義的に撲滅すべきは後者であると考えています。

とまあ、いつものように前置きが長くなりましたが、『「金権編集長」ザンゲ録』には、タイトルで想像がつくと思いますが、ターザン山本氏が、プロレス団体から金をもらっていたことが告白されています。

この方のいちばんの疑惑は、ジャイアント馬場の全日本プロレスを助けるために、メガネスーパーが作った団体SWSの叩き記事をターザン山本氏が書いたのではないかということです。

たぶん、プロレスファンはそこが一番知りたいところだと思います。『噂の眞相』というスキャンダル雑誌には、当時、ターザン山本氏はジャイアント馬場からマンションをもらったとまで書かれました

同書によると、「マンションをもらった」事実はないが、1度だけジャイアント馬場から50万円入りの茶封筒を受け取ったと書かれています。

それをもって、「やっぱりSWS叩きは馬場が買収して仕組んだ」とレビューで書いている人もいますが、それは同書の内容を正確にレビューしたものとはいえません。なぜなら、後に書くように、実態は逆だったからです。

ターザン山本氏は、全日本プロレスに限らず、新日本プロレス、UWF、FMWなど主要団体から、1回につき20万円から50万円をせしめていますが、それらは一応、「よきにはからえ」のたぐいであり、心情的にはともかく、法的に買収と認定できるかというと、それはむずかしいと思います。

要するに、プロレス団体と当時の『週刊プロレス』編集長の間には、「お車代」などでその金額が当たり前に飛び交う関係にあったと書かれているのです。

何より、ターザン山本氏がもっとも金をもらったのは、驚くべきことに、叩いていたメガネスーパーの社長からで、その額は同書を読む限り1000万円を超えているのですから、買収というならむしろSWSの方でしょう。

当時、『週刊プロレス』はしつこいほど金権プロレスSWSと叩きキャンペーンを行っていましたが、あるときから批判が行われなくなりました。私も当時、不思議に思いました。

真相は、裏でお金をもらって記事を手控えていたのです。これは、他の団体の場合と違い、メガネスーパーの明確な要望に基づいて行われた「手心」ですから、ブラックジャーナリズムの範疇にあると疑える行為です。

ただ、メガネスーパーの場合、社長の方からお金を出しているので、これだけなら、ターザン山本氏は、「メガネスーパーには自分からせびったわけではない」と言い訳するかもしれません。

しかし、同書には、自分からせびったケースも書かれています。相手は馬場元子さんです。そう、ジャイアント馬場夫人です。

繰り返しますが、ターザン山本氏は、買収されたのではなく、自分からせびったのです。

馬場元子さんは、このとき、登記上は役員ではありませんでしたが、団体運営に関わっていたことは明らかです。

その方に金をせびるというのは、本人の意図や自覚がどうであれ、一度叩き記事を書いて恩を売ったのをいいことに、いつまでも金をせびり続ける裏社会的なやり方です。

ターザン山本氏は「金権」という表現でくくっていますが、もらった金は、少なくとも「よきにはからえ」とは異なる、ブラックジャーナリズムを疑えるものが含まれているのです。

この記事を機会に、ブラックジャーナリズムという手法がマスコミ業界にはあるのだ、ということはみなさんにも知っていただければと思います。

微に入り細を穿つ個人攻撃記事を書くようなスキャンダル系媒体などは要注意です。

「金権編集長」 ザンゲ録

「金権編集長」 ザンゲ録

  • 作者: ターザン山本
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2010/06/18
  • メディア: 単行本



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