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『待ってくれ、洋子』が認知症を“晒した”意義は? [芸能]

『待ってくれ、洋子』(主婦と生活社)という「暴露本」が私の手元にあります。著者は昨年亡くなった長門裕之さんです。認知症で要介護状態だった妻の南田洋子さんとの生活を綴った本です。今日はその件について書いてみます。

暴露本の戦後史という視点では、先日、穂積隆信氏の『積木くずし 最終章』(駒草出版)について書きましたが、それはたんなる暴露本ではなく、子育てや人間の業(ごう)がテーマになっていて、私には非常に重い読み物でした。

『待ってくれ、洋子』の場合も、「老老介護の現実と夫婦愛」という重いテーマがあります。

大映、日活、さらにはテレビドラマでも活躍した往年の名女優・南田洋子さんについては、書籍を上梓する前に、長門裕之さんが2009年4月に病気を発表。テレビ番組で公開していました。

それに対して、芸能界では非難の声が上がっているといわれました。

たとえば、里見浩太郎が憤慨して、自分の舞台に出演予定だった長門裕之さんの出演を取りやめたと週刊誌に報じられ、ネットでも、「あんな変わり果てた姿をテレビでうつすなんて」などと、長門裕之さんを批判する意見が出ました。

しかし、私はその意見には必ずしも賛成できませんでした。

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なぜなら、それは認知症の人々に大変に失礼な物言いだからです。そのような意見が出るのは、認知症を汚い病気として世間がとらえているからではないのでしょうか。

たしかに、私も南田洋子さんが最後に出演した2005年の『いい旅夢気分』(テレビ東京)を見ていたから、南田洋子さんの変わり果てた姿を見て、驚いたことは確かです。

ただ、そこで見たのはまぎれもなく、人間の「老い」と認知症の現実です。

ありふれた一般人ではなく、あの華やかな女優が戸惑うほどの現実を迎えていることで、画面にも釘付けになり、認知症への関心も増したのではないでしょうか。

将来の自分に有り得ることの視覚的な予行練習を、私は長門夫妻から見せてもらったと思いました。もちろん、そうでない受け止め方の人もいるかもしれませんが、私のような受け止め方をする視聴者・読者がいるなら、南田洋子さんを“晒した”意義もあったのではないでしょうか。

長門が金銭目的で妻の姿を晒したからけしからん、との批判もありましたが、生きていく上でお金が必要なことも確かです。

自分一人の食い扶持の話なら、やれ男気だの、やせ我慢だのもいいかもしれませんが、介護というのは現実に金がかかるものです。無い袖は振れません。長門裕之さんがその金の出所として南田洋子さんを「晒し者」にしたとして誰が責めることができましょう。

結婚以来ずっと立派な夫ではなかったのに、今さら介護する立派な夫を気取ることが気にくわない、とする俳優仲間の指摘もありました。

いい夫を気取るなら、むしろ妻の病気の実態は隠すのではないでしょうか。そもそも、いい夫であろうがなかろうが、最期まで連れ添ったのは事実でしょう。第三者が、夫婦や夫としてのあり方をとやかくいうものではありません。

カメラが回っているときだけの介護だろう、と決めつける意見もありました。私は、そういう人を家族に持ったことのない人のお気楽な批評だと思いました。

かりに24時間の全てを捧げていなかったとしても、配偶者を介護してきた事実が色あせるわけではないでしょう。自分に置き換えて考えて欲しい。

重篤な病人が一人いるだけで、その家族は心配であり、悲しみがあり、とにかく心が安まらないものなのです。

70歳を過ぎ子供もいない長門裕之さんには、さぞ心身共に辛い生活だったと思います。誰だって苦しい時には、せめて弱音や自賛を述べてみたい。マスコミを通したその吐露ぐらい許してやっても良いではないか、と私は思いました。

介護の厳しさはテレビや本に出ていたようなものではない、とする経験者もいました。

気持ちはわかります。しかし、そこで大事なことは、介護のつらさを極限まで披瀝することではないと私は思います。そもそも比較できるかどうかは措くとして、かりにこの世でもっとも厳しそうな介護の生活をしている人をテレビや本で公にしたからといって、説得力ある番組になるとは限りません。むしろ、そこには救いようのないつらさ、悲しさだけしか表現できないかもしれません。

といっても、認知症になったタレントはみな私生活を晒せ、と申しているのではありません。

公表することに対して、何がしかの意義は認める立場をとりたい、と思っただけです。

南田洋子さんが老いさらばえた姿で人間の真実を教えてくれた映像は貴重なものです。いま女優と称する人で、芝居でもリアルでも、それだけの表現を行う覚悟や決意がある人はどれぐらいいるのでしょうか。

今やインターネットで、私生活や裏話も暴露される時代です。好むと好まざるとにかかわらず、もはや芸能人は綺麗に飾るだけでは済まない時代になっているのです。

待ってくれ、洋子

待ってくれ、洋子

  • 作者: 長門 裕之
  • 出版社/メーカー: 主婦と生活社
  • 発売日: 2009/04
  • メディア: 単行本


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1stdmain

日本人は暴露とか金儲けとか嫌うけど、自分は平気で
人の悪口とか言ったり嫉妬したりするしね。
よしあしなんて人それぞれ。
だから他人なんか気にしないでマ~イウェイ!
by 1stdmain (2012-10-02 01:16) 

はる

介護って本当にそこに身を置くと、生活は一変すると聞きます。精神的に参ってしまう人もいるでしょうし、経済的に困窮してしまう人もいます。私自身、両親のこと、そして自分や妻もいずれ年老いてしまうこと、予備知識を身につけないで立ち向かうのは無謀ですよね。
by はる (2012-10-02 01:16) 

φ(・ω・)かきかき

義母の介護、といっても周りに助けられながら行っています。私が仕事に行けるのも、介護サービスが充実してきているからです。ひとりで抱え込むことはできそうにありません。彼女は「みんなが私の面倒をみたがる」と不思議な持論を持っていて、たまにイラッとしますが仕方ありません・・・。芸能人だけでなく、一般市民でさえ私生活を噂・暴露される今日です。認知症は珍しい病気でも汚い病気でもありませんが、介護される側には隠しておきたい事実もあるかもしれません。
by φ(・ω・)かきかき (2012-10-02 04:21) 

pandan

一人で抱え込んで取り返しのつかないことも
ありますよね、周りの協力や理解は必要ですね。
by pandan (2012-10-02 05:56) 

hatumi30331

介護の現実は様々で・・・・
辛くて悲しい事がいっぱいあります。
娘は、訪問介護の仕事をしています。
スゴい場面を日々みているようですよ。
人間、いつか必ず老いるのです。
その覚悟を持って生きたいね〜^^
by hatumi30331 (2012-10-02 07:01) 

さうざんバー

人生がそれぞれあるように、死にざまもそれぞれで、介護もそれぞれ。そこから、自分にどう活かすか、だと思います。
私は、このご夫妻の介護の実際は、非常に参考になりましたよ(^^)v
by さうざんバー (2012-10-02 08:29) 

chima

認知症は大変ですよー
きっとますます人数が増えるのに
お世話する人は減るんですからね…
なるべく認知症にならないように…
と、思っているんですがうちの家系はどうもダメみたいだし…
by chima (2012-10-02 14:31) 

銀狼

私も長門・南田夫妻のこの一件に関しては、
同じような思いをもって見ておりました。
芸能人という発信力のある立場で、
認知症というものの現実を我々にきちんと知らしめて
くれたのではないかと。。。
色々な事情はあったかもしれませんが、
長門さんの姿勢を責めるべきものではないと
今でも思っております。。。
by 銀狼 (2012-10-02 18:58) 

青山実花

南田さんの認知症を公表せず、
行く先々で彼女を見た人に驚かれるより、
いっそ、発表してしまった方が、
世間の方々に一々説明する手間や、
あらぬ誤解を受けなくて済むための決断だったと
何かで聞きました。

私も長門さんは良い旦那様だったと思います。
間違った事をしたとは思っていません。
by 青山実花 (2012-10-02 23:41) 

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