マスコミの戦後史を調べてみると、マスコミはしばしば国策に関して批判精神を失い、推進する立場で一致します。
戦前の翼賛マスコミはそのもっとも極端な恥ずべき姿でしたが、その反省が十分でないまま戦後出直したマスコミは、現在に至るまでどのメディアも大なり小なりその矛盾と動揺を抱えているように思います。
では、そんなとき、マスコミは具体的にどのような「矛盾と動揺」の態度をとるのか。
マスコミを批判すべき点は、ひとつは事実を正しく伝えない「間違った報道」にあります。もうひとつは、伝えるべきことを伝えない、すなわち「タブー」があることだ、という指摘をする識者は少なくありません。
たとえば、「赤旗」(現「しんぶん赤旗」)の記者だった韮沢忠雄氏が書いた「マスコミのタブーと『赤旗』」(白石書店)という書籍がそうです。
同書は、マスコミにはいくつかのタブーがあり、それに比べて「赤旗」はこれだけがんばっている、という日本共産党員ライターらしい構成になっています。
といっても、同書は一党一派の独習文献にとどまるようなものではなく、マスコミのタブーを具体的に整理し説明したほぼ初めての良書です。
なぜなら、タブーは、客観的にどのようなタブーがあるのかを明らかにすること自体タブーであるので、一般のマスコミがそのような自己批判を行うことはありえないからです。
韮沢忠雄氏は、具体的にマスコミには以下のタブーがあるとしています。
・星(アメリカ)タブー
・クライアント(広告主)タブー
・鶴(創価学会)タブー
・菊(皇室)タブー
この枚挙については、こんにちもほとんど変わっていないことだと思います。
具体的な名前は挙げませんが、アメリカの意図にそぐわない政治家が過去につぶされたり叩かれたりしたことは確かであり、今もそういう報道が一部にあります。
ただ、タブーはこれだけがすべてではないと私は思います。
逆に日本共産党が弱いタブーもあります。
・商品(芸能事務所やタレント)タブー
・官僚タブー
一部の芸能事務所が地上波テレビをだめにした、といわれているのですが、「しんぶん赤旗」はそのへんの追及が昔からできていません。
これはタブーというより、たんに日本共産党がその分野に疎いだけだかもしれませんが。
そして、同党は自慢げに語りますが、疑問符をつけざるを得ないのが
・同和タブーです
同書では、「解同タブー」とわざと名前を変え、「わが党は部落解放同盟の暴力と戦った」と自慢話になっているのですが、日本共産党系といわれる全解連は無謬の組織なのでしょうか。
同和利権という面で見れば、大なり小なり、その関連組織に固有の問題はあるはずです。
同党は、たしかに「解同タブー」はないが、「全解連タブー」については……?
お断りしておくと、この記事はマスコミのタブーについてであり、同党の批判をしたいわけではありません。
「解同タブー」に屈せず、その批判を第一義的に行うのは同党の立場なら当然だと思います。
しかし、他の「ニュートラル」な立場の者から見れば、同党の意図や自覚がどうであれ、同和関係の組織全体に対する批判がないと、偏向しているように見ざるを得ないのです。
つまり、マスコミの報道というのは、あちらをたてればこちらがたたず、という面があり、立場によっては、批判が行き届かない場合もあるということ。
それは、タブーというより、報道の限界のようなものだと思います。
ですから、タブーのあるなしに関わらず、完璧な報道はないのだ、ひとつの報道ですべてを知った気になってはならない、ということを私たちは心しておいたほうがいいと思うのです。
2012-07-31 02:35
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在日タブーもありますが・・・・
同和タブーみたいなもんですね
by いちじく (2012-07-31 02:53)
そうですよね、側面だけしか
知らないっていうこともありますよね。
by pandan (2012-07-31 05:53)
読者がメディアリテラシーの意識を持って
情報を鵜呑みにせず・・・・
読み解いて行く方法で
自分にとってなにが必要な情報か・・・・メディアに流されず・・真実がどこにあるのか?
しっかり目を見開いていたいですね!^^
by hatumi30331 (2012-07-31 13:34)
皇室タブーについて、歴史学者の赤澤史朗さんは、天皇の戦争責任問題に関しては、昭和天皇の死去後、特に1990年代に入ってからはそのタブーが解けて、発言者を右翼が脅迫するといった事態は見られなくなっている、と指摘しています。
by ばたお (2012-07-31 15:56)
いちじくさん、コメントありがとうございます。
そうですね、いろいろ事情はあるのでしょうが
要するに触らぬ神になんとやらかもしれません。
by いっぷく (2012-08-02 02:40)
pandanさん、コメントありがとうございます。
真実は「ひとつ」、というより「全体」という見方をすれば
多様な見方から本当のことを見つけるというセンスが
身につくのかもしれません。
by いっぷく (2012-08-02 02:40)
hatumi30331さん、コメントありがとうございます。
そうですね。偉そうに書いている私も
「情弱」といいますか、流されやすいところがありますから
結論のところは自戒を込めているのです。
by いっぷく (2012-08-02 02:40)
ばたおさん、コメントありがとうございます。
ああたしかに現象的にはそうですね。
ただ今は昭和天皇の時代ではないので
タブーがなくなったというより、
天皇および天皇制の批判的潮流自体が
衰退したと見ることもできます。
何しろ、日本共産党の書記局長が、
雅子妃の出産を祝っているわけですから。
たとえば雅子妃批判は、皇室タブーがなくなった証拠
という見方もありますが
別の見方をすれば、新しい皇室の姿を模索しているように見える皇太子と、民間から入った雅子妃の夫妻だからこそメディアは批判している
つまり、批判しやすい人を批判することで
旧来からの皇室の振る舞いや存在感を守る
新しい形の「国体護持」報道ではないかと見ることもできます。
週刊誌のあれほどの雅子妃および皇太子一家バッシングは
むしろそう見たほうが順当ではないかと私は思っています。
by いっぷく (2012-08-02 02:42)
菊についてのいっぷくさんの見解。驚きました。色んな見方があるんだなぁ。凡人の私とは違った視点で世の中を見ておられるのですねー。
by φ(・ω・)かきかき (2012-08-02 09:30)
φ(・ω・)かきかきさん、コメントありがとうございます。
私も凡人です。
ただ、マスコミ報道に対しては少しだけ猜疑心がはたらくのだと思います。
by いっぷく (2012-08-04 02:47)