『ゆうひが丘の総理大臣』あっと驚く教師が来ました!室生犀星 [懐かし映画・ドラマ]
『ゆうひが丘の総理大臣』の第1回「あっと驚く教師が来ました!」(1978年10月11日、ユニオン映画/日本テレビ)を久しぶりに観ました。きょう8月1日は、作家・室生犀星の生まれた日です。室生犀星の、少なくとも作風や作品をモチーフとしていると私が勝手に思っている本作を、このブログで記事にするのは意外にも初めてです。
東京大田区・大森にある馬込文士村には、かつてその地の住人だった室生犀星の説明板があります。
室生犀星は、非嫡出子として生まれて、7歳で室生家の養子になるなど恵まれないほしのもとに生まれたにもかかわらず、健全に生きようという詩を残しています。
その室生犀星をモデルにしたのが、人気青春学園ドラマだった『ゆうひが丘の総理大臣』(1978年10月11日~1979年10月10日、ユニオン映画/日本テレビ)の主人公であるソーリ(総理)こと大岩雄二郎(中村雅俊)である、と私は思いました。
母子家庭で育った大岩雄二郎は、母親に捨てられ養護施設で育てられ、しかも途中で妹はある家庭に引き取られたため、家庭や家族を知らずに大人になったという設定です。
そして、その第26話で、漫画しか読まなかったはずの雄二郎が、室生犀星の『朝を愛す』の一節を、スラスラと諳んじるシーンが出てくるのです(1979年4月25日放送の『総理先生しっかりして!』)。
ゆうひが丘の総理大臣『総理先生しっかりして!』より
この回を観た時、ソーリ(総理)こと大岩雄二郎が、友情、親子愛などの人の絆に対して、おせっかいであることの根拠が明らかになった思いがして、以来、このドラマに、他の熱血教師ドラマにはないリアリティを感じるようになりました。
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中村雅俊の出演作品はもちろんほかにもあり、この当時だけでも『俺たちの旅』という、テレビドラマ史上語り継がれるドラマもありますが、私がもし、この当時の中村雅俊の青春ドラマからベストワークをどれかひとつ選べ、といわれたら、たぶんこの『ゆうひが丘の総理大臣』を選ぶだろうと思います。
他人の身になって考える対話型教師
作中より
養護施設で育ち、自力でアメリカの大学に入学。後輩の大野木念(神田正輝)の紹介で、ゆうひが丘学園高等学校の英語教師になった大岩雄二郎。
百田てる校長先生(京塚昌子)は、そんな雄二郎に、勉強だけでなく人間的な豊かさ・温かさを生徒に教えてほしいと期待していますが、同校を有名大学進学の名門校にしたい東郷教頭(宍戸錠)や、その腰巾着の伊井加一(小松政夫)とはウマがあいません。
校長の姪の百田桜子(由美かおる)は、教頭たちが、教師経験の浅い大岩雄二郎にトラブルを起こさせて、叔母を校長の座から引きずり下ろしたいのではないかと心配しています。
というのも、雄二郎のクラスには、授業に出てこない柴田(井上純一)、冬木(草川祐馬)、山川(清水昭博)という3人の問題ある生徒がいました。
めずらしく出席しても、授業中に漫画を読み始めます。
それを咎めた雄二郎に、柴田は、「たかが教師じゃねえか、総理大臣みたいな顔すんなよ」
それに対して雄二郎は、「この教室じゃあ、俺は総理大臣よりも上だ」
ここでついたあだ名が「ソーリ」。
このへんまでは、それまでの熱血教師ドラマにもあるパターンです。
その後、彼らはまた不登校を始め、3日以内に彼らを出席させないと、学校をやめるとソーリは約束します。
第1回で、いきなりクビをかけています。
これまでの学園ドラマでは、ここで、説教したりぶん殴ったりして、生徒が熱血先生の軍門に下るのですが、ソーリ(総理)はそれは一切やりません。
ひたすら彼らの後を追い、腹を割って話し合おうとします。
しかし、3日たっても結局彼らは出席せず。それでもソーリは彼らを責めません。
「だけどあの3人、実に可愛かったよ。俺、あの連中のことはよくわかるんだよ。だけど、今度だけは負けた」
彼らも、親子関係に問題があり、不幸なほしのもとだったのです。
ソーリ(総理)は潔く学校を去りますが、
作中より
その嘘のない行動を確認した3人は、ソーリ(総理)を引き止めて学校へ行くことにする、という結末です。
まあ、結局最後はやめないんですけどね。
これまでの青春学園ドラマのように、正論を上から押しつけるのではなく、一人の人間として対等に向き合い、信頼関係を構築して理解を得ようとするフェアな設定がいいなと思いました。
“ほしのもと”で苦労した人間ならではの、「他人の身になって考える」姿勢は、この後1年、40話にわたって、生徒や同僚教師たちとの間でも温かいドラマを繰り広げてくれます。
その中で思い出に残る傑作については、また日を改めて記事にしてみたいと思います。
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