『特捜最前線 BEST SELECTION VOL.8』に収録されていた、第351話「津上刑事の遺言!」をご紹介します。この回は、放送350回記念として、かつてレギュラー刑事だったメンバーが勢揃いしています。何より、なぜこのドラマが人気ドラマだったのか、という理由の一つがわかる象徴的なストーリー展開になっています。
『
特捜最前線』(1977年4月6日~1987年3月26日、東映/テレビ朝日)は、
警視庁刑事部特殊命令捜査課、という架空のセクションではたらく、刑事たちの話を描いた
昭和の人気ドラマです。
特命捜査課は、所轄からは独立して、
独自の捜査の権限をもっていることになっています。
所轄が解決できない、もしくは手に負えない事件を解決する、非常手段的組織です。
オフィスも警視庁ではなく、民間のビルに入っています。
課長の
二谷英明の階級は「警視正」なので、県警本部の部長クラスにあたります。
特命捜査課は、通常の捜査ではあり得ない手法を使うため、アクションやスリルを加えたドラマツルギーを作りやすい。
しかし、そうした作り方は、
昭和の刑事ドラマです。
平成に入ってからの刑事ドラマは、科学捜査や警察機構の内幕など、ドラマに
リアリティが要求されるようになり、
『踊る大捜査線』より
『相棒14』より
特命捜査課のような架空の舞台は出てこなくなりました。
でも、リアリティは追求しすぎても、ヒューマンインタレストや、エンターテイメントとしてはつまらなくなるのかもしれません。
『特捜最前線』以外にも、昭和の刑事ドラマ、たとえば『
太陽にほえろ!』や『
西部警察』などは、今も次々DVD化される人気作品として市場に君臨しています。
もっとも、『特捜最前線』は、同じ時期に放送されていた『太陽にほえろ!』に比べると
殉職者が少なく、『西部警察』ほどの
荒唐無稽さもなく、登場人物はみな大なり小なり刑事という職業への
葛藤を抱き、何より捜査が、マニアが「ストーカー」と名付けるほど、しつこく食い下がる
泥臭い捜査を行っており、ディテールのリアリティにあふれています。
これまで、このブログでは2度、記事にしました。
⇒
『特捜最前線 BEST SELECTION VOL.1』二谷英明、藤岡弘、
⇒
『特捜最前線 BEST SELECTION VOL.6』子供の消えた十字路
初期のレギュラーは、
二谷英明、
藤岡弘、
大滝秀治、
西田敏行、
誠直也、
荒木しげるの6人でした。
そこからいったん藤岡弘が降りて、後に国会議員になった
横光克彦が加わり、西田敏行が多忙で出番が減ると、大映のスターだった
本郷功次郎が加入。
そして、西田敏行降板の後に
桜木健一が加入と、少しずつメンバーの入れ替えがありました。
今回の『特捜最前線 BEST SELECTION VOL.8』は、次の話が収録されています。
第351話「津上刑事の遺言! 」
第430話「昭和60年夏・老刑事船村一平退職! 」
スペシャル「疑惑のXデー・爆破予告1010! 」
そのうち351話(1984年2月15日放送)は、現在のレギュラーに加えて、降板したかつてのレギュラー刑事も出演しています。
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万策尽きてからが真骨頂
少年・忍の父親は4年前、横断歩道で
ひき逃げ事故にあい死亡しましたが、忍は、父親が
青信号だから渡ったことを確認しています。
にもかかわらず裁判は、「歩行者信号が赤なのに渡った」という
加害者側の言い分だけを認め、忍の言い分は「子どもの言うことだから」と採用しませんでした。
当時、津上刑事(荒木しげる)は、
忍と忍の父親の正しさを証明すると約束しましたが、間もなく殉職しました。
そこで、その約束を、4年越しで特命課の刑事たちが、津上刑事に代わって果たすことにします。
その間、保護観察官に転身していた高杉(西田敏行)や、ラーメン屋に転職していた滝(桜木健一)も捜査に協力します。
すでに4年前のことなので、「交通事故の被害者に落ち度はなかったという証明。易しそうに見えて、それは至難の証明であった」(船村刑事役の大滝秀治のナレーション)ため、
捜査は困難を極めました。
津上刑事(荒木しげる)が証明できると踏んだのは、
証人の老婆がいたこと。
なかなかその人を探しだせず、いろいろな方向から探してやっと見つけますが、一足違いで
老婆は急死。
万策尽きたかと諦めかけた所、津上刑事(荒木しげる)の後任で入ってきた叶刑事(
夏夕介)が、
信号の仕組みに気づき、そこから解析できると考えます。
遺品の「止まった腕時計」から
事故時刻を特定。
その時刻に信号が何を指していたかを解析し、忍の言うとおり
青だったことが立証されます。
なんだ、それでわかるんなら最初からそれで調べればいいのに……というのは、結果からものを見た物の言い方です。
このドラマの特徴は、真っ直ぐな道を進むように解決にたどり着くのではなく、ハプニングその他で、1度は
捜査が頓挫をきたします。
それでも
諦めずに、「何か手がかりはないか」と、しつこく食い下がります。
実際の警察の捜査のことは詳しくありませんが、「
現場百遍」とか「
現場百回」というそうですね。
劇中でも盛んに使われている言葉です。
毎回それを経て、犯人逮捕にたどり着くので、
解決に説得力があるのです。
このドラマの捜査の過程を観ていると、自分が抱えている
未解決な悩み事も、
食い下がって何度でも考えなおして解決を導き出そう、という前向きな気持になります。
これは、きれいに解決に向かう、他の刑事ドラマでは湧いてこない思いです。
このドラマを未見の方には、ぜひ1度ごらんになることをお勧めしたいですね。
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