『食べ物のことはからだに訊け!』(岩田健太郎著、ちくま新書)を読みました。おりしも、榎木孝明の「不食」が話題になっています。かりにそこで榎木孝明が満足できる成果を獲得できたとしても、即万人に勧められるわけではありません。同書では、極論に走らず、多様な意見の中から自分の選択を探すことを求めています。
食事の仕方によって、体のコンディションを変える健康法をよく聞きます。
本書では、
糖質制限食で誰でもダイエットできる!
断食すれば調子がよくなる!
これを食べればがんがなおる!
といった巷間の食事健康法を懐疑しています。
第2章で著者の岩田健太郎氏は、民間療法・健康食品の宣伝文句、一部の医師の言説に見られる、トンデモ健康情報の特徴をいくつか紹介しています。
1.極論が多い
2.西洋医学は信用出来ない、科学では説明できないことがあるを連発
3.科学を批判するわりに、科学の権威をありがたがる
4.人間に関するデータは少なく、ほとんどが動物実験
5.「自然治癒力」「日本古来の」「古代からの」「自然免疫力」「抗酸化作用」といった「キラキラワード」を多用
6.論理の飛躍、拡大解釈、過度の一般化
たとえば、2に「科学では説明できないことがある」と書かれています。
たしかに、西洋医学を否定する人の中には、科学的根拠がないという指摘に対して、しばしばそうした反論をすることがあります。
しかし、そんなことはまともな科学者、医学者は百も承知です。
別に科学(医学)が完璧だ、万能だ、などと思っちゃいません。
科学(医学)には、「ここまではわかっている」ことと「ここからは未知」のことがあり、科学者、医学者は、その未知に合理的手続きを踏んで踏みだそうとしているわけです。
合理的手続きを踏まずに、未知のことをあたかも定説であることのように勧めるトンデモ健康法こそ「信用出来ない」のです。
4については、私もよく記事で取り上げさせて頂いてます。
動物実験では、医学的には「話半分」の情報でしかないのです。
補完代替療法の効果、安全性、信頼性を見極める方法は?
健康食品利用は「治療」といえるのでしょうか?
6も、よくある話です。
たとえば、「ネズミや猿のカロリーを減らすと長生き出来た」というデータを元に、「小食の方が健康になる」という考察を聞きます。
しかし、ではどのくらい小食ならいいのか、本当に食べないから「長生き出来た」のかなどは、引き続き調べなければわからないのです。
それなのに、この考察だけでご飯を食べないことをはじめてしまうのは、少しそそっかしい選択ではないかと思います。
少食でサーチュイン遺伝子が活性化するという研究については、データの取り方に致命的な誤りがあり、今では論文も否定されていることは以前の記事で書きました。
『逆に病気を呼び込んでいる44の健康法』それで健康になれるか?
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糖質制限の否定を主としたトンデモ本か?
ところが、Amazonのレビューを見ると、本書の評価はあまりよくありません。
「糖質制限」に懐疑的な立場を批判するコメントにあふれているのです。
「内科医」という署名のレビューには、「要するに糖質制限の否定を主としたトンデモ本です」とまで書かれています。
糖尿病患者が、光明とする糖質制限を否定することは許さない、ということなのでしょう。
糖質制限で成果のある人にとって、疑問に思える考察もあるのかもしれません。
しかし、本書では、こう書かれているのです。
糖質制限派と否定派のディベートが行われても、ロジックが高級になればなるほど、相手を論破することが目的化して、真実にアプローチできない(相手の正当性を反映した「柔軟」な結論にだどり付かない)、さらに、人によっては糖質制限が向いていない体質もある(たぶん私)、糖質制限が万能ではない、といったことを書いています。
つまり、岩田健太郎氏は、糖質制限の効果を否定しているのではなく、極論は正しいとはいえない、大多数に当てはまっても、あなたは少数派かもしれないという書き方をしているのです。
糖質制限でよし、と確信を持った人はそれを続ければいいのです。
ただし、万人がそうだとは限らない、と述べているのです。
そんなに猛バッシングを食らうような主張でしょうか。
医学や保健学・栄養学は、それまで正しいと思っていたことが、より高次な発見によって真実が書き換えられるものです。
今は定説でも、それが「絶対」ということはないのです。
たとえば、少数の「糖質制限合わない派」がいると主張したことに対して、糖質制限派が「そんなはずがない」と否定してしまったら、医学の進歩はそこで終わります。
「合わない」とは本当なのか。何をもって合わないのか、などを調べることで、さらに高次の真理にたどりつく道筋を掃き清めることができるのではないでしょうか。
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