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『社長洋行記』三木のり平の「ここだけの話」に“大人の笑い” [東宝昭和喜劇]

『社長洋行記』『続・社長洋行記』(1962年、東宝)を久しぶりに鑑賞しました。というのも、社長シリーズの第1作目からずっと出演していた三木のり平の生まれた日が4月11日なのです。同シリーズでの“パーッと行きましょう”という言葉が当時流行したそうですが、私は三木のり平というと、“ここだけの話ですが”というセコイ自己プロモーションが、サラリーマン映画の台詞らしくて印象に残っています。

社長洋行記
『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジンVol.23』より

『社長洋行記』『続・社長洋行記』は、このブログで何度もご紹介した、社長シリーズといわれている、森繁久彌、小林桂樹、加東大介らを中心に描いた映画作品ですが、宴会の好きな営業部長として、第1作目の『へそくり社長』から出演しているのが三木のり平です。

シリーズのストーリーは、森繁久彌社長の会社が、ライバル会社や、怪しげなバイヤーや、浮気見込みの女性といろいろあって、でも最後にはビジネスを成功させるという水戸黄門並みのワンパターン。

そこに安定感があり、33作続いた1960年代を代表する東宝昭和喜劇作品です。

『社長洋行記』については、「昭和の女優は美しい!?『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジンVol.23』」に収録されていることをご紹介しましたが、詳しいストーリーはまだでした。

本作は、香港ロケでお馴染みの杉江敏男監督。やはり香港ロケでストーリーが進行した『香港クレージー作戦』や、『無責任遊侠伝』などもメガホンをとっています。

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ネタバレ御免のあらすじ


膏薬サクランパスで知られる桜堂製薬(森繁久彌社長)は、東南アジアにおける数字が椿パスター(河津清三郎社長)に押されぎみでした。

そこで、販売を担当していた加藤清商事(東野英治郎社長)に発破をかけたものの、扱いが少ないことから逆にコバカにされ、取引をやめてしまいます。

そこで、新しい販売窓口を探しに、森繁久彌社長、加東大介専務、小林桂樹秘書が香港に向かいます。

当初は加東大介専務ではなく、営業部長(三木のり平)が同行することになっていたので、壮行会をしまくっていた三木のり平はがっかり。

加東大介に差し替わったのは、内縁関係にある居酒屋の女将(草笛光子)の腹違いの弟(フランキー堺)が、香港でエージェントをしているからです。

そして飛行機の中で、香港と東京で中華料理の店を経営するマダム(新珠三千代)と偶然隣同士に。

新珠三千代
『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジンVol.23』より

香港では、さっそく森繁久彌社長が新珠三千代とデートしますが、その時に食べた蛇が原因か、ヘルペスが体内で暴れだし、いったん帰国の途につく所で正編が終わります。

『続・社長洋行記』では、結局新しいエージェントが見つかるのですが、森繁久彌社長の浮気はまたしてもできませんでした。

「パァーッといきましょう」と「ここだけの話ですが」


同シリーズでは、営業部長役の三木のり平によって、しばしば出てきたセリフが「パァーッといきましょう」。

要するに、宴会で楽しくやりましょう、という意図で、接待が活発に行われていた高度経済成長時代の営業担当者には、こういう人がいたのかもしれません。

これは当時、流行語になり、三木のり平のコメディアンとしてのポピラリティを高めたそうですね。

ただ、私が個人的に好きだったのは、何かというと「ここだけの話ですが……」と、秘匿性のある貴重な情報のような前置きをつけて、実は憶測や、我田引水や、やくたいもない話でしかないというシーンです。

この『社長洋行記』でも、ラスト近くで森繁久彌社長は、「君の『ここだけの話』はもういい」と呆れてしまうのですが、なんかセコくて、かつくだらなくて、人間の「自分を大きく見せたい」という矮小さのようなものがあらわれていて諧謔としての面白さがありました。

もちろん、なんでもない人が同じことを言ったら、ただの詐術でしかありませんが、そこが笑えるシーンであるのは、三木のり平の存在感なのだと思います。

観ていて、今度はどんな「ここだけの話」なのだろうと、気になってしまいます。

決して無原則なドタバタや一発芸のようなギャグではなく、こうした大人の笑いで構成されている本シリーズは、何度観ても飽きません。

社長洋行記 正・続篇 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: 東宝
  • メディア: DVD


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