緑茶(日本茶)やコーヒーが、、一部のがん予防に有望で、心疾患予防に有意な結果が出ているという『週刊文春』の記事が話題になっています。特定の疾病による死亡率ではなく、総死亡率の減少につながっているという点が新機軸です。卵や乳製品が血糖値を下げる、つまり糖尿病に有効であるという記事も出ています。
卵や乳製品が糖尿病にいいというが……
私は、この手の記事に、大変興味をもっていますが、だからこそ慎重にとらえています。
たとえば、卵や乳製品が、糖尿病予防になると記事には書かれていますが、その一方で、乳製品が男性の前立腺がん、女性の乳がんとの関連を考察する報告もあります。
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あくまで私の実感に過ぎませんが、卵を意識的に食べる(つまり多めに食べる)と、その後の検査ではLDLコレステロールが上昇します。
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食べ物と健康の関係というのは、交絡因子が複雑であるから疫学調査で答えを出しにくいものであるとともに、その食材がある病気には有効であったとしても、別の病気には望ましくないこともあるのです。
食材というのは、そもそも人間の食事のために誕生したわけではないので、人間にとって栄養になるものもあれば、毒になるものも含まれています。
人類の歴史の風雪を乗り越えて、淘汰されずに残った現在の食材は、さまざまな食材を一緒に食べることで、その栄養を補完したり毒を相殺したりして人間の体に吸収されているのです。
ですから私は、どのような報告を聞いても、ただちに「ばっかり食べ」「絶対禁忌」にシフトしないようにしよう、とは思っています。
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緑茶はがんの予防に有効か
緑茶はがんの予防に有効か。これはずいぶん前から議論されていたことです。
カテキンなど、いわゆる制がん、抗がんの性質がある成分であることは明らかです。
カテキンというのは、植物としての緑茶が自身を外部の敵から守るために備えている殺菌成分です。
それ自体を分解する酵素も緑茶自身には含まれているので、緑茶として適度な量を飲む分には人間にも抗酸化作用が期待できるとされています。
が、抗がん作用があることと、飲んだ時にヒトの体内でがんに効くかどうかは別問題です。
そのため、様々な研究機関がいろいろな方法で疫学調査を行っており、今も完全な答えが出ているわけではありません。
緑茶については、主に胃がんに対して有効であるとの疫学研究が過去に発表されていました。
ところが、東北大公共政策大学院の坪野吉孝教授は、宮城県に住む40歳以上の男女に対する9年間の追跡調査から、「緑茶=抗がん」に懐疑的な考察を行い注目されました(2001年3月)。
要するに、緑茶が胃がんのリスク低下に効果があるとはいえない、という報告です。
しかし、この調査に対して毎日新聞記者の瀬川至朗氏は、「予防になる」説はまだ完全に否定されていないと『健康食品ノート』(岩波書店)で主張しました。
坪野吉孝氏の調査は、従来の研究で示されているリスク低下の可能性ラインである「8~10杯以上になったときの有効性については言及していない」ので、従来の見解が否定されたわけではないという意見でした。
さらに、厚生労働省は、全国7地域の40~60代の男女に対する7~12年にわたる追跡調査から、緑茶をよく飲む(5杯以上)女性では胃がんになるリスクが低くなっていることを発表(2004年8月)しました。
坪野吉孝氏の調査は、「1日×杯飲んだか」という、はっきり申せばかなりアバウトなものでしたが、こちらは、血中の緑茶ポリフェノールを採取しての調査でした。ですから、厚労省の調査は結果だけでなく、調査方法も評価されるものです。
しかし、その調査では喫煙男性について緑茶の成果を見ることはできませんでした。
つまり、交絡因子について課題を残してしまいました。
現実の生活で緑茶だけで生活することはあり得ません。交絡因子との関係をきちんと解明できなければ、私たちの生活での緑茶の働きを真に解明したものとはいえません。
また、緑茶が抗がんに有望だからといって、緑茶やカテキンを大量に摂取すればいいわけではありません。
カテキンだけを抽出・精製して摂取すると、殺菌力のある科学物質になり人体にも有害といわれます。
『週刊文春』の記事は、現在の報告に基づいて書かれたもので、ウソやまちがいではありませんが、こういうことは、今後、さらに新しいことがわかるものです。
いずれにしても新しい研究成果に期待しつつ、慎重にその推移を見守りたいと思います。
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