『日本一の断絶男』(1969年、東宝)を観ました。これは、日本映画専門チャンネルと、時代劇専門チャンネルとの「戦後70年共同企画」の一環として、1月から集中放送されている「植木等劇場」の一作です。『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジンVOL.42』(講談社)にも収録されました。
今回の植木等の役名は日本一郎(ひのもといちろう)。
宇宙飛行士になった夢から目を覚ましたところが物語の始まりです。
学生運動で大学を中退した丸山竹千代(
なべおさみ)は、実家には一流会社のサラリーマンになったと嘘をつき、日雇作業員をしていました。
一郎は丸山に、一流会社への就職を世話するといい、おでんをおごらせます
しかし、紹介されたのは万博の工事作業員。日当も巻き上げられていました。
オープニングから、アポロの月面着陸、学生運動、建設中の大阪万博会場のロケ地など、思いっきり時代を感じさせます。
一郎は東京に行きますが、丸山と、丸山の幼友だちのミミ子(緑魔子)も後を追います。
丸山とバッタリ再開した一郎は、またも口からでまかせで、ここに紹介すると言って目の前にあった八百広告社へ。
同社は黒川社長(飯田蝶子)の提案で、業界大手、伝広社に合併吸収するかどうかの会議中でしたが、一郎は、吸収合併結構じゃないかと持論をぶちあげ、合併させてしまいます。
そして、課長の山崎(
藤岡琢也)には、ホステスになっていたミミ子が店での付き合いをちらつかせ、2人を社員にするよう山崎に説き伏せます。
その後、ミミ子は、偶然映画のロケクルーにまぎれたギャング団に連れて行かれ、仁侠映画のスター・桜木ミミ子になってしまいます。
一方、丸山がしくじったクライアント・アポロ食品を担当しろと、一郎は山崎から命じられ、アポロ食品の社長(千秋実)には、桜木ミミ子を出演させることを約束して関係を修復します。
会社の危機を救った一郎ですが、山崎が自分の手柄にしようとしていることに腹を立て、クライアントのアポロ食品に転職。ミミ子をCMに出演させて商品の売上を伸ばし、同社の部長になります。
しかし、それでもそこを安住の地としない一郎は、丸山を強引に退社させて、賭博やブルーフィルムを見せ遊びを覚えさせるセミナーを行う会社を立ち上げます。
そこから、北斗組の若頭(藤木悠)や親分(
ハナ肇)と関わりができ、対立する博徒の争いに巻き込まれます。
その際、巨大なコンニャク製の風船を作っている、貧乏発明家の小山(
谷啓)の家にたどりつき、コンニャク風船でその場を逃げ出します。
小山は、それが発明品の宣伝となって大儲け。一郎に礼がしたいと申し出ると、一郎は、誰もいない静かな土地を1坪か2坪で良いからと言って買ってもらいます。
すると、その土地は石油が出るところだから、自分の土地と交換してくれないかと山男(安田伸)が申し入れ、一郎はそれを受け入れますが、何と石油が出たのは交換させられた一郎の土地の方でした。
そこで石油会社を作った一郎でしたが、丸山から結婚すると報告を受けると、アッサリその会社をあげてしまうというラストです。
高度経済成長の終わりを予言した作品!?
東宝クレージー映画は、1960年代に合計30本作られました。
そのうちの1~26作目までは、2013年4月~2015年2月に発売された分冊百科『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジン』(講談社)に、DVD収録の書籍として発売されました。
その多くをこのブログでも記事にしてきました。
その26作目、つまり収録された最後の作品が、須川栄三監督である本作の『日本一の断絶男』です。
ちょっと意地悪な見方をすると、60年代の東宝映画の屋台骨を支えたクレージー映画が、どうして凋落していったのか、それを確認したいという気持ちもあり、『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジン』や、今回の「植木等劇場」を熱心に観ています。
本作を観て感じるのは、植木等がお調子者として描かれているのは相変わらずですが、そこから出世や大金持ちなどにたどり着いてハッピーエンドではなく、全く興味なくそれらを捨ててしまうことがシリーズ初期とは全く違います。
明るくノーテンキな面も影を潜めてしまったような気がします。
植木等の加齢もありますが、やはり時代との関係は指摘せざるをえないでしょう。
映画やテレビなど大衆文化は、その時代の世相の合わせ鏡ともいいます。
我が国は、1970年には、GDPが前年比10.3%の上昇でしたが、翌年度から4.4、8.4、8.0と、ひと桁台の成長にとどまり、74年にはついにマイナスに転落してしまいました。
クレージー映画の凋落は、右肩上がりの高度経済成長の終わりを予言するものだったのかもしれません。
『日本一の断絶男』は、日本映画専門チャンネルで、6月15日、6月16日、6月17日、6月18日、6月19日、6月27日、7月2日に放送されるそうです。
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