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『水はなんにも知らないよ』「水伝」の問題点はニセ科学だけか? [(擬似)科学]

『水はなんにも知らないよ』(左巻健男著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)という書籍があります。昨日ご紹介した川嶋朗氏が役員をつとめる関連団体の代表者・江本勝氏が発表した、『水からの伝言』を反証する書籍です。新刊ではありませんが、大切な内容が含まれているので今日は同書について書いてみます。

昨日、川嶋朗氏の『ボケたくなければカレーを食べなさい』という書籍をご紹介しました。

その際、川嶋朗氏の肩書に、日本ホメオパシー医学会理事、日本波動医学協会会長、植物・芳香医学フォーラム評議員、気の医学会世話人など、医学者とは対極をなすような立場があることを書きました。

中でも、日本波動医学協会というのは、江本勝氏が名誉理事をつとめる、サトルエネルギー学会の関連団体ということになっています。

水に言葉がわかる?水はなんにも知らないよ


江本勝氏といえば、『水からの伝言』でおなじみですね。

「水に『ありがとう』と書いた紙を見せて凍らせると、きれいな結晶になる」という、例のアレです。

氷

水には脳ミソも自律神経もありませんから、科学的にそんなことはあり得ないと追及されたら、江本勝氏ご本人は、科学的根拠に基づいた話ではなくて「ファンタジー」であると認めています。

が、「教祖」が否定しているにもかかわらず、一般大衆の「信者」たちはいまだに存在するようです。

一部の学校で、『水からの伝言』、いわゆる「水伝」が道徳教育の題材として使われたこともあるそうです。

そこで、これじゃいかんというので書かれたのが、左巻健男氏の『水はなんにも知らないよ』でした。



同書は、『水からの伝言』や、“ナントカ還元水”のような「健康によいとされる水」について、科学的に証明されるものではないことを、わかりやすく説明しています。

『水からの伝言』を「ある」と言い張る人は、「ある」ことを客観的に示さなければなりませんが、さしあたって、同書を反駁できるかどうか、きちんと読まれることをおすすめします。

私は、「水伝」を科学的に肯定しない同書の趣旨を積極的に評価し、その上梓を意義あるものとしています。

しかし、同時に私は、同書に留保もつけています。

うーん、そうかなあ

左巻健男氏は、同書の中で「水伝」を「科学の問題」と断言しています。

つまり、「水が言葉をかけるとそれに応じる」という科学的に証明されないことを主張するのは、「ニセ科学」だというのです。それ自体はそのとおりだと思います。

しかし、私は「水伝」を、「科学の問題」に留めることに賛成できないのです。

言葉とは“不可思議だけど魅力的なもの”


水に言葉がわかるなんて「ニセ科学」だ。そりゃそうでしょう。

しかし、「水伝」を教材に使う問題の本質は、「ニセ科学」であろうがなかろうが、そもそも言葉の使い方を道徳的に押し付けている点にあると思うのです。

どういうことか。

言葉は、字面や音だけではわからない話者の思いによって、ときには正反対の使われ方をします。

たとえば、「バカヤロウ」と言われて嬉しくて涙が出る、なんてやりとりが映画やドラマにあります。いや、日常的にもあるでしょう。

でも、どんな高価な辞書で調べても、「バカヤロウ」に嬉し涙がでるような感動的な意味は書かれていません。

にもかかわらず、それが嬉しい響きに感じるのは、会話というものが、経験と個々の信頼関係や思いやりや洞察力によって成立する、すなわち「いかなる価値観で使われるか」によってニュアンスが変わる“不可思議だけど魅力的なもの”だからです。

私たちの日常は、ときには誤解につながる「リスク」も承知の上で、辞書的解釈とは異なる言葉の使用にみちています。

そうした人間関係の豊かさの上でなりたつ言葉の不思議な魅力と奥深さを、「美しい言葉を使えば水に伝わる」などとして、辞書的解釈による「美しい言葉」を押しつけてぶち壊す役割が「水伝」にはあるのです。

言葉と価値
言葉は人間関係とともに異なる価値を持ち得る

つまり、科学的根拠がないだけでなく、文学的・文芸的にも人の創造力をスポイルしてしまうのです。

私もそんなに自慢できるだけの時間はさいていないので偉そうには書けませんが、小説を読んだり、映画やドラマや芝居をたくさん見たりすれば、人間関係をとりもつ「言葉の計り知れない奥深さ」に畏れる機会を持てるはずです。

言葉の問題は「価値の領域」を多分に含みますので、「科学の問題」にとどめてはなりません。

自然科学的問題ではなく、社会科学、人文科学を含む問題だと私は思います。

水はなんにも知らないよ (ディスカヴァー携書)

水はなんにも知らないよ (ディスカヴァー携書)

  • 作者: 左巻 健男
  • 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
  • 発売日: 2007/02/25
  • メディア: 新書


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