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『満員電車』人生の怖さを淡々と描いたカルト映画、川口浩 [懐かし映画・ドラマ]

満員電車

『満員電車』(1957年、大映)を観ました。市川崑監督の演出がいつにも増して際立っている、監督の手腕と個性で魅せる作品です。主演は川口浩。一昨日に続いて川崎敬三も出ています。サラリーマン生活を風刺しながら、人生のはかなさも表現されています。



名門平和大学を卒業した茂呂井民雄(川口浩)は、予定通りそれまで交際していた同級生の壱岐留奈(小野道子)、百貨店の女店員(宮代恵子)、映画館の女(久保田紀子)らとの関係を清算。

ビール会社の尼ヶ崎支社総務部に勤務します。

通勤は満員電車に揺られ、勤務は時間に縛られ自由にならず、さりとて頑張って書類を処理すると、上司(見明凡太朗)に、「ゆっくりやってみんなに合わせろ」と叱られます。

民雄(川口浩)曰く、「忙しいけど暇」なサラリーマン生活というわけです。

そして、大学卒業式といい、満員電車といい、社員食堂といい、オフィスといい、いつも物凄い人の数。

本人がエリートと威張っても、しょせん人一人の存在なんて小さいものだということを表現している絶妙さではありますが、相当な数のエキストラを使っています。

市川崑監督のこだわりの演出です。

生涯賃金まで計算して、はりきっていた民雄(川口浩)は、だんだん現実が自分の思うとおりにいかないことに苛立ちますが、同僚の更利満(船越英二)は、サラリーマンはそういうものだと諭します。

時計職人の父親(笠智衆)からは、母(杉村春子)が発狂したと知らせが入り、医学博士の助手をしている和紙破太郎(川崎敬三)に、月2000円で診察とカウンセリングを依頼。

『サラリーマンどんと節気楽な稼業と来たもんだ』川崎敬三を偲ぶ
川崎敬三さん、最後のインタビューで「遺言」を公表していた!?

破太郎(川崎敬三)は、市会議員でもある父親(笠智衆)を利用して、自分が将来院長になる精神病院の建設を決めます。

しかも、発狂したのは母親ではなく父親だったとして、父親は入院。

父を利用したのかと気色ばむ民雄(川口浩)に、破太郎(川崎敬三)は、「人生はホップ・ステップジャンプだよ」とうそぶきますが、文字通り「ジャンプ」を失敗して交通事故で死亡してしまいます。

しかも、民雄(川口浩)もその時のショックで入院し、それが原因で会社を解雇

それ以来、仕事が決まらず、職安で留奈(小野道子)と再会しプロポーズするも、すでに留奈(小野道子)は結婚していました。

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人生の怖さと儚さをテンポよく描く


満員電車』は、一口に申し上げるとカルト映画といっていいでしょう。

つまり、映画史上、賞を独占したり、多くの人に語り継がれたれといったポビュラリティはないけれども、一部のファンの心をいまだに掴み続ける強烈な個性のある作品です。

『満員電車』卒業式シーン
田宮二郎も同級生役でワンシーンだけ出演

タイトルの由来は、「満員電車」がサラリーマン社会の象徴で、それはおよそ人間的な営みとはいいがたいけれども、でもそれを降りたら次がない、という風刺といわれています。

川口浩が、実家の小田原に途中下車せず、直接尼崎まで行ってしまうシーンを入れて、「降りることができない」ことを表現しています。

川口浩が、虫歯もないのに歯や膝が痛んだり、髪が白くなったりして、「人間的な営みとはいいがたい」ことを表現しています。

ただ、それ以上に感じさせられるのが、人生はある日、ある時突然に「失う」ことがある、という怖さです。

その「怖さ」こそが、根強いファンに今も語り継がれているのでしょう。

たとえば、川口浩は3人の女性と掛け持ちで交際してモテ男のつもりですが、就職後、寂しくなって彼女たちに手紙を書いても、みんな取り合ってくれません。

ホップ・ステップ・ジャンプだよ、とドヤ顔でその通り飛んでみせた川崎敬三は、ジャンプの着地点にバスがやってきてあっさりバスにハネられ即死。

当時、映画館では笑いすらもれたのではないか、と思えるほどのタイミングの良さです。

それを目撃した川口浩は、動揺して電信柱に激突。長い昏睡に陥ったため、会社を無断欠勤したとして解雇されます。

ゆっくり通勤、ゆっくり仕事をして、休日にはお茶を振る舞って同僚の相談に乗る余裕しゃくしゃくの船越英二は、ある日社員食堂で急に喀血してそれっきり。

時計職人と市会議員で地域の名士に上り詰めた笠智衆は、妻の薄気味悪い笑いを、気が触れたと警戒していましたが、実は自分の気が触れていて入院。社会からフェードアウトします。

笠智衆と杉村春子の夫婦がまた存在感ありすぎです。

松竹だけでは物足りずに、このたび大映映画にも出てきて、いつもの独特の台詞回しを変えない笠智衆。

これまた、いつもの裏返った声で不気味な笑いを繰り返す杉村春子。

このテンポとタイミングと演技の妙は、実際に映画を観ないと、レビューだけではなかなか表現しにくいので、ぜひ1度ご覧ください。

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