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前田陽一監督の『坊っちゃん』『神様のくれた赤ん坊』を思い出す [懐かし映画・ドラマ]

前田陽一監督の『坊っちゃん』『神様のくれた赤ん坊』を思い出す

前田陽一(1934年12月14日~1998年5月3日)監督の祥月命日です。映画では、『坊っちゃん』(1977年)『神様のくれた赤ん坊』(1979年)、テレビドラマ『ザ・ハングマン』(1980年)など、松竹で喜劇のエッセンスを加えた作品を多数作っています。(画像はいずれも各作品DVDより)



有名な文学作品、夏目漱石の『坊っちゃん』は、何度も映画やテレビドラマ化されていますが、みなさんはどの俳優の坊っちゃんが印象深いですか。

『坊っちゃん』(1977年)については、以前記事にしましたが、前田陽一監督作品は中村雅俊主演です。

『坊っちゃん』
『坊っちゃん』より
『坊っちゃん』中村雅俊、地井武男、米倉斉加年、岡本信人

松竹は、1970年(←万博の年です)にも、竹脇無我主演でテレビ映画の『坊っちゃん』を作っています。

山嵐が田村高廣、マドンナが山本陽子、校長が松村達雄、赤シャツが米倉斉加年、野太鼓が牟田悌三、うらなりが小松政夫でした。

赤シャツの米倉斉加年の嫌味な策士ぶりと、小松政夫の、「在れどもなきがごとく、人質に取られた人形のように大人しくしている」(原作より)覇気の無さの演技が、実に巧いなあと子供心に感服しました。

前田陽一監督の『坊っちゃん』は、山嵐が地井武男、マドンナが松坂慶子、校長が大滝秀治、赤シャツが米倉斉加年、野太鼓が湯原昌幸、うらなりが岡本信人です。

米倉斉加年と岡本信人
映画『坊っちゃん』より

米倉斉加年が、竹脇無我版に引き続き、赤シャツ役で出演しました。

坊っちゃんや山嵐に生卵をぶつけられ、「私は平和主義者ですから(仕返しはしません)」と減らず口を叩くところも、竹脇無我版と同じでした。

でも原作を確認しましたが、実はそのシーンもそのセリフもないんですね。

つまり、子供時代の私が思ったように、竹脇無我版における米倉斉加年の赤シャツの役作りがあまりにも見事だったので、前田陽一監督が自分の作品でも引き続きやってみたいと思ったのではないでしょうか。

その一方で、前田陽一監督は、坊っちゃんが実は情に熱い人であることを示すエピソードを一切割愛しています。

たとえば、坊っちゃんと山嵐の「一銭五厘の喧嘩」や、坊っちゃんがうらなりにあわせて、赤キップではないのに三等車に乗ったり、天ぷらそばを食べたことを黒板に書かれたり、芋のおかずに辟易したり、坊っちゃんが東京に帰ってキヨ(荒木道子)に孝行したりといった、坊っちゃんのキャラクター設定やストーリー上不可欠なエピソードが抜けています。

中村雅俊が、『俺たちの旅』や『ゆうひが丘の総理大臣』で演じた、親の縁が薄いがゆえの優しさ、というキャラターを考えると、むしろそれらを割愛したら、何のための中村雅俊起用か、という感じがしましたが、要するに、この時点で27歳になった中村雅俊に対して、新しいステージに進むよう、これまでのキャラクターとの決別を求めたのかもしれません。

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ハングマンも手がけていた


ザ・ハングマンタイトル
『ザ・ハングマン』より

『ザ・ハングマン』シリーズ(1980年11月14日~1987年9月25日、松竹芸能/朝日放送)はご存知ですか。

『ザ・ハングマン』林隆三、黒沢年男、植木等、あべ静江、山村聰

松竹芸能/朝日放送制作の時代劇で「必殺シリーズ」がありましたが、その現代版です。

現代版ですから、いくら創作ドラマでも、悪人を実際に殺害する成敗はできません。

そこで、「悪人たちの悪行を一般社会に知らしめることで、社会的に抹殺する」という意味での「死刑」を執行します。

たとえば、悪人を、上から自動車が今にも落ちてきそうな廃車置場で縛り付けて、自分の悪事を話さないと自動車を落とすと脅し、悪人が白状したら、その音声をそのまま商店街の有線放送に電波を紛れ込ませて流すとか……。

それは強要ですから、立派な犯罪なんですけどね(笑)

ただ、その「死刑」は、かなりユーモラスなものもあるため、コメディの演出を行う前田陽一監督も数作手がけています。

それ以外には、『神様のくれた赤ん坊』(1979年)という松竹映画が、いかにも松竹らしくてよかったですね。



同棲していた小夜子(桃井かおり)、晋作(渡瀬恒彦)のもとに突然見知らぬ女性が現れ、5歳の男の子(鈴木伊織)と手紙を置いていきます。

手紙には、晋作を含めて5人の男の名前と住所が記されて、「新一は、この5人の男性の誰かの子供。父親に新一を引き取って欲しい」と書かれていました。

そこで、小夜子、晋作、新一の3人は広島・福岡・長崎・北九州など、晋作以外の4人の男を探しますが、最後の北九州で引き取ることになったものの、旅の途中で故郷に寄り自分の恵まれない生い立ちを知った小夜子の意向もあり、結局新一と3人で東京に帰って暮らすという話です。

渡瀬恒彦は、それまで東映京都作品ばかりで、兄・渡哲也に比べると知名度の点で一歩劣っていたのですが、この作品から他社の映画やドラマにも出演することになりました。

『幸福の黄色いハンカチ』の高倉健といい、渡瀬恒彦といい、東映の俳優がよりメジャーな俳優になるきっかけは松竹だったわけです。

以前も書いたように、邦画の喜劇はコバカにされがちですが、一口に喜劇と言ってもいろいろありますし、少なくとも私は前田陽一監督の「喜劇」は優良な作品であったと思います。

あの頃映画 「坊ちゃん」 [DVD]
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ザ・ハングマン DVD-BOX 1
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あの頃映画 「神様のくれた赤ん坊」 [DVD]
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ナベちはる

>邦画の喜劇はコバカにされがち
「喜劇」というだけで安直に「滑稽」という概念に結び付けるのは良くないですね。
作品を見てから判断してほしいですね。
by ナベちはる (2018-05-04 00:39) 

末尾ルコ(アルベール)

前田陽一監督の『坊っちゃん』『神様のくれた赤ん坊』を思い出す・・・わたくし不届きにも、映画の『坊っちゃん』はどれも観てないのです。理由の一つは、わたし自身もう一つ夏目漱石の価値が理解できてなかったところがあるのだと思います。どちらかと言えばもともと日本文学では三島由紀夫や谷崎潤一郎らのように、耽美とか過激とかそのようなイメージの人たちが好きで、夏目漱石はどうしても「教科書的無難な作家」というイメージがあったのです。しかしそれはもちろんわたしの若気の至りの大誤解だったわけで、数年前からまた夏目漱石をいろいろ紐解いたりしております。
今回ご紹介くださっている『坊っちゃん』はどれもおもしろそうですね。ぜひ観たいと思いますが、最近映画でその魅力や凄味を再認識した米倉斉加年が気になるところです。両方の作品へ出演しているとは素晴らしいですね。何やら早くもワクワクしてきました。若き日の松坂慶子や山本陽子も気になります。山本陽子って、ちょっと好きだったような。松坂慶子の体重(笑)がいつの間にか増量していたのには驚きましたが。全盛期は日本最高の美人女優というイメージがありましたからね。田村高廣も最近ドラマ『蛇姫様』で若き日の姿を観たので気になりますね~。殺陣も素晴らしかったんです。予定調和過ぎず、美的な要素も加味された見事な剣さばきでした。
『ザ・ハングマン』は朝日だから、高知では放送してなかったかもしれません。ちょっとプロレスラーの名前のようなタイトルですね。この作品はあべ静江が気になります。後年はいろいろあったようですが(笑)、「みずいろの手紙」の頃のあべ静江は最近チェックしたのですが、非常に美形だと思いました。

>「悪人たちの悪行を一般社会に知らしめることで、社会的に抹殺する」

できればこういう目に遭わせてやりたい人間は多数おりますが(笑)、なかなか現実的には難しいですね(笑)。
『神様のくれた赤ん坊』は観ております。桃井かおりはかなり好きで、カセットテープも買いました。なぜカセットだったかと言いますと、両親に音楽鑑賞の趣味がほとんどなかったもので、「ステレオを買ってほしい」とはなかなか言い出せなかったのです。桃井かおりは邦画界では稀な、「女優でしかも映画監督をやった」一人ですし、その生きかたも共感できるところが多々あります。

保里小百合はいっぷく様に教えていただいて知ったのですが、その時画像検索いたしまして、(こ、これはいったいNHKに何が起こっているのだ??)と衝撃を受けた(笑)次第でございます。リンクしてくださっているお写真も驚きのクオリティ(笑)!そんな保里小百合が『おはよう日本』のレギュラーになると知った時は、(日本の朝はいったいどうなってしまうのだ)とドキドキしてしまいましたが、今のところおとなしめの衣装でやっているようです。しかしいつから牙を剥き始めることやら(笑)。
でも喋り方とか、雰囲気とか、想像以上に感じがいいのです。品もありますし、その点は民放のアナとは違いますね。今週、わたしの贔屓の和久田麻由子が休んでいる時にメインの司会を担当していたのですが、やたらと朗らかに笑います。

>「いなかっぺ大将」の花ちゃんを連想しました。

素晴らしいご連想ですね(笑)!また全巻読み直してみたくなりました。
赤木野々花は、確かに顔のラインとかは岩崎宏美と共通点がありますね。ただ、目が大きい点と、小柄でトランジスタグラマーな点が違います。色白でなかなかトランジスタグラマーで、アンヌ隊員係数(笑)は高いです。

子ども時代からの「妄想」という観点からす
れば、ひし美ゆり子=アンヌ隊員は絶対に欠かせませんよね。そう言えば、セブンであることを明かせないダンとの関係は、伊達直人とルリ子先生との関係と共通するものが。もっともルリ子先生はかなり早々とタイガーの正体に気づいてましたね。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2018-05-04 02:12) 

pn

ハングマンは好きでした、金曜はハングマン→必殺の流れでテレ朝かぶりつき(笑)
by pn (2018-05-04 06:14) 

チャー

坊ちゃん 最近では二宮くんがTVドラマで拝見しました
by チャー (2018-05-04 06:52) 

johncomeback

NHKの「新・坊っちゃん」を観てました。
主役の柴俊夫よりも山嵐役の西田敏行が印象に残っています。
by johncomeback (2018-05-04 10:28) 

うめむす

ハングマンは、植木等が印象的でした!
by うめむす (2018-05-04 11:32) 

えくりぷす

『坊っちゃん』俳優で思い出すのは、私も正月ドラマの二宮くんです。郷ひろみさんもかすかに記憶があります。
『神様のくれた赤ん坊』は、数年前にNHK・BSでやっていた「山田洋次監督が選ぶ日本映画100本」に入っていましたが、残念ながら見逃しました。(100本のうち喜劇編は大半は見たんですけど…)
by えくりぷす (2018-05-04 11:46) 

makkun

映画は観たものがありますが
監督の名前では殆ど知らない私です。
坊ちゃんの米倉斉加年さんの赤シャツは
懐かしいですね~(v^ー°)
モス君のママは50歳前後ですよ~(^^♪
by makkun (2018-05-04 15:15) 

ヨッシーパパ

坊ちゃん、なんとなく覚えています。

by ヨッシーパパ (2018-05-04 18:43) 

A・ラファエル

ハングマン 懐かしいですね。
姉が就職する前のバイトでエキストラ出演していた作品の1つです。
ですからDVDのどこかには姉の姿が残っているかと思われます。

by A・ラファエル (2018-05-04 19:51) 

nikki

ハングマン見てました。変わった処刑をしてましたね。
by nikki (2018-05-05 00:50) 

ヤマカゼ

改めてみると、坊っちゃんのキャストは豪華メンバーですね。
by ヤマカゼ (2018-05-05 19:16) 

うつ夫

「坊っちゃん」は熱血学園ドラマのルーツですね。
by うつ夫 (2018-05-06 00:21) 

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