『家族という病』ろくでなしと思っていた親がそうでないかも…… [社会]
『家族という病』(幻冬舎)がベストセラーになって話題です。著者は下重暁子氏。かつては人気アナウンサー・キャスター・ジャーナリストとして活躍していました。日本で美化される「一家だんらん」や「家族」という道徳的な概念に切り込み、「家族とは何か」を提起する一冊です。
『家族という病』は、「家族」を病気と唾棄する衝撃的なタイトルです。
どのような中身なのか見ていきます。
たとえば著者はこう述べています。
「家族のことしか話題がない人はつまらない」
「家族写真入りの年賀状は幸せの押し売り」
その人との関係にもよりますが、確かに「家族だけの人」では困りますね。
なぜなら、第三者の入り込めない価値観をつきつけられても、そこに意見を述べて人間関係を深めるきっかけが作れないからです。
「家族写真入りの年賀状」は、出す相手にもよりますが、少なくともビジネス関係については、私も疑問を抱いていました。
だいいち、家族のプライバシーを無視してますよね。
もちろん、自分にとっては家族が全てだ、という価値観を持っている方もいらっしゃるでしょう。
それは否定されるものではありません。
ただ、著者はそうではない、ということです。
著者は、そのような考え方に至った理由として、自分の育った環境を挙げ、本書は、とくに自分の父親を非難する話が延々と続きます。
そんなにひどい父親には感じられなかった
本書によると、著者の父親は画家志望だったのに挫折したそうです。
そして、敗戦後は二度と戦争や軍隊はごめんだと言いながら、かつて教育された考え方に戻っていったそうです。
著者はそれをなじり、自分は、そんな父への反抗を心の支えにしていただけだったのではないか、などと書いています。
父親を批判する気持ち自体はわからないでもありません。
親と子どもの価値観が違ったり、子どもからみて、親がつまらない人間に見えたりすることはあります。
その場合、それでも親が絶対だ、という人間は大したやつではありません。
親を否定して自らの価値観を創出してこそ、その子供は親を乗り越えて次世代を担うことが出来るのです。
ただ、本書を読んでいて、著者が「家族」を否定したくなるほど、父親がろくでなしには私には感じられませんでした。
生き方の挫折や思想の転向なんて、誰でも家庭を持って歳を取れば有り得る話です。
何より、著者の両親は、戦後の厳しい時代に、下重さんをちゃんと教育し、大学まで行かせているじゃありませんか。
世の中には、親に人生を翻弄させられた子どもはいくらでもいます。
虐待されて身も心もボロボロにされる子ども。
親の都合で、進学や就職や結婚に直接の妨害を受け、人生をかえられてしまった子ども。
それに比べたら、たかだか下重さんにとって「自分の理想でない父」であることぐらい、いったいどれほどの「不幸」だというのでしょうか。
はっきりいってこの本は、本当の苦労や不幸を知らないお嬢さんによるありふれた反抗心を述懐した書に過ぎません。
少なくとも、私にはそう読めました。
著者は、ジャーナリストを名乗っていたずです。
だったら、世間であまた存在する、「悪い親」で苦労する子どもを取材し、子は親のため、家族のためにそこまで苦労しなければならないのか、家族ってなんなのか、という実証的な問いかけをすべきでした。
そして、書名を見て本を手にした読者の求めるところも、そこにあったはずです。
下重暁子という、かつて女性ジャーナリストとして活躍した知名度と、もっともらしいタイトルで読者を釣っておいて、中身は、どこにでもある父親への愚痴的な回顧では、読者の失望のほどはいかばかりか。
主観的な「家族」観のそしりは免れない
以前も書きましたが、このブログで、「配偶者に手をかけたいと思ったことのある人が90%いる」とのアンケート調査を紹介したら、それまで毎記事巡回していたある人が、「そんなのはマスコミの作り話で嘘に決まっている」と激怒し、それ以来アクセスしてくれなくなってしまいました(もしかしたらnice!を付けないだけで読んでいるのかな)
その方自身は、長年夫婦円満だそうで、夫婦とはそういうものだと本気で思っていたようです。
苦労知らずなお幸せ者だなと思いますが、でもそれもまた、恵まれた人生における感じ方のひとつだと思います。
本書にもそれがいえます。
つまり、読者の「家族」に対する考え方は様々だし、すごくデリケートなテーマでもあります。
それを、たかだか著者個人の限られた経験を、相対化もせずに持ちだして唾棄の根拠にしても、異なる価値観の人には拒絶されるだけだと思うのです。
むしろ、本書はよくWeb掲示板で叩かれないものだと思います。
問題提起は個人的に興味深いと思ったので、その点で残念でした。
確かに。「家族」の在り方は人それぞれだし、デリケートなテーマですね。
そして本のタイトルにインパクトがありすぎますね;
by みかん (2016-07-13 00:29)
著者だって、「ふがいない」父親を疑問に思い反発したから今の自分があるわけですよね。なら父親には感謝しないと。
by 赤面症 (2016-07-13 01:17)
貧乏でも、ダメ親でも、不幸の元凶でも、家族は家族。
そんな複雑な感情は矛盾してるでしょうか。
by 関谷貴文 (2016-07-13 01:45)
下重暁子氏はそう解釈しただけの話で、
それこそこの書は押しつけでは無いでしょうか?。
by 旅爺さん (2016-07-13 05:11)
家族がテーマは興味深いですね。
by pandan (2016-07-13 05:30)
そうですね、大学行かせてもらって四の五の言ってもねぇ。文句言われてバイトとかで学費稼いでいたとかならまだ分かりますが。
親は越えるべき存在ととらえ始めたのはいつ頃だったかなー、振り返れば家の親もろくでなしでは無いのかな(^_^;)
by pn (2016-07-13 06:22)
私は父親が嫌いでしたが
成長するにつれて、違った見え方もできてきました。
その時々、時代によって、家族の見え方は違ってくると思います。
でも、家族がうまくいかなければ、結局子供が不幸になります
丁寧に扱わないといけない内容なのでしょうね
by tachi (2016-07-13 10:43)
家族をテーマに選ぶ背景には様々あるのでしょうね。
ただ、それもかなりの個人差があるのでそこに難しさが有りそうです。
そして、その思いは所詮は本人しか解らないのでしょうね。
或いはそれも思い違いなのかも?
・・・やはり難しいテーマです。
by 追いかけっ子 (2016-07-13 12:26)
私もタイトルが興味深く、以前読みましたが、
いっぷくさんと同じく、家族というものに対して、
もっと実証的な問いかけをしてほしいと思いました。
現在”家族という病2”発売されていますね。
買うまでには至らず、私は現在図書館で予約中・・
かなりの予約者がいて、だいぶ待ちの状態ではあります。
by taekozue (2016-07-13 16:53)
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