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第24回日本意識障害学会から知る、遷延性意識障害医療の現在 [遷延性意識障害]

浜松城

第24回日本意識障害学会が浜松で開催されました。私は行けませんでしたが、抄録や参加者のブログ記事を拝見すると、興味深い報告がいくつもあったようです。とくにリハピリについては、以前からご紹介した『がんばれ朋之!18歳、植物状態からの生還265日の記録』(宮城和男著、あけび書房)に書かれている慧眼を知ることになりました。

第24回日本意識障害学会の抄録は、ネットで公開されています。
http://jcs2015.umin.ne.jp/

立たせるリハビリは脳障害の“治療”である


その中で、和歌山県立医科大学からの「意識障害改善のためのリハビリテーションー和歌山 E-mov プロジェクトー」と題した特別講演(SL2)について、「遷延性意識障害の妻を支えて」のブログを書かれている福寿草さんが、こう報告されています。
遷延性意識障害の妻を支えて-ウェブリブログ.png
「遷延性意識障害の妻を支えて」トップページより
ギャッチアップしただけでは覚醒は見られない、端座位で座らせる(90度座位)ことは効果的で、さらに立位はより効果が増す、歩かせるとさらに良いとのことでした。従来の考え方は脳血管障害のリハビリは術後2週間は安静というのが常識だったそうですが、最新の研究では術24時間以内にリハビリを始めた方が予後が良いことがわかっています。リハビリは“廃用予防”ではなく“治療”である、安静は“麻薬”であるという言葉が印象に残りました。
http://toshiake.at.webry.info/201507/article_2.html

今は、開腹手術をしても、少なくとも腹腔鏡下手術なら、翌日は歩かせているようですね。

それとは狙いが異なるかもしれませんが、脳障害でも「端座位で座らせる(90度座位)」「立位」が「治療」になっているということです。

これを、今から24年も前でありながら実践していたのが、以前からご紹介していた『がんばれ朋之!18歳、植物状態からの生還265日の記録』の松本朋之さんです。

がんばれ朋之!18歳、植物状態からの生還265日の記録
がんばれ朋之!18歳、植物状態からの生還265日の記録、急性期60日

『朝日新聞』1997年1月30日付
『朝日新聞』1997年1月30日付

同書は、オートバイの交通事故で頭をうち、脳がびまん性軸索損傷(DAI)という大怪我をしながら、家族や友人の励ましや医療スタッフの懸命な治療やリハビリによって、重い高次脳機能障害を残しながらも社会復帰したことを、当時の担当医の宮城和男医師(当時王子生協病院)がまとめたものです。

24年たって、学会の講演で語られるようになったんですね。

4年前の私の長男も、とにかく朋之さんの真似をしようと思い、タオルやベルトをいくつも使い、意識清明とはいえない状態なのに、とにかく車椅子に括りつけました。

車椅子

病院も比較的協力的でしたが、やはり患者は私の長男一人ではないので、私がなるべく病室に長くいて、長男の車椅子の時間を少しでも長くしようとつとめました。

リハビリ科でも、90度立位に動くベッドに括りつけていました。

その時も理学療法士は、やはり頭(脳)を立てることの意義をおっしゃっていました。

その理学療法士も、よもや私の長男が自力歩行を回復するとは思わなかったようですが。

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遷延性意識障害の医療は終末期医療ではない


私もこれまでしばしば書いてきましたが、脳に傷害を受け、昏睡の続いているニュースが出ると、ネットでは決まって、「無理して生かすな」という“安楽死のすすめ”が書かれるのですが、罪深い無知だと私は思います。

特別講演でも、そのことが取り沙汰されたようです。引き続き福寿草さんのブログから。
遷延性意識障害の医療は終末期医療と混同され、生きていることは辛いことだと思われたり、またそんなにしてまで生きるよりは尊厳死を選ぶということが推奨されたり、我々のような遷延性意識障害の家族を持つものからすると理解しがたいことが世の中では考えられているように思えます。先生のお話では、障害者になったら生活機能が変容し、それに合った生活をすれば良いのであり、その範囲で100%の生活をすれば良いという考え方がありました。

例えは悪いかもしれませんが、何らかの事情で手足をもぎ取られたら、“ないなりの生活”をするしかないですよね。

生きとし生けるものが、生きることを前提とする権利や価値観を持つのは当たり前なのに、なぜ、脳障害だけが、死んだ方がマシであるかのように言われなければならないのでしょうか。

脳深部刺激(DBS)が低酸素脳症でも著効例


もうひとつ、個人的に興味深かったのは、藤田保健衛生大学病院による、最新のDBS治療の成果報告についてです。

脳深部刺激(DBS)といって、意識障害患者の硬膜外に電極を入れ、弱い電流を流して覚醒を促すものです。
これまでは若年(35歳以下)の頭部外傷での成績が良く、35歳以上で低酸素脳症は有効例が少ないという認識でしたが、最近の症例の統計を取ってみると必ずしも当てはまらないケースもあって、年齢が高い場合や低酸素脳症でも著効例が出てきているということでした。

私の経験では、4年前に、東京でDBSを行うある大学病院にお願いしたところ、断られたことがあります。

書かれているように、低酸素脳症では有効例が少なく、保険適用ではないから、ということでした。

しかし、当時から藤田保健衛生大学病院では、低酸素脳症でも、脳深部刺激(DBS)を自由診療で受け付けていました。

おそらく、それによってたくさんの症例を扱い、今回の発表に至ったのだと思います。

私も、いったんは藤田保健衛生大学病院のある愛知県豊明市への長逗留、もしくは転居を考えました。

しかし、自由診療ですから、もし脳深部刺激(DBS)を実際に受けていたら大変な額になっていたと思います。

私の場合、子2人だったので、現地の逗留費も含めるとたぶん1000万ぐらいかな。

もちろん、私自身はそれを検討するような経験は2度としたくありませんが、意識障害にある方のために、今回発表された著効例が、保険適用につながっていけばいいなと思います。

福寿草さんも、「脳はまだまだわからないことが多いようです」とまとめておられます。

家族が限界を勝手に決めつけずに、しかし患者本人の負担にならないよう、前向きに回復の道筋を掃き清めたいと思いました。

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がんばれ朋之!18歳、植物状態からの生還265日の記録、急性期60日

がんばれ朋之!18歳―植物状態からの生還「265日の記録」

がんばれ朋之!18歳―植物状態からの生還「265日の記録」

  • 作者: 宮城 和男
  • 出版社/メーカー: あけび書房
  • 発売日: 1996/12
  • メディア: 単行本


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