『包丁人味平 目には目を!の巻』ディテールはリアルな料理漫画 [生活]
『包丁人味平 目には目を!の巻』(牛次郎著/ビッグ錠画、小学館)が発売になったのでさっそく購入しました。1973年~1977年にかけて、『週刊少年ジャンプ』(集英社)に連載された人気マンガの、コンビニ販売用コミックスです。発表から42年たっても、新たに発売されるということは、根強いファンが多いのでしょう。
料理漫画のパイオニアってご存じですか。
美味しんぼ、ミスター味っこ、食キング、……いろいろな料理漫画が出ましたが、そのパイオニアは、
包丁人味平なんです。
たんなる料理の話ではなく、対決する展開も先駆者です。
テレビ番組の『料理の鉄人』などが対決する構成を採用しています。
42年も前の初出作品が、コンビニ用ムックとして毎月発売されていました。
9年前にも発売されていたのですが、そこで一定の売上があったのでしょうね。
ストーリーは、塩見味平という中学を出たばかりの少年が、せっかく入学の決まった高校入学を辞退し、キッチンブルドックで修行を積み、いろいろな料理の敵と対決する話です。
料理というのは、味や見栄えを漫画でリアルに表現することがむずかしいのですが、『包丁人味平』は、もともとそこに力点をおいていません。
むしろ、料理漫画なのに、肝心の料理の絵はあまりきれいではありません。
味の表現についても、ああだのこうだのと形容詞を重ねません。
美味いかまずいか、それだけです。
逆に、そのシンプルさが、表現で逃げないリアリティを感じました。
ただし、その境目はデリケートで、たとえば、味平の額からの汗が、入るかどうかの違いで、お吸い物の評価が変わります。←汗が入っていい塩梅とは……保健所の人が黙っていない、というツッコミは我慢しましょう(笑)
私が夢中になったのは中学の頃ですが、カレーライスを、肉体労働者に美味しいと言わせるにはどうしたらいいかと味平は知恵を絞る話がありました。
私も当時は、『巨人の星』の「大リーグボール2号(消える魔球)」の種明かしを推理するように懸命に考えました。
答えは、味を濃くすること。
肉体労働者は汗をかくので、濃い味を好むという種明かしでした。
シンプルですが、なるほど、と唸ったものです。
今号の『包丁人味平 目には目を!の巻』は、東洋ホテルの調理部長であり、「包丁貴族」の異名を持つ若き天才料理人・団英彦の懐に飛び込むべく、塩見味平が東洋ホテルに就職し、団英彦と鍔迫り合い行うところをまとめています。
『包丁人味平』の魅力は?
こんにちまで、いろいろな料理漫画が登場しましたが、にもかかわらず、こうやっていまだに『包丁人味平』が市場的価値を持ち続けているのはどうしてでしょうか。
私が思うところは、まず、一見、派手ですが、ディテールはたいへん地道でリアルな構成になっていることです。
他の料理漫画は、主人公にはとてつもないエピソードがあります。
たとえば『美味しんぼ』では、何かというと父子の確執が出てきて、それがストーリー上大きな影響をあたえるのですが、『包丁人味平』にはそういう周辺事情の煽りは一切なし。
塩見味平一家は、花板を父親に持つ、ありふれた3人家族です。
そして、父親を尊敬するがゆえに、自分も料理人になりたくて、せっかく合格した高校を辞退します。
でも塩見味平は決して天才ではなくて、最初はタマネギもバラせないし、キャベツを刻めば指の肉まで混じっちゃうところからスタートしているのです。
それが、大きな勝負に勝ってしまうのは、キッチンブルドッグという最初の修行先できちんと基礎を習得したことと、いつも料理のことばかり考えている純粋さゆえの閃きです。
これが、たとえばいい年の大人だったら、うそ臭くなったかもしれません。
こんな修行やってられっかよ、と思うだろうから。
が、15歳の少年であるだけに、そういう泥臭い展開も、リアリティや共感を得るところがあったのだと思います。
私は、若い頃、就職した会社をすぐにやめてしまったり、病気療養したりして、仕事の基礎を覚える20代をきちんと仕事で苦労してこなかったので、今読むと、改めて塩見味平の純粋さと努力は、「自分もこう生きるべきだった」と、反省や憧憬の対象になっているのです。
ただ、残念ながら、コンビニ版は、今回発売の分で終了だそうです。
続きはkindleで、と書いてあります。
私は本当は凝り性なので、そう書かれると、全23巻揃えたくなってしまうのですが、いちいち買い集めたらキリがないですしねえ。
迷っているところです。
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