『ガンは5年以内に日本から消える!』(宗像久男、小林英男/著、経済界)なる書籍を読みました。こうした書籍は、目も通さずに独断的に否定するのはよくないと思い、なるべく読むようにしています。しかし、本書はタイトルから既に誇大であり、中身も既存の「情報」を新事実もなく紹介しているところが目につきました。
松方弘樹の、脳腫瘍による休養が今日の急上昇トレンドキーワードになっています。
Facebook、アゴ勇氏投稿より
脳腫瘍といえば、女子プロレスラーのRayも、脳腫瘍で休養することが発表されました。
先日、渡辺謙の早期胃がんが芸能ニュースで取り沙汰されましたが、放射線医の中川恵一氏によると、過去の白血病治療による、二次がんの可能性もあると指摘(『日刊ゲンダイ』2016年2月20日付)しています。
がんは2人に1人がかかり、3人に1人の死因になると言われています。
しかも、糖尿病のように、本来は別の疾患でありながら、糖尿病患者は肺がんと前立腺がん以外の主要ながんに有意にかかりやすい、といわれているものもあります。
それだけに、闘病中や、過去にがんになった人だけでなく、すべての人にとって、がん治療は無関心でいられないことですから、正確な情報が求められています。
では、本書『ガンは5年以内に日本から消える!』は、そうなっているのでしょうか。
なるべく、いいところと悪いところの両方を枚挙したいと思っているのですが、以下、批判的なことばかりでメリハリのない書き方になってしまいました。
標準治療を否定し、客観的な根拠も成果も出ていない「療法」を紹介
まず、本書は、がんという病気が「消える!」とタイトルで断言した上に、「アマダレ」(!)までつけている自信満々の書です。
が、奥付を見ると、「2012年12月28日」が発行日です。
ということは、来年いっぱいでがんという病気が日本から消えなければ、タイトルからして虚偽情報ということになります。
「売らんかな」で、こういうタイトルを付ける神経を残念に思います。
そもそも来年まで待たなくても、本書には疑問符をつけざるを得ません。
ひとつは、本書は現在の病院の標準治療(ハイパーサーミアを除く)を否定しています。
ということは、治療によって生還できる人が本書を読み、治療の機会を失う可能性があるわけです。
そして、「対案」として本書に書かれている「療法」は、一時期騒がれたものの、すでに「流行」が過ぎてしまった(もちろん医学的に認められたものではない)ものがかなり含まれています。
たとえば、ゲルソン療法、ガンの患者学研究所、いずみの会、重水素低減水療法、がんワクチン療法……
糖質制限はがんに効く、などという項目もあります。
がんが、糖分を栄養とするから制限すればいいという理屈です。
しかし、糖質制限のデメリットはすでにいろいろ出ており、たとえば、「総死亡リスク」は、糖質制限したほうが1.31倍高かったという報告もあります。
ガンで死ななくても、心筋梗塞で死んだら何もならないでしょう。
本書は、がん対策として、(高い)体温や、免疫力を重視していますが、がんは一概に免疫力だけでは語れないので、免疫力にフォーカスしてしまう論理にも疑問があります。
また、体温が高いと免疫力が高い、というのは都市伝説とまではいいませんが、「免疫力の全体像を数値化するのはむずかしい」というのは、すでに以前のブログでご紹介したとおりです。
⇒
『効く健康法 効かない健康法』が指摘する5つの誤った情報
『効く健康法 効かない健康法』では、35度台の低体温症の人でも元気な人もいるし、高めの人で病気がちの人もいる。欧米人は日本人より1度ほど平均体温が高いが平均寿命は日本人より短い、など反論しています。
要するに、医療従事者ではない私ごときですら、簡単に突っ込める、浅い内容の話がもっともらしく書かれているのです。
掲載されている「療法」
具体的に本書に掲載されている上記の「療法」のいくつかについて、私の見解を述べておきます。
ゲルソン療法
塩分をできるだけ抑えた食事で、動物性タンパク質や油脂を摂取せず、大量の野菜・果物ミックスジュース(生搾り)を飲む「療法」です。
「動物性タンパク質や油脂」を摂らない食生活に、「ヘルシー」というイメージがありますが、一方でこのゲルソン療法は、「植物性タンパク質」の豆類摂取は勧めています。
でも、「動物性タンパク質」と「植物性タンパク質」はどちらにしても「タンパク質」ですし、豆類由来の「豆乳」には、大量の「(植物)油」が含まれています。
要するに、
矛盾を含む曖昧な根拠で、かつ偏った食材推奨との印象は否めません。
しかも、この療法のキモは、野菜・果物ミックスジュースに含まれる「酵素」に期待を寄せていることですが、ジュースにしたら酵素だってそのままではないし、どちらにしても人間の腹の中で分解されてしまいます。
ガンの患者学研究所
NHKの集金人から同局ディレクターに昇格した、川竹文夫氏が主催するガン患者の会を本書では紹介しています。
川竹文夫氏自身が腎臓がんを過去に患ったそうですが、治療が苦しかったそうで、元がん患者の立場から、標準治療を否定しています。
でも、川竹文夫氏自身は、標準治療のおかげで腎臓がんから生還(10年以上経過)しているのに、それはないんじゃない? と私は思います。
川竹文夫氏は、5年生存率向上の「まやかし」、がんはもっぱら免疫力の病気、といった主張をして標準治療を否定していますが、医学的な裏付けは全く無く、というより医学的にははっきり否定されている「独自の説」です。
いずみの会
2011年に亡くなりましたが、スキルス胃がんから生還したという中山武氏が始めた、がん患者の会です。
やはり、標準治療を否定しています。
会員の生存率が97%と威張っている会です。
が、その数字は中山武氏の勝手な解釈によるものです。
会員は、終末期の人は入会お断りで、かつ早期がんは大歓迎で半数近くいるにもかかわらず、私が計算したところ、会員の5年生存率は60%すら切っている可能性もあります。
要するに、会員の「5年相対生存率」は、今の医学(64.3%)で出ている全体の数字より悪いかもしれないのです。
このカラクリは、本ブログでも詳しく書いています。
⇒
「5年相対生存率」で、いずみの会の「驚異の生存率」を思い出す
まとめ
そんなに簡単にがんが克服できるのなら、本書のタイトルではありませんが、とっくにがんは「消えて」います。
タイトルを見ただけで、たいていの方は怪しまれるかもしれません。
ただ、本書を手に取る人の中には、ワラにもすがる思いで情報を得たい、という方もいらっしゃるでしょう。
にもかかわらず、客観的な立証もできないまま、表舞台から消えた「療法」を、新事実もないのに改めて紹介するのはいかがなものでしょうか。
先日ご紹介したように、たとえば歩くことが健康回復に有望であることを述べている医師の書籍もあります。
⇒
『病気の9割は歩くだけで治る!』歩行が医者いらずの人生に!?
貴重な時間を使って情報を得るなら、安易に標準治療を否定するものよりも、標準治療をきちんと行いながら、よりよい方向を模索している真面目な医師の書籍を選ばれたほうがいいのではないかなあと私は思います。
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