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『2015年2月福島放射能調査報告書』樽葉町の水はセシウム不検出 [(擬似)科学]

『2015年2月福島放射能調査報告書』を、安斎育郎氏(放射線防護学者、安斎科学・平和事務所)からいただきました。福島第1原発の事故以来、水や土の汚染が心配されている福島の、放射能汚染や放射線被曝について毎月実態を調べている「福島プロジェクトチーム」。その調査結果が報告されているのでご紹介いたします。

2015年2月福島放射能調査報告書

安斎育郎氏ら研究者、技術者数名は、福島第1原発事故以来、「福島プロジェクトチーム」を組織。定期的に福島に赴き、放射能汚染や放射線被曝に関して、科学的な実態調査を誠実に実施しています。

その結果を踏まえて、放射能環境を偽りなく見立て、被ばくの低減のために実行可能な措置を具体的に提案して、「被曝のリスク」の極小化のために役立つことを目指しているそうです。

たとえば、『2015年2月福島放射能調査報告書』では、南相馬、樽葉の民家や公道、水源などを計測し、その結果を報告しています。

事故当初、マスコミで報じられたのでご存じの方も多いと思いますが、原発事故による放射能は、同心円状に拡散したわけではありません。

双葉、浪江、南相馬、飯館など原発から北西方面と、大熊、富岡、樽葉など南西方面に、比較的強い放射能雲(プルーム)の流れがありました。

放射能雲(プルーム)
『2015年2月福島放射能調査報告書』より

「く」の字をひっくり返したような形で広がったわけです。

福島プロジェクトチームは、その南西方面にある樽葉町において、2月27日に6検体の水を検査しています。

宝鏡寺、ここなら商店街、大谷地区集会場、第3発電所放水口上流側、同下流側、長瀞橋下の木戸川の水、木戸川加工口の水、です。

セシウム134(半減期2年)、セシウム137(半減期30年)、カリウム40(自然放射性物質)などを調べ、すべて「不検出」ということです。

そこまで水汚染は改善されているんですね。

報告書では、写真付きでそうした各地の調査の様子が、調査結果とともに報告されています。

今改めて「鼻血問題」を考える


『美味しんぼ』の鼻血問題では、原作者が再反論を先日行いました。

その件で、安斎育郎氏は『プレイボーイ』誌からメール・インタビューを受けたそうです。

ただし雑誌に掲載されるのはその一部だろうから、「部分的な引用によって誤解を招く心配もあるので、ここにその回答の全文を紹介」しています。

中身は、『プレイボーイ』誌側がいくつか設問をつくり、安斎育郎氏がそれに回答する形をとっています。

総論ともいうべき、回答の「はじめに」の部分を全文ご紹介します。

 私は、今更ながら鼻血問題に焦点を当てて、その問題にどのような見解をとるかによって放射線研究者や専門家と言われる人を「肯定派」と「否定派」に分類して、声を一つに原発問題の本質に迫る国民運動に内部対立を作り出すようなことには、根本的に批判的です。

論争要因を持ち込むことは為政者が常用する手段であり、再稼働問題が目の前にある現在、私は日本の原発開発をめぐる国際関係・政治・経済・社会・科学・技術・文化全体の本質に迫り、個別の問題についての見解の違いをこえて、未来世代に責任をもつエネルギー政策の選択をすべきだと確信しており、鼻血問題に焦点を当てる企画意図が理解出来ていません。

毎月福島に通って放射能調査に取り組みながら、原発事故の甚大な社会的影響に苛まれている福島の人々と接している身には、それはかなり深刻な問題意識です。

『美味しんぼ』では、鼻血だけでなく、常ならぬ倦怠感も訴えていると思われるので、鼻血問題だけ取り上げるのは放射線影響学的には適当ではないと感じています。

放射線被曝によって全身倦怠感を生じるには、人によって違いがあるとはいうものの、1000ミリシーベルト程度でしょう。

感受性の高い人でも200ミリシーベルト程度以下では起こりにくいでしょう。私が事故から5週間後に(立ち入り禁止前の)浜通りをいわきから相馬まで調査したときの全体の被曝は0.022ミリシーベルトでしたから、取材で200ミリシーベルトも浴びるにはかなりきわどい高汚染エリアにそれなりの時間留まったことになるでしょうが、そのような高い被曝を伴う取材を許すとは考えられません。

ということです。

それ以外にも、各設問に対して具体的な数値で回答されています。

各設問の回答は、機会をみつけて、またご紹介したいと思います。

安斎育郎氏の立場は、「事態を侮らず、過度に恐れず、理性的に怖がる」こと。

無原則にキケンキケンと煽ることは戒めていますが、政府の決めた「年間20ミリシーベルト以下」なら安全、という見解は一切とっていません。

「しきい値」は「がまん値」であり、不必要な被曝は避けるべきだという考えです。

今後も、福島プロジェクトチームの調査報告について、記事にしていきたいと思います。

原発事故の理科・社会

原発事故の理科・社会

  • 作者: 安斎 育郎
  • 出版社/メーカー: 新日本出版社
  • 発売日: 2012/09
  • メディア: 単行本


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