日本相撲協会の“裏金顧問”が解雇されたと報じられました。そこで、新刊ではありませんが、読んでみたのが、『土俵の矛盾ー大相撲 混沌の中の真実』(舞の海秀平著、実業之日本社)という本。中継解説者にしては、という前置き付きながらも、舞の海によって踏み込んだことが書かれています。
『日刊ゲンダイ』(2016年3月5日付)最終面で、興味深い記事が出ていました。
貴乃花理事とグルの“裏金顧問” 相撲協会から解雇されていた
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/176588
北の湖前理事長の“右腕”といわれた顧問の話です。
いわゆる、パチンコ利権疑惑で話題になりました。
あるメーカーが、「パチンコ大相撲」を日本相撲協会公認でつくろうとして、北の湖理事長の“右腕”顧問が500万円の裏金を受け取った、という報道がありました。
『週刊ポスト』(2014年1月24日号)の、『相撲協会「1億円パチンコ利権」北の湖の“右腕”への“裏ガネ授受現場”』という記事です。
ネットには、現金授受の動画が公開されるなど騒然となりましたが、“右腕”氏は裏金を否定。
そんなシーン、わざわざ録画するのか、誰がどんな目的で?
と、にわかに信じがたい話ですが、今もYouTubeに動画は残っています。
同紙によると、角界の浄化を旗幟鮮明にした八角新理事長。
一方その“右腕”を利用して、自分が1日もはやく理事長にのし上がりたい貴乃花理事。
2人の間には、大きな対立があると同紙は報じてきました。
そこで、今後はどうなるか、というところで、今回の報道です。
最近は、かわいがり、大麻、野球賭博、八百長と、「黒い話」ばかり出ていました。
やっとほとぼりがさめたかなというところですから、イメージを大切にしようと、八角理事長がナタを振るったのでしょう。
相撲界の裏の苦労はよく書かれているが……
『土俵の矛盾ー大相撲 混沌の中の真実』というタイトルにある「矛盾」とは何でしょうか。
大相撲は、オリンピックのようなスポーツ性そのものが本質ではありません。
厳粛とされる神事の一環として、魅せる伝統芸能である、というのが著者の説明です。
ありていに述べるなら、
神事ショービジネスということです。
つまり、神聖なのではなく、神聖であることを表現しているにすぎないのです。
それから、相撲は国技だなんて言われますが、国技という規定はどこにもありませんから「自称」に過ぎません。
……なんて書いたところを読んで、がっかりしてしまう方には、この本は少々厳しい内容が書かれているかもしれません。
著者は、「大相撲は矛盾だらけで曖昧な日本人社会の縮図」だとはっきり述べています。
「曖昧」とは、虚実が曖昧、ということです。
たとえば、身体検査を通るために、頭にシリコンを入れるという反則でクリアし、それを後から堂々と話せるいい加減さなどは、そのひとつです。
落語家は、実家にある程度の経済力がないと弟子にしないという話がありますが、相撲界も似たようなところがあるようです。
スポンサーもいない弱小部屋は、弟子が関取になっても化粧まわしも作ってやれず、自前で作らせる(100万以上)ことがあると著者は暴露しています。
2ヶ月で15万しかもらっていない幕下力士に、そんな金は作れません。
ですから実家の力が必要になるわけです。
昔、私は横浜の保険会社で働いていたのですが、横浜出身のある女子レスラーの実家が、娘のプロモーションにカネがいるからと、積立の火災保険を解約したなんて話を聞いたこともあります。
もちろん、スポンサーを上手に増やしている要領の良い親方だったら、そんなことはさせないのでしょうけど。
ショービジネスの裏側は、そんなものかもしれませんね。
年寄名跡が、億単位でやりとりされている現状にも、著者は批判的に取り上げています。
一方、野球賭博と暴力団の関係についての記述は甘いな、と思いました。
同書によると、相撲と任侠のルーツは武士道で、似ている部分があるので惹かれ合ってしまうと書かれています。
その言い分は、なべおさみの著書『やくざと芸能と 私の愛した日本人』(イースト・プレス)などにも書かれていましたが、問題はそこじゃないだろう、と思います。
つまり、反社会的な行動原理や現実をどう見るか、公益財団法人日本相撲協会として、またはその一員として反社会的組織やその一員との接触はどうなのか、という当たり前の論点に基づけば、ナイープな任侠賛美の個人的主観と、野球賭博に関わることの是非は全く別問題であることは明らかでしょう。
島田紳助にしろ、清原和博容疑者にしろ、そこが曖昧だから、表舞台から消えざるを得なかったのでしょう。
繰り返しますが、相撲は神事を表現する「興行」なのですから、いずれにしても人気とイメージが第一です。
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