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『だまされて貰います』植木等、加藤茶、谷啓 [東宝昭和喜劇]

だまされて貰います

『だまされて貰います』(1971年、渡辺プロダクション/東宝)を観ました。1960年代東宝喜劇映画の屋台骨を支えたクレージー映画のうち、クレージーキャッツが全員出演するクレージー作戦シリーズの14作目になります。もっとも、クレージー作戦シリーズといいますが、タイトル名にそれは入らず、クレージー・キャッツ全員が出演するシリーズ最終作であるにもかかわらず、加藤茶が出演することが強調された作品になっています。



だまされて貰います
『日本映画専門チャンネル』より

このブログでたびたび書いてきましたが、東宝クレージー映画と呼ばれる作品は全30作あります。

その中身は、『無責任○○』や『日本一の○○』というタイトルの植木等主演が12作、クレージーキャッツ全員が出演する『クレージー○○』が14作、やはりクレージーキャッツ全員が出演する時代劇が4作です。

本作は、東宝クレージー映画としては29作目、クレージーキャッツ全員が出演する作品としては14作目、すなわちファイナル作品です。

しかし、タイトルに「クレージー」とは入っていません。

そして、彼らにとっては後輩の、ザ・ドリフターズの加藤茶が植木等との2枚看板で出演しています。

つまり、見方によっては、クレージー映画でありながら、「クレージー」色を消して、当時人気上昇中だった加藤茶で集客を狙っているように見えます。

なぜそんなことを、といえば、ひとつは、残念ながらこの時期のクレージー・キャッツの人気凋落があります。

この当時、ハナ肇が「アッと驚く為五郎」というギャグでブームを盛り返したり、植木等個人は、「このさい、かーちゃんと別れよう」というボンカレーのCMが話題になったりしていましたが、グループとしては、もはやザ・ドリフターズの時代に入っていました。

実際、本作の当時の観客は70万人といいますから、全盛期の3分の1ぐらいだったのではないでしょうか。

では、そこまでして、どうしてクレージー映画を撮ったのか。

かつて一世を風靡した功労者であるクレージーの映画を、何とか区切りの30作まで撮らせたい、という渡辺プロダクション総帥・渡辺晋氏の思いがあったのではないかと思います。

本作は、東宝ではなく、渡辺プロダクションがお金を出し、近代放映という制作会社が作り、東宝は配給だけ行っています。

すでに制作と配給を分社化した東宝は、自らクレージー映画を制作する気はなかったのかもしれません。

しかし、それによって、作品の権利関係が複雑になり、東宝クレージー映画のうち本作など渡辺プロなどがライセンスを持つ最後の4作は、東宝でDVD化されていません。

その意味では、凋落時の不人気作ではあっても、マニアの間ではお宝作品でした。

それが、日本映画専門チャンネルと、時代劇専門チャンネルとの「戦後70年共同企画」の一環として、1月から集中放送されている「植木等劇場」の一作として、6月と7月にかけて何度か放送されたのです。

詐欺師がなんとなく成功をつかむ話


伊賀良太郎(植木等)は詐欺師。東北の町で新幹線建設事業の下検分というホラを吹いて、農協職員の小村忠作(加藤茶)を騙し、小料理屋の娘・花子(小山ルミ)まで連れ去ってしまいました。

良太郎(植木等)は、今度は東京で、ガソリンを水に変える発明に熱中する早川源内(谷啓)と、妹の光子(野川由美子)に出会いました。

良太郎(植木等)は、それを逆にして「水をガソリンに変える」と喧伝。水の上に薄く油を敷き、火をつけるトリックで信用させ、アメリカのエンパイアケミカル社のジョージ・広田(田武謙三)から、アメリカに来てほしいと言われます。

アメリカでは、良太郎(植木等)を追いかけてきた忠作(加藤茶)と再会。良太郎(植木等)らが席を外している隙に、忠作(加藤茶)はウイスキーの瓶に入れたその油を飲んでしまいます。

が、忠作(加藤茶)が立ち小便をしようとしている時に彼らは忠作(加藤茶)を見つけ、「まだ尿に残っているかもしれない」と小便を取り、アメリカエンパイアケミカル社の佐倉(桜井センリ)に渡します。「アンモニアの匂いが強いけど大丈夫でしょう」と火をつけると、たしかに尿からは火が出ました。

良太郎(植木等)は、さらに、中近東代表通訳の安村 (安田伸)から、その発見を忘れてくれれば、年間360億円を支払うと言われます。

大金を手にした良太郎(植木等)は光子(野川由美子)と結婚。忠作(加藤茶)も花子(小山ルミ)と結婚します。

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……ストーリー的には、やっぱりラス前の作品ですね


これまでにもバカバカしいネタはありましたが、小便を小道具に使うのは、クレージーキャッツの笑いとは違うんじゃないでしょうか。

また、それまでの植木等の役は、詐欺師的ではあっても、一応正業を持っていたり、口先三寸で就職したりしていました。つまり、社会の枠組みの中で裏をかくようなことをしていたわけですが、詐欺師そのものですと、たんなるならず者ですよね。

しかも、単純なハッピーエンドというのも、以前とは違います。

全盛の頃は、騙され一敗地に塗れてから復活したり、逆にものすごくうまくいっているときは、思わぬ落とし穴があったりしました。

要するに、キャラクターもストーリーも、平板になってしまったのです。

日本一男も歳を取り、映画の中でさえ、そうした活躍はきびしくなっていたのかもしれません。

本作は、一応海外ロケがあり、植木等と谷啓が歌い踊るシーンがあるのですが、『クレージー黄金作戦』のように、ラスベガスのメインストリートを封鎖して、クレージーキャッツ全員が踊ったような豪快さに比べるとなんともささやかです。

ラスベガス
『クレージー黄金作戦』より

そして、クレージー映画は、次作『日本一のショック男』で幕を閉じます。

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