『加山雄三のブラックジャック』(1981年1月8日~1981年4月9日、松竹/テレビ朝日)を先日ご紹介しましたが、今回はその第6話「復讐こそわが生命」(1981年2月12日)について書きます。医学的にはフィクションの面もありますが、単なる荒唐無稽な展開ではなく、ディテールの真実を描くために上手にまとめています。(画像は劇中より)
『
加山雄三のブラックジャック』については、放送当時、「原作のイメージを壊す」という批判が多くあり、私もそのような先入観があったものの、今改めて観て、考えが変わったことを前回書きました。
『加山雄三のブラックジャック』ふたつの愛、加山雄三、村野武範
昭和サブカル的興趣(要するに
カルト作品)をもって、一部のマニアには以前から評価が高かったらしいですね。
確かに昭和らしい、なんとも言えぬ温かさがある、決して失敗作とはいえない“
原作の本質を損なわない実写版TVドラマ”だと思っています。
マンガを実写化するのはむずかしいといいますが、一方で、マンガでは味わえないリアリティを映像化できることもあります。
今回ご紹介する、「
復讐こそわが生命」(1981年2月12日)も、そのひとつです。
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ネタバレ御免のあらすじ
脱サラして、伊豆の伊東で「
ペンション城ヶ崎」を始めた浦島(
宗方勝己)。
予約も次々入り順調な滑り出しで、家族団らんの食事も明るかったが、そこに1本の電話が。
妻(
音無美紀子)が電話を取ると、「大変な手違いがあったんです。絶対に(ご主人の)カバンを開けてはいけません。
開けると爆発します。これからすぐ回収に行きます。それまでカバンには手を触れないでください」との警告が。
電話の主は、「人民の圧倒的勝利を目指す、
ブラックジャガー」と名乗りました。
妻(音無美紀子)は慌てて、
「
あなた、カバンはあけないで!」
と言いかけたが遅かった……。
翌日、
ブラックジャックの普段の姿、坂東次郎(
加山雄三)は、ブラックジャガー数名に拉致され、政府高官と間違えて犠牲になった浦島一家4名が、「
瀕死の重傷」だからと身柄を押し付けられました。
しかし、見ると「重傷」どころかみんな
黒焦げの塊。
唯一、電話に出ていた妻だけが比較的きれいな遺体でした。
ブラックジャックは、他の3人の“
使える部位”を妻に移植し、妻だけはなんとか
息を吹き返します。
さすがブラックジャック、といいたいところですが、さすがにこれは
フィクションですね。
全身やけどだけなら、生還でも驚きませんが(もちろん実際の医学では驚きですが)、死んで1日以上たったら脳みそが蘇生するわけないだろう、と思いますから……。
もっとも、
人工臓器を使いまくるこの物語に、そういうツッコミは無用なんですけどね(汗)
浦島妻(音無美紀子)は、ブラックジャックをブラックジャガー、つまり爆弾犯と勘違いし、
憎しみをつのらせます。
ブラックジャックは、
復讐心が生きる支えなら治療に利用しようと、あえて誤解をときません。
一方、坂東次郎はブラックジャガーと再び接触を持ち、浦島妻の手術代として、彼らのハイジャックの成果
5000万円を分捕り、「ペンション城ヶ崎」の建て直しに使い、3人の墓地も作ります。
ブラックジャガーはその後、公安に追いつめられて
自決などで壊滅。
もう時期が来たと思ったブラックジャックの執事・遠藤(
松村達雄)は、浦島妻に、彼女の
復讐心が誤解に基づいていることを説きます。
いよいよ退院の日。ブラックジャックは、浦島妻と墓参りし、さらに以前と同じように建てなおされた「ペンション城ヶ崎」まで送っていきます。
浦島妻が気がかりなブラックジャックは、夜、
お金を包んでもう1度「ペンション城ヶ崎」に寄ってみると、彼女は一人で食事をしていました。
でも、彼女は、
そこにはいない家族に、まるでいるかのように話しかけています。
「パパ、私、きれいになったでしょ。ほっぺたと顎の骨をパパからもらったからよ。ユキちゃん、目をありがとう。とってもよく見えるわ。(頬を触って)このへんの皮膚も血管も、ユキちゃんのですって。マモルちゃんにはね、食道と胃をもらったの。
みんな、ありがとう」
窓越しに、心なしか目をうるませたブラックジャックが2~3度うなずいてエンデイングです。
観終わって……
浦島妻の蘇生自体があり得ないフィクションですが、私自身は4年前の
火災で、もしかしたら妻子を失っていたかもしれないので、浦島妻の話は他人事のような気がせず、ドラマでありながら捨て置けない気持ちで観てしまいました。
浦島妻は、自分の体に自分の家族が生きているので、生きる支えがあるわけですが、でももし自分があのまま一人ぼっちになったらどうなっただろう、なーんて考えさせられました。
実写化で実際の人間が演じたからこそ、感情移入できるリアリティがあるのだろうと思います。
マンガの実写化というと、このドラマにかぎらず、批判が多いのですが、
実写化したことが感情移入の契機となり得ることは、批評される方々にはぜひ知っておいて頂きたいですね。
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