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『馬鹿が戦車でやって来る』イジメや差別を喜劇でまとめた傑作 [懐かし映画・ドラマ]

『馬鹿が戦車でやって来る』(1964年、松竹)を鑑賞しました。團伊玖磨の小説『日向村物語』が原作です。戦車は「タンク」とカナがつき、劇中でもそう呼んでいます。山田洋次監督・ハナ肇主演のコンビで作られた「馬鹿シリーズ」の第3弾です。馬鹿とついても、決して作品としてバカバカしいわけではなく、打算や他人の評価などを計算しない男を描いた作品です。



山田洋次とハナ肇のコンビによる「馬鹿シリーズ」は、『馬鹿まるだし』『いいかげん馬鹿』、そして今回の『馬鹿が戦車でやって来る』があります。

ネットのレビューを見ると、どうも今回がいちばん評価が高いですね。

きっと、“乱暴だけど打算のない純朴な男”というキャラクターが、3作目になって作る方も観る方にもこなれてきたのでしょう。

馬鹿が戦車でやって来る
『馬鹿が戦車でやって来る』より

ストーリーは、釣り人(谷啓、松村達雄)と、船頭(東野英治郎)による船中の会話よって進められています。

釣れるスポットまでもう少し沖に出ることになりましたが、その間の退屈しのぎとして船頭が、ここらへんには「戦車でやって来る馬鹿」がいたと口を開き、物語がスタートするのです。

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ネタバレ御免のあらすじ


松竹が予告編をYoutubeにアップしています。


サブ(ハナ肇)は、発話障害で発達障害の弟・兵六(犬塚弘)と、耳の遠い母親・とみ(飯田蝶子)との3人暮らし。もともと小作でしたが、農地改革で自分の土地を持てました。

しかし、がさつな兄と、障がい者の弟がいるという口実で、村人は一家を“汚れ者”扱いしています。

村人たち(小沢昭一、菅井一郎、田武謙三、小桜京子、天草四郎)は、特に悪気があるわけではなく、個々にはサブと話もできるのですが、サブ一家をスケープゴートにすることに逆らいもしません。

要するに、イジメと同じですね。

誰か、いじめられっ子を作っておくことで、自分がその立場になることから逃れているわけです。

地主だった仁右衛門(花澤徳衛)は、何とか自分の土地を取り戻したいという欲を持ち、サブ一家の土地を狙っています。人相も悪くなって、今や自分のところに残っているのは娘・紀子(岩下志麻)だけです。

この当時は、70年代以降メディアが自粛している言葉がボンボン出てきます。

赴任した警官(穂積隆信)が、兵六を見て、「キチ×イか」なんてごく普通につぶやいています。

紀子は長い間病床にありましたが、若い医者新吾(高橋幸治)のおかげで起きあがれるようになりました。

そこで、仁右衛門は人を呼んで快気祝いを行うことにしました。

紀子と幼なじみだったサブは、床屋(渡辺篤)に行ってヘアスタイルを整え、背広も来て祝いの席にやってきますが、「お前なんかの来るところじゃない」と追い返されます。

サブは暴れて警察送りになりますが、その間に仁右衛門は、とみを騙してサブ一家の土地を巻き上げてしまいました。

そこで、いよいよ腹の底から怒ったサブは、旧陸軍のタンクを走らせ、村中の家屋を壊してしまいました。

復讐を遂げてスッキリしたサブでしたが、そんなとき、兵六が鳥の真似をして火の見やぐらから落ちて死んでしまいます。

サブは、兵六をタンクに乗せて、新吾の病院で兵六が亡くなったことを改めて確認後、タンクのまま海に入ります。

船頭によると、サブだけは海から出てきたらしいのですが、その姿は杳として知れない、というラストです。

体裁は喜劇でも山田洋次的風刺の世界が描かれている


自己保身で、いわれのない差別をよしとする大衆。善良な“下々の人々”を相手にあくどいことをする地主。

現代においても、この構造は変わらないと思います。

地主のところを、「独占資本」と置き換えればピッタリですね。

しかも、被差別者にいったんはハチャメチャな報復をさせるのですが、すぐさま不幸が訪れ、結局かわいそうなほしのもとの人間には、そんな報復しかできない、そして、幸せになるのは容易なことではないという悲しい結末です。

一応、喜劇ではあるのですが、かなり深く重い山田洋次監督のメッセージが込められています。

むしろ、喜劇の体裁でもとらないと描けないということなのかもしれません。

役者はもう、きちんと芝居を出来る人だけを集めていますから、監督や脚本の意図を演じていると思います。

『喜劇一発勝負』や、『喜劇一発大必勝』あたりを見ると、若いころの山田洋次監督はこんな映画を撮っていたのか、とびっくりしてしまいますが、この『馬鹿が戦車でやって来る』には、山田洋次イズムともいうべき風刺の精神がよく表現されていると思います。

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それにしても不思議なのは、ハナ肇と山田洋次監督のコンビでは、岩下志麻がヒロインとして重用されているのに、あの国民的映画『男はつらいよ』では、1度もマドンナになっていないことです。

山田洋次監督と合わないのなら仕方ありませんが、他の作品では大事な役に起用しているのに、不思議です。

少なくとも、当時岩下志麻は松竹の看板女優でしたから、真っ先に起用されてもいいのではないかという気がします。

まあそういう意味では、香山美子や島田陽子や倍賞美津子など、当時松竹と契約していた女優でも、マドンナ経験がない人はいるんですけどね。

その謎を解くために、山田洋次監督による作品を、もうしばらく観続けてみたいと思います。

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  • 出版社/メーカー: 松竹
  • 発売日: 2012/12/20
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