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「5年相対生存率」で、いずみの会の「驚異の生存率」を思い出す [(擬似)科学]

5年相対生存率

「5年相対生存率」が今日の急上昇キーワードになっています。日本人全体を基準にして、あるがんの患者について、どのくらいの割合で、5年後に生存しているかという数字だそうです。その平均の数字が64.3%であると、国立がんセンターが患者16万人を集計して発表したというのです。

ニュースのタイトルです。

がんの5年相対生存率64.3%=患者16万人を集計―国立がんセンター
時事通信 9月14日(月)20時10分配信

「20時10分」なので、まだホヤホヤのトレンドニュースですね。

ニュースでは、177施設(46都道府県)の患者情報を集計し、部位や地域による違いについても書かれています。

これまでの数字を把握していないのですが、60%を超したということは、全体としては数字は上がっていると思います。

ただ、早期発見による早期がん治療増加で数字が向上しただけで、難治なものの数字が上がったとは限らないので、この数字だけでがん治療が画期的に変わったように語るのはむずかしいかもしれませんね。

がんになれば、やっぱり自分の部位がどうであるかが大事で、よその部位や全体の平均生存率が上がったかどうかは、そんなに関心はないと思いますし。

関心のある方は、タイトルで検索して御覧ください。

独自の「生存率」


ところで「生存率」といえば、一時期、マスコミで話題になった「脅威の生存率」を思い出します。

いずみの会というがん患者の会が、会員の5年生存率97%と、『論より証拠のガン克服術』(草思社)という書籍で発表し、ひところ話題になりました。



『論より証拠のガン克服術』(草思社)の著者は、スキルス胃がんから、通常の治療を拒否して生還したと述べている中山武氏であり、いずみの会は、著者が立ち上げたNPO法人です。
(中山武氏は2011年に肺炎で亡くなったと報じられました)

97%といえば、100人中97人ですから、すごい数ですよね。

冒頭のニュースの「64.3%」どころの話ではないですよね。

じゃあ、その会は、現代医学の粋を超えるような特別な施術を行っているのかといえば、そんなことはありません。

ではどうして?

そこにトリックがあるわけです。

結論から述べると、いずみの会でいう「生存率」と、冒頭のニュースで言う「生存率」は、内容が違うのです。

日本人全体と比べる「相対生存率」ではなく、いずみの会に入れば、会員の97%が5年後生存できるという意味でもありません。

たんに、会全体の数字を示したものに過ぎません。

まず、同書に書かれている時点で、いずみの会は会員数471名、その中で亡くなった人が13名。だから、「生存率」は97.2%と同書は宣伝しています。

が、いずみの会では、入会後半年以内に亡くなった会員は、会員としてカウントしていないそうです。

そのような「幻の会員」が24名もいます。初めから終末期の人は入れないのです。

しかも、会員の病歴リストによると、103人中、半分近い50人がステージ1、末期のステージ4はたった5人、再発転移も7人しかいません。

つまり、もともと標準治療で、ある程度の割合が生存できる人たちだけが会員なのです。

同書は、次のようにデータを公開しています。「犠牲者」というのは、亡くなった人です。

1997年度、実質患者166名、犠牲者 5名、生存率97.0%
1998年度、実質患者174名、犠牲者 7名、生存率95.9%
1999年度、実質患者187名、犠牲者 7名、生存率96.3%
2000年度、実質患者266名、犠牲者14名、生存率94.7%
2001年度、実質患者258名、犠牲者25名、生存率90.3%
2002年度、実質患者272名、犠牲者17名、生存率93.8%

5年目でも「生存率93.8%」と見ると、多そうですよね。

でもこれ、1997年に入会した患者「166名」の生存率ではないのです。

1997年以降の同会の5年間の「犠牲者」は合計75名。

かりに、それがすべて97年入会組だとすると、本来の意味での(5年)生存率は54.8%でしかありません。

もし、「75名」が97年組以外も含まれるとすれば、その人々はいずみの会に入会しても5年持たなかった人がいるということで、もっと悲惨です。

そして、会は、毎年「犠牲者」が出ているはずなのに、会員は増えています。

会員は、毎年新しい人が入っているわけです。新しい人。つまり「余命」のある人。

ですから、その年度ごとの会員全体の「生存率」を高めることは簡単なんです。

そもそも、「犠牲者」という表現がいかがなものでしょう。

要するに、標準治療という“凶悪犯”の毒牙にかかった、といわんばかりです。

でも、生存者だって標準治療の結果ですよね。

要するに、いずみの会は、生存するのはいずみの会のおかげ、亡くなったら標準治療のせい、と言っているようなものです。

そりゃ、我田引水が過ぎませんか。

いろいろな民間療法がありますが、がん治療は生易しいものではありません。

手術で切り取ったり、化学療法や放射線で退治したりする方法にかなうものはないと思います。

私は、こういう同じ立場の人々の会は、その立場になれば必要なものだと思います。

だからこそ、西洋医学かそれ以外か、という医療的価値観で患者同士の対立軸を作るのではなく、だれでも意見や情報の交換を行えるような会であって欲しいと思います。

健康情報・本当の話

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  • 作者: 草野 直樹
  • 出版社/メーカー: 楽工社
  • 発売日: 2008/05
  • メディア: 単行本


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