バカの壁(養老孟司著、新潮社) [社会]
養老孟司の『バカの壁』(新潮社)は、2003年に出版された平成一のベストセラーで、129回増刷、通算450万部を売り上げたそうです。現代社会における人間のコミュニケーションや思考の限界について洞察を述べたエッセイです。
タイトルの「バカの壁」の「バカ」とは、他者の意見や視点を理解しようとせず、自分の固定観念や思い込みに閉じこもることを指します。
本書『バカの壁』は、科学者の書いた啓蒙書的エッセイであるにも関わらず、大ヒットしました。
タイトルが目を引いたのかもしれませんが、それだけ読まれているにも関わらず、いまのネットのSNSを見ていると、むしろ近年、著者が指すところの「バカ」は桁違いに増えているように思えてなりません。
たとえば、今回の兵庫知事選などは、格好の例になってしまいました。
当選した知事の側に、公選法違反容疑で司直の捜査が入るのではないかといわれていますが、加えて脱法的な立候補で応援していた人も刑事告訴されました。
こちらも兵庫県知事選にからみ捜査が進みますね>告訴は22日付で警察に受理=兵庫・百条委委員長 奥谷県議が立花孝志氏を告訴 SNSでウソを投稿されたとして名誉毀損で訴え(読売テレビ) https://t.co/fmqstjrr74
— 紀藤正樹 MasakiKito (@masaki_kito) November 23, 2024
問題になったから云うのではなく、投票前から懸念を表明していた弁護士やジャーナリストはいたはずです。
斎藤元彦知事は公選法違反「疑惑」を晴らせるのか 弁護士が指摘「考えられる3つの弁明」と問題点(ENCOUNT) https://t.co/VcoQsrNx1M
— 宍戸 開 (@quai44) November 25, 2024
これは、宍戸錠さんの息子さんの宍戸開さんのポストですね。
もちろん、今の時点で知事が起訴されるかどうかはわかりません。が、すくなくとも、「自分一人ではじめた」という、当選した知事の言い分は虚偽だったことがわかりました。
それでもまだ、知事を擁護する人がいて、知事も女性プランナーの被害者だ、騙された、なんて言う人がいるのですが、そんなプランナーを使った事自体が、公人として駄目なんですよ。公人は騙される事自体が「悪いこと」なんです。
たとえば、政治家の不倫について、「政策がちゃんとしていれば、不倫ぐらいいいではないか」と言っているおめでたい人がいますよね。
その女性が、マタ・ハリのようなスパイだったらどうするんですかー。
一部の政治家が、特定の国に甘いのは、ハニトラに引っかかって弱みを握られているからといわれているじゃないですか。
話を戻すと、信じるのはいいとして、問題は、一旦信じた人たちが、当時から「それはおかしいですよ」という諫言があったにもかかわらず、耳をかさなくなっていたことです。
私も書いたでしょう。マスコミと知事とどっちが正しいかに振り切るのではなく、「どっちもおかしいことがある」という両方の立場から、冷静に考えられないのかと。
オール・オア・ナッシングでものを考えたら、真実には肉薄できませんよ。
なのに、SNSという偏った場で、都合の良い意見だけを選び読み、自分の意見を一方的に述べるだけの「非会話的世界」の中で、人はどんどん批判や異論を受け入れられなくなり、一方的な考えにシフトし、エスカレートし、引っ込みがつかなくなり、さらに自分に都合の良い言い分だけを求めるようになる。
そして、「壁」はさらに厚く、高くなっていく。
まさに、著者が本書で指摘しているのは、そういう人たちです。
壁をつくる人の4つのポイント
著者は解剖学者としての視点を活かし、日常生活や社会現象について独特の視点で分析しています。
本書では、人間がどのように自分と他者の間に壁を作り、結果的にコミュニケーションを妨げるのかを多角的に考察しています。
特に以下のテーマに焦点を当てています。
1. 人間の認知と思い込み
人間は自分が知っていることだけを基準に考えがちで、未知のものや異なる考え方を排除する傾向がある。
2. 言語の限界
言葉を使って表現できることには限界があり、言葉が逆に誤解を生むことも多い。
3. 教育と社会の問題
学歴偏重や効率主義が、思考力を損ない、人間性を抑圧していると指摘。
4. 自然と人間の関係
自然を支配しようとする人間の態度を批判し、自然の一部としての人間の在り方を見直す必要性を力説。
「2」の言語化は、頭から否定しているわけではないのです。
ただ、その言語の背景(根拠)には、多くの智識や経験が必要です。
それらのないままで、ネットの無責任な情報だけを根拠にするから、「言葉が逆に誤解を生むこと」になるのです。
「学歴偏重」ですが、「学歴」自体は、大学を出なければ、できない職業は現実にありますから、その限りにおいて「学歴」そのものの根拠はあるものです。
問題は、「ブランド偏重」ですよね。
こいつは地方の私立◯大しか出てないが、この方は旧帝大の△大を出ているから、△大出のほうが信用できるとかね。
Fラン大なら入っても仕方ないとか。
いや、大学のブランド(難易度)と、その人のポテンシャリティは、必ずしも一致しませんから。
前にも書きましたが、1990年の学位規制緩和以来、Fラン大学でしか出さない学位もあります。
その人にとっては、学力の問題ではなく、人生設計上、そのFラン大学が必要ということもあるのです。
ましてや、入学試験頭と、実社会で頭角を現す力も、一致しませんしね。
社会や他人との関係について深く考える本
人生の意味
— 養老まにあっくす (@yoromaniax) November 20, 2024
出典:『バカの壁』よりhttps://t.co/MUSCG8j7d3#養老孟司の言葉 #名言 #養老語録 https://t.co/HrCGKEI0A3 pic.twitter.com/xn0YYwdlM5
書かれている内容は厳しいですが、文章はユーモアも含まれていますし、もとより人びとの誤りについて、「棚卸し」をしたいわけではありません。
著者は、自己紹介する時、特定の宗派には入っていないが、仏教徒だと言うそうです。
仏教の教えは、「人間は誰でも間違い得る」です。
つまり、「壁」は、時には高名な学者である著者自身にだって自戒になり得るというわけです。
ですから、どんな人でも、どんな場面でも役立つ「気づき」を得られる「教え」だと思います。
人間なんて、欲得と思い込みが服着ているようなものですからね。
いつも、「もしかしたら自分は間違っているのではないか」と、「壁」を確認することが大切です。
壁、作っていませんか。
バカの壁(新潮新書) - 養老孟司
オール・オア・ナッシングなのは、
どっちかに入ると楽だからでしょうな。
仲間がいれば、間違ったとしても恥ずかしくないし。
逆に独自の考え、なんて自信がないと。
by おっつぁん (2024-11-25 23:20)
最近のSNSは、専門家のポストも無視した狂気すら感じるので、見ないようにしています。
by マジか (2024-11-25 23:54)
ネットに流れていることは隠された真実だと思っている?
いったん信じると、ほかのことは見えなくなる聞こえなくなる。
怖いね。
by 芋の進 (2024-11-25 23:58)
こんばんは。
以前ソネブロでお世話になっていた者です。記憶の片隅にでも残っていてくれると幸いなのですが。
いっぷく様には多くの事を教えて頂いたと感じておりました。特にご家族に対する愛情には頭の下がる思いです。近々記事を上げようと奮闘中です。その時はご一読いただけると幸いに思います。
『バカの壁』、私も当時読みました。目を開かされたと感じた一冊です。私見ですが、『真実』とはその言葉の平明さに反して、実際には混沌として複雑怪奇なものだと認識しています。ですから『真実』と聞くと『群盲象をなでる』のたとえを想起します。
斎藤氏の件で気になるのは、2人の方が亡くなっている事実が置いてきぼりになっていると感じます。私自身精神疾患を抱えているので思うのですが、心が弱っている人に強圧的な態度をとることは殺人と同じです。
兵庫県の方々には一度立ち止まってもう一度「何が起こったのか?」を考えてほしいと思います。
by promethe (2024-11-26 01:51)
オールドメディアの敗北って言われていますが、私はそうは思わないですね。ただ、いろんな制約があって突っ込めないのもたしかかも。
SNSはその分自由ですが、SNSなりの功罪があると思います。
by HOTCOOL (2024-11-26 03:53)
マタハリ出す所にマニアック感を感じるのは俺だけか(笑)
多分壁が無いと自分を保てない人が増えたんじゃ無いかなと。
by pn (2024-11-26 06:15)
SNSは自由そうで、いろんな制約があるんですね。
私は前の方が掛かれているように、死んでる方がいるのに、当選と沸き返っている事に疑問を持ちますね。今でもずっとこの当選に納得がいかないモヤモヤがあります。
by mutumin (2024-11-26 06:20)
流行った頃に妹が買ってきましたが未読でした。読もうかな
by mau (2024-11-26 06:45)
立ち位置や、おかれている環境が違うと、相手を理解するのはむつかしいのかもしれませんね。
初めから理解する期のない人もたくさんいますし・・・
by mayu (2024-11-26 07:52)
娘はプロのお菓子屋さんです。菓子工房aze。
by 夏炉冬扇 (2024-11-26 07:56)
バカの壁、読んだんだったかな・・どうだったかな。
再度手にとってみたい気持ちがあります。
by AKAZUKIN (2024-11-26 12:30)
旧民主党政権時代の鳩山総理は、
東工大卒、オックスフォード大学留学、
元総理、田中角栄さんの学歴は?
by 猫の友 メルティー (2024-11-26 13:33)
「人間の認知と思い込み」は年齢と共により顕著になるような気がします。これができる人が若さを保てるのではないでしょうか。
by 十円木馬 (2024-11-26 14:42)
斎藤知事は辞職からいままで反省と謝罪の意を示していますが、具体的に何に対して反省と謝罪をしているの伝わってきません。再選されても、それが分からなければ違和感が残ったままです。支持された方は何なのか理解されたのでしょうかね。結局は「自分は間違っていない」と思っているように思えます。彼が居続ける限りそれが続くのでしょう。
by Jetstream (2024-11-26 15:33)
対話もそうかもしれませんが、SNSも違いを知ろうと能動的に動かないといけないのかもしれませんね。
めんどくさいけど。
by MINA (2024-11-26 17:41)
こんばんは。
この本は読みました。
新語・流行語大賞も取ったタイトルが秀逸です。
最近もまさに
>「もしかしたら自分は間違っているのではないか」
と思うことをしないらしい人に遭遇しました。
この選挙の結果は意外でした。
選挙はエンターテインメントではないのですが、その手法を使ったのでしょうか?
SNS だけが正しいと思ってしまう人がこんなにも多かったことも驚きです。
政見放送もそうですが、選挙というものを真面目に考えていない人がこんなにも多くなってしまったことが嘆かわしいです。
by センニン (2024-11-26 18:00)
養老孟司氏の『バカの壁』に関する深い洞察、特にSNS上での偏った情報収集や一方的な意見表明が「壁」を厚くするという指摘に共感しました。エコーチェンバー現象だったかな? 人は聞き心地のいい意見は取り入れやすいので、さらに壁が高くなる・・・ということもありますね。
by かずい (2024-11-26 19:37)
みなさん、コメントありがとうございます。
> どっちかに入ると楽だから
必ず「味方」がいますしね。
> 専門家のポストも無視した狂気すら感じる
もはや信者ですか。
> ネットに流れていることは隠された真実
特別な情報を探し当てたと思うのかも。
> 2人の方が亡くなっている事実が置いてきぼりになっている
まだ時間をかけてしっかり調べる必要がありますね。
> いろんな制約があって突っ込めないのもたしか
そうですね。
> 壁が無いと自分を保てない人が増えた
精神的に脆弱なのかもですね。
> この当選に納得がいかないモヤモヤ
しばらくこの問題は続きそうですね。
> 未読でした。読もうかな
今からでも。
> 初めから理解する期のない人
まさに壁ですね。
> 娘はプロのお菓子屋さん
紫芋モンブランは娘さんのお手製だったんですね。
> 再度手にとってみたい気持ち
新しい気づきがあるかもしれませんね。
> 田中角栄さんの学歴は?
この人に学歴の壁はありませんでしたね。
むしろ高等小学校卒を前面に出していた印象です。
> 年齢と共により顕著になる
身体同様、思考にも柔軟性がなくなってくるのでしょうか。
> 結局は「自分は間違っていない」
それを信じる人のなんと多いことか。
> 能動的に動かないといけない
露出度の高い情報だけでなく、違う立場からの情報や意見もみないと何が正しいかを見極めることはできないと思います。
> SNS だけが正しいと思ってしまう人がこんなにも多かった
メディアリテラシーが必要ですね。
> 人は聞き心地のいい意見は取り入れやすいので、さらに壁が高くなる
おっしゃるとおりですね。
by いっぷく (2024-11-27 11:57)