日本怪死人列伝（安部譲二、扶桑社） [文学]
日本怪死人列伝（安部譲二、扶桑社）は、真相が明らかになっていない12の事件について著者が独自の根拠と論理で推理しています。何よりも、著者の人脈と人生経験と知性があってこそアプローチできた推理の数々は読み物として秀逸です。
『日本怪死人列伝』は、安部譲二さん（1937年5月17日～2019年9月2日）が、扶桑社から上梓した書籍です。
月刊『正論』に連載していたものを大幅に加筆し、完全版として待望の文庫化したものです。
朝日新聞阪神支局襲撃事件
新井将敬
下山事件
永野一男（豊田商事会長）
尾崎豊
田宮二郎
力道山
村井秀夫（オウム真理教幹部）
帝銀事件
元大鳴戸親方（元関脇高鐵山）
ロッキード事件（田中総理運転手・笠原正則）
御巣鷹山の520人
古今東西、刑事事件的には終わったことになっていても、そこには疑問が残り今も真相が謎である事件が並びます。
それらを、事件に張り付いていた刑事やジャーナリストではなく、一作家である安部譲二さんが真犯人を推理しているのがすごい。
それはすなわち、安部譲二さんの人脈と人生経験、そして作家としての想像力の賜です。
安部譲二さんは、日本郵船に勤務していた父親をもつ、かなり裕福で文化的水準も高い家庭の子弟として生まれたようです。
しかし、それが窮屈だったのか、ガラの悪い人たちと付き合うようになり、麻布中学から高校への内部進学を許されず、本人曰く「夏祭りでテキ屋相手にカッとなって」人を刺してからは、塀の中の生活を経験しました。
高校は、慶應義塾など6校を転々としなんとか卒業。
最終学歴は、中央大学法学部の通信課程を中退しています。←卒業した松田聖子さんは凄いんですよ。
家柄の力で、日航など大きな会社に就職しても、すぐ喧嘩をして長続きしませんでした。
それにしても、13年も塀の向こうにいた人が、よくこれだけの謎の事件について、推理できたものです。
日航機事件の真相は……
たとえば、今も議論が熱くなる日航123便御巣鷹山事件。
あれは事故だという意見と、自衛隊の無人標的機との衝突だという説に分かれますが、結論から述べると、本書は後者の立場です。
安部譲二さんは、元日航パーサーとしての経験から、こう述べています。
・世界の航空機史上いままでに垂直尾翼が損傷して墜落したケースは一件たりともない
・はじめ、墜落現場として御巣鷹山でない別の山が指定され貴重な時間をむなしく費やした。その間に何かしてないか？
私もこれまで、安部譲二さんと同じ立場の書籍をご紹介しました。
日本航空123便墜落の新事実目撃証言から真相に迫る（青山透子著、河出書房新社）。1985年8月12日に起こった日本航空123便墜落事故について、当時日本航空で働いていた客室乗務員だった著者が、目撃証言と文献で疑問点を指摘したものです。https://t.co/Ia7baHPyBx #日本航空123便墜落事故 pic.twitter.com/p7XcezxuQ0
— 戦後史の激動 (@blogsengoshi) August 17, 2024
永遠に許されざる者 日航123便ミサイル撃墜事件及び乗客殺戮隠蔽事件の全貌解明報告（小田周二著、文芸社）についてご紹介します。日航123便墜落事故で子供2人、親族3人を亡くした遺族であり調査分科会会長でもある著者が全容を解明した報告書です。https://t.co/7PK4XOTeGE #日本航空123便墜落事故
— 戦後史の激動 (@blogsengoshi) August 19, 2024
村井秀夫（オウム真理教幹部）刺サツ事件は、ある国の関与を示唆しています。
大相撲の八百長告発についても言及しています。
1996年に『週刊ポスト』が行っていた角界浄化キャンペーンとして、元・大鳴戸親方（元高鐵山）は部屋後援者の橋本成一郎さんと、同年1月から八百長問題、年寄株に絡む脱税疑惑や力士たちの薬物汚染、暴力団との深い関係などを告発しました。
大変な話題を呼び、4月26日には日本外国特派員協会で講演会が開催される予定でしたが、元・大鳴戸親方は11日に息苦しさを訴えて入院。わずか3日後に重症肺炎でこの世を去りました。
すると、同日15時間後には、なんと橋本成一郎さんも同じ症状で亡くなりました。
自然死ではないのに、同日に亡くなるのはおかしいだろう、という話です。
利権関係者による暗殺説が囁かれましたが、真相は謎です。
安部譲二さんは、2人とも遊んでいたから、ソープの不衛生な換気扇からレジオネラ菌を吸い、劇症型のレジオネラ肺炎で亡くなったのだろうと推理しています。
他の話は、実際に本書をお読みいただくとして、とにかく面白い。
引き込まれます。
『塀の中の懲りない面々』で文壇デビュー
男性客室乗務員が落ち零れとは聞き捨てならないね。
— Tatsuhiko (@rec28371979352) March 20, 2024
その昔、麻布中学で橋龍のクラスメイトにして安藤組組員、JALのパーサーを経て三島由紀夫の小説の主人公になり、服役後に流行作家になった男を知らないのかね？
その男、安部直也。
後の安部譲二ですよ。 pic.twitter.com/R2GZymUJGh
私は2010年、安部譲二さんの生涯最後の雑誌連載をお願いに、阿佐ヶ谷のご自宅に、ウイスキーの「ヤマザキ」を持って伺ったことがあります。
安部譲二さんは以前も、私の妻が電話取材したことがあって、初めての付き合いでなかったからか、それとも「ヤマザキ」が良かったのか、1ページだけ引き受けてくださいました。
ニコニコ出迎えてくださったのですが、ではどんなものを書こうか、という話になると一転して眼光鋭くなり、元「良家の不良集団（東興業＝安藤組）」のナマの迫力を感じました。
ちなみに、ヘビースモーカーで、「吸わないと太るから体に悪い」と、私にもさかんに喫煙を勧めていました。
私は、安部譲二さんが連載に書かれていた、この一文が忘れられません。
俺はテレビも新聞も信用していない。俺は大ウソツキだが、世間も嘘とヤラセと談合で成り立っていると思っているからだ。だから伝えられることより、伝えられなかったことに目と耳が反応する
公になっている記事だけで判断するのではなく、その背後にあるものを読むということなのです。
世の中を知るというのは、「伝えられていること」は大事ですが、もう一歩踏み込んで、「伝えられなかったこと」も暴く推理と論理力が必要です。
「伝えられなかったこと」に踏み込んでみたいなら、ぜひ本書を読まれることをお勧めします。
安部譲二さん、覚えておられますか。『塀の中の懲りない面々』。
日本怪死人列伝 (扶桑社文庫 あ 10-1) - 安部 譲二
怖い話の裏を知ってても大丈夫なほど大物だったのかなと思いました
by mau (2024-09-06 00:29)
名前は知っていました。背後にあるもの....知りたいです。過日、日航機関連の本を買いましたが、これも買うようかも(^_^;) どなたか引き続き暴いてくれないかな(^_^)v
by yokomi (2024-09-06 01:26)
下山事件は先日NHKでドキュメンタリーを放送していましたね。昭和は謎な事件が多いですね。
by HOTCOOL (2024-09-06 03:48)
怖い真実は知りたくないような・・・もっと知りたいような複雑な気持ちです。
by mutumin (2024-09-06 05:47)
伝えられない、伝える訳にはいかない事が多過ぎるのかもね。
by pn (2024-09-06 06:16)
おはようございます＾＾
阿部譲二さんお名前は知っていますが、ご本を読んだ記憶はないです（＿＿；
by mm (2024-09-06 06:55)
おはようございます！
オウムの村井さんの死はショッキングでしたね！
by Take-Zee (2024-09-06 07:49)
うれしい「梨」のいただきものでした。
by 夏炉冬扇 (2024-09-06 07:51)
おそらく、巨大な権力が、背後にあるんでしょうね(-_-;)
by mayu (2024-09-06 07:56)
日航機事件は森永さんも「書いてはいけない」で取り上げられてましたねー
by AKAZUKIN (2024-09-06 12:11)
未だに週刊雑誌「ＦＯＣＵＳ」の最終号を手元に残しています。２０年の闘争ということで、豊田商事会長が刺されて血まみれの写真、オウムNo.2の村井秀夫の刺殺される瞬間の写真、御巣鷹山の墜落で瓦礫から出た足首の写真などが掲載されています。安部譲二さんの言葉ではないですが、真実の追求とは何かを考えさせられます。
by 十円木馬 (2024-09-06 14:59)
こんばんは。
阿部さんといえば『塀の中の懲りない面々』が印象に残っていますが、杉村春子さんが出演されて本人も出演した作品が記憶にあります。
本人が本人役で出ていたように記憶してしまっていましたが、違いますね。
by センニン (2024-09-06 18:35)
みなさん、コメントありがとうございます。
> 裏を知ってても大丈夫なほど大物
これだけの推理ができる人脈や経験を持っているという意味では大物と思います。
> 背後にあるもの....知りたいです
真実はどこにあるのか明らかにしてほしいです。
> ドキュメンタリーを放送していました
下山事件も謎が多いですね。
> もっと知りたいような複雑な気持ち
一体何が出てくるんだろうという怖さもあります。
> 伝える訳にはいかない事が多過ぎる
中曽根元総理が話したとされる「真実は墓場まで持っていく」、こういうことを抱える人がいったい何人いるんだろうと思います。
> 阿部譲二さんお名前は知っています
『塀の中の懲りない面々』で一躍有名になりましたからね。
> 村井さんの死はショッキング
テレビカメラの前で刺されました。
> うれしい「梨」のいただきもの
もう梨の季節なのかと思います。
> 巨大な権力が、背後にある
さまざまな関係者の利害や思惑や立場が絡み合ってという気がします。
> 森永さんも「書いてはいけない」で取り上げられてました
単なる墜落事故ではないと考える人が多いです。
> 週刊雑誌「ＦＯＣＵＳ」の最終号
昔の写真週刊誌はショッキングなものも掲載されていましたね。
> 本人が本人役で出ていた
安部譲二も映画に出演していますが本人役ではないですね。杉村春子はドラマ版に出ていました。
by いっぷく (2024-09-07 15:47)