【仏教】「働かざるもの食うべからず」はケダモノの論理!?

働かざる者食うべからず。一見もっともですが、だったら、寝たきりの病人や障害者は食ってはいけないのでしょうか。家賃や年金収入で暮らすのもいけないんでしょうか。仏教ではそれを、「シマウマを獲ったライオンだけがその肉を食えるとするケダモノの論理」であると否定しています。



Facebookの、ある左翼系グループ（プライベートグループ）で、今日こういう「左翼にありがち」な投稿を見ました。

「天皇は、我々が税金で養っている」

天皇制批判とはなんとも古典的ですが、要するに、天皇の公務を「仕事」と評価せず、国が面倒見ているという物の言い方です。

といっても、誤解のないように書きますが、今から書くことは、天皇制の賛否議論とは全く別の次元の話です。

要するに、ここで言っているのは、ものを生産しない仕事は仕事として認めない、産業に従事しヒタイに汗する労働こそ、社会のためになる労働。「国民の象徴」ならひたいに汗して働け、という価値観が透けて見えることが問題なのです。

一見労働者の立場として当然のように見えますが、実はこれは差別の論理だと思います。

だって、その論理では、作家や芸術家や宗教家も、労働者ではないわけですから。

汗水流して働く人だけが労働として尊い、という単純な世界観ですから。

私たちは、日常生活で、つい、言ってしまいませんか。

「働かざる者、食うべからず」

そこで今回はっきりさせたいのは、そこでいう「勤労」ってなんだろう、という疑問です。

人というのはご飯を食べているだけの生き物じゃない

いつものように、佐々木閑教授（花園大学）のコロナ禍動画授業、仏教講義 ３「阿含経の教え １ー３２」（「仏教哲学の世界観」第６シリーズ） - YouTubeからです。



『阿含経』といわれる釈迦仏教のお経の中の、『相応部（サンユッタニカーヤ）』より。

農夫、バーラドヴァージャバラモンは、托鉢に来たブッダ（お釈迦様）にこう言いました。

「汗水垂らして、働いて手に入れたもので食べていくという。これまっとうな生き方でしょ。それなのにお釈迦様。あなたは汗水垂らしていないじゃないの。食べたかったら自分で働きなさいよ」

それに対して、お釈迦様はこう言いました。

「私は確かに、食べる穀物を育てそれを自分で収穫するという生活はしておりませんが、しかし、私は『苦からの解脱』の道をお示しすることで、みなさんからいただくご飯の代償とさせていただいているのです」

佐々木先生は、「これは、私たちの2種類の生き方を対比させている」といいます。

「稼いだ分だけ食べるのが正しい。それをしない人間には食べる価値がない。食べる権利がないと言ったら、これはケダモノと一緒になるんです。シマウマを追いかけて、それを捕まえて食べているライオンだけがそれを食べる価値があるというのと一緒。自分が捕まえてもいないのに、そのシマウマを食べるというなことは、ハイエナのようにやってくるような連中だっていう意識で見る。これはもう獣の世界の、弱肉強食のものの考え方なんですね。」

しかし、佐々木先生は続けます。

「ところが人というのは、ご飯を食べているだけの生き物じゃないんですね。さらにそこに心を支える、様々な心の糧というのがないと人は生きていけないんです。人間は動物に比べて頭が良すぎるから、色んな苦しみは憎しみをどう他の動物よりもはるかにたくさん我々は抱えて生きなければならない。人というのは、まあそういう意味では非常につらい重荷を背負っている生命体なんですけれども、その我々が絶望することなくあるいはその 様々な心のストレスに心折られることなく生きていくためには、どうしても心の支えになる、何らかの精神的な糧というのが絶対必要なんです。楽しく生きてる人には、私の言ってることはわからないかもしれないけども、様々な苦しみの中で生きている人にとっては、心の支えというのはご飯と同じ あるいはそれ以上に大切な生きる支えなんです 」

宗教者だけでなく、作家、芸術家、俳優、スポーツ選手なども、その「心の支え」にあたります。

そもそも、働くとしても、同じ労働力を投下しても、収入が同じというわけではありませんし、3K仕事のように、「きつい」うえに、なかなかなり手がないのにそれを引き受けて、社会を支えている方々、まあホリエモンのような打算的な合理主義者曰く、「罰ゲームのような生き方」を選ぶ人もいます。

でも、そういう人がいて、社会は成り立っているのです。

人間社会は、単純に「シマウマを獲ったライオンだけがそのシマウマの肉を食べられる社会」であってはならず、適切な分配が必要なのです。

正しい生き方も、社会のために貢献した「勤労」

佐々木先生は、仏教としての「正しい勤労」をこう述べています。

いくら稼いだか、どんな仕事をしたかが大事なのではありません。

正しい生き方をしていることで、得られるものをだけを受ける。

嘘をつかない、誠実で努力する生き方が、次世代の生き方の手本となり、社会にとっても大切な財産になっていく。

その一方で、たとえ「実力」で稼いでいたとしても、その人が邪悪な考え方で、間違った生き方、たとえば人を踏みつけにして生きていたならば、それは社会に害を与えるので、正しい勤労ではない。

要するに、こういうことです。

目に見える成果物を作り上げる「勤労」をしていなくても、たとえば宗教者として、障害者として、後世のモデルになるような生き方をすれば、それは社会のために貢献した「勤労」なんだ、というのが仏教の考え方ということです。

つまり、物質ではなく精神（価値観とか生き方）を社会にのこすことも、人として生きる大切な「生産活動」なのだということです。

2016年、津久井やまゆり園で、多くの知的障害者が殺傷されました。

逮捕・起訴された加害者は、入所者が話せるかどうかを確認し、話せない入所者を選び、「『こいつらは生きていてもしょうがない』とも発言」して刺したと裁判で明らかになっています。

つまり、無差別愉快犯ではなく、本人には「弱肉強食」の「弱」はいらないという「ケダモノの論理」が根拠としてあったのです。

話せない知的障害者は、たしかに作業所の労働も困難かもしれません。

しかし、話せない知的障害者としての生き方を、後世にのこす「勤労」の最中だったのです。

今日はセンセーショナルなタイトルになりましたが、要するに人間社会の「勤労」というのは、動物社会とは違い、目に見える成果物を獲得・生産するだけでなく、「生き方」そのものも含まれる、という話でした。

社会に爪痕を残せる生き方、してますか。


宗教の本性: 誰が「私」を救うのか (NHK出版新書 656) - 佐々木 閑

コメント 6

こんばんは。
＞後世のモデルになるような生き方をすれば、それは社会のために貢献した「勤労」なんだ、
という部分を拝読して思い出すのは内村鑑三の「後世への最大遺物」でう。たしか中学生の頃読みました。
あの人は立派な人だった、と言われるような生き方をしなさいというのです。
by センニン (2024-06-28 20:02) 

畑の作業、いつまでできるかなぁ。
ありがたい日々と思っています。
by 夏炉冬扇 (2024-06-28 20:12) 

コメントありがとうございます。

冒頭のグループ名は「日本の未来のために」でした。
作り話と思われないよう、一応、名前出しときます。
by いっぷく (2024-06-28 21:09) 

生産者だけでは物は売れないんだから全て世の中の歯車だと思いたい。
by pn (2024-06-28 23:03) 

頭脳労働者は全部食べられないような論理で、おかしく感じます
by mau (2024-06-29 01:15) 

おはようございます＾＾
世界中のどなたさまも、歯車の一つ。
何らかの役目があると思っています。たとえ目に見えてないものでも。
by mm (2024-06-29 06:31)