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宮沢賢治の仏教的文学作品から見えてくる法華経や臨死体験 [仏教]

宮沢賢治の仏教的文学作品から見えてくる法華経や臨死体験

宮沢賢治といえば、日本の近代文学史上に名を残す詩人、童話作家ですが、仏教的な信仰に根ざした作品を書いていることが特徴です。では、具体的にどの作品がどんなモチーフだったのか、有名な作品をご紹介します。雑知識として知っておいていただけると幸甚です。

宮沢賢治(1896年8月27日~1933年9月21日)は、日本の詩人、童話作家です。

仏教信仰と農民生活に根ざした創作を行いました。

もともとは浄土真宗との出会いに始まったといわれていますが、実際に大きく影響を受けたのは法華経と思われます。

宮沢賢治は、生前ほとんど一般には知られず無名に近く、没後、草野心平らの尽力により作品群が広く知られるようになりました。

このへんも、人生そのものが法華経という感じがします。

風の又三郎(仏陀)


風の又三郎は、ある風の強い日、転校してくる高田三郎という不思議な子どもの物語。

少年は、クラスの子供たちに、風の神の子「風の又三郎」ではないかという疑念とともに受け入れられましたが、1週間でみんなに馴染んだと思ったら、父親の仕事の都合で、また風とともに去っていきました。

高田三郎は、実は仏陀(悟りを開いた人)を想定しているのではないかなと私は思います。

『法華経』には、「お経の神秘性を信じて、自分が菩薩(仏陀になる候補)であることを自覚しなさい」という悟りへの思いが込められています。

お釈迦様の仏教では、仏陀=お釈迦様ですが、現世で善行を積めば誰でも仏陀になれる、というのが大乗仏教の教えです。

つまり、この作品は、仏陀はあなたたちのすぐ近くにいるんですよ、ということを言いたかったのではないかと思います。

注文の多い料理店(五戒)


西洋紳士の格好をした、ちょっと見栄っ張りのハンター2人組が、山奥で見つけた注文の多い料理店で、怖ろしい目にあう物語です。

道楽で動物を撃つ2人に怖い思いをさせるストーリーによって、無用な殺生で自然を私物化することの愚かさを表現した物語と言われています。

仏教には五戒と言って、不殺生戒(ふせっしょうかい)・不偸盗戒(ふちゅうとうかい)・不邪淫戒(ふじゃいんかい)・不妄語戒(ふもうごかい) ・不飲酒戒(ふおんじゅかい)という5つの禁止事項があります。

五戒の第一は不殺生戒で、人間の生命を保つ最小限以外の不要な殺生を禁止されています。

生命自体は、諸行無常と言って、亡くなる摂理は否定していません。

しかし、無用な殺生は、諸法無我に抵触すると考えられます。

諸法無我というのは、世の中のすべてのものごとはつながりあっていて、個として独立しているものは一つもない、という意味です。

人間にかぎらず生命は、その諸法無我のバランスの中で成立しているという考え方です。

無用な殺生をすることで、そのバランスが崩れます。

そして、その「しわ寄せ」は、因果応報で自分に来るのだ、ということをいいたかったのだと思います。

銀河鉄道の夜(臨死体験)


孤独な少年ジョバンニが、友人カムパネルラと銀河鉄道に乗車し、不思議な乗客と旅をする物語です。

乗客は、一風変わった人ばかりです。

沈んだタイタニック号の乗船者、「アラスカ・カトマイ山大噴火」の犠牲になったエスキモー、「清朝滅亡」時にいたと思われる清の要人、「ロシアストライキ200人射殺」の犠牲者を思わせる弾痕が痛々しいロシア人……。

つまり、死者を運ぶ汽車でした。

列車が天の川の中を通過した時に、ジョバンニが外の景色に見とれていると、いつのまにかカムパネルラは下車していました。

ジョバンニが目を覚ますと、カムパネルラも亡くなっていました。

下車しなかったジョバンニは、生還できたのでした。

生きることに絶望すら仕掛けている一人の気弱な少年が、友の死を知り、絶望への道を選ぶのでなく、力強く先に進んで行くことを決意した作品です。

虔十公園林(『法華経』に出てくる常不軽菩薩)


杉の苗を植えることにこだわり、周りから馬鹿にされていた知的障害者・虔十少年の植えた杉が、本人が亡くなった後も大きく育ち公園林になり、後の人の役に立つ話です。

法華経を熱心に信仰していた宮沢賢治らしい『常不軽菩薩品』の翻案作品で、私はこの作品こそが、代表作ではないかと思っています。

虔十少年のモデルは、『法華経』常不軽菩薩品第二十に登場する菩薩です。

『法華経』の信者は、『法華経』を広めることが菩薩である自分の仕事と考え、『法華経』が説く世界をこの世に実現することを使命と考え、懸命に布教します。

しかし、信仰のない人からすれば、布教そのものが迷惑ですから、信者は邪険にされます。

が、『法華経』によると、「迫害を受けている状況こそが、『法華経』の正しさの証拠である」としています。

信者にとっては、迷惑がられることも功徳というわけです。

最初は、杉の苗にこだわって、バカにされ、迷惑がられていた虔十が、最後は「彼は正しかった」と思われるストーリーですが、虔十自身は亡くなっているところがミソです。

単純なハッピーエンドではないのは、宗教的な理解を得るのは決して生易しいことではない、ということが示唆されています。

いずれにしても、仏教に対する思いや、人の道とはなんだろうと真摯に考える宮沢賢治の生き様が感じられて、法華経の信仰がなくても、読んでいると、なんとも言えぬあたたかい気持ちになれます。

短編童話で読みやすい話ばかりですから、ぜひ1度読まれることをおすすめします。
風の又三郎 - 片山愁, 宮沢賢治
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漫画で読む文学『注文の多い料理店』 - 宮沢賢治, だらく
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銀河鉄道の夜 (まんがで読破) - 宮沢 賢治, バラエティ・アートワークス
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pn

風の又三郎ってそんな話だったんだ(^_^;)
注文の多い料理店は子供の頃読んだ記憶はあるんだがそんな戒めはとても感じなかった、今読み返せば歳食った分あれこれ思うんだろうなぁ。
by pn (2023-05-24 09:44) 

Goriot爺さん

宮沢賢治の故郷 花巻に何度も行きました。宮沢賢治記念館や賢治の生家があったと思います。
by Goriot爺さん (2023-05-24 16:36) 

エンジェル

宮沢賢治の作品はいくつか読みましたが、仏教に根ざした物だとは知りませんでした。
何となく不思議な世界を描いていて引き込まれた記憶があります。
by エンジェル (2023-05-24 22:34) 

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