山本薩夫監督(1910年7月15日~1983年8月11日)の生まれた日です。社会派ながら娯楽映画に仕上げた名作を多数制作しました。『戦争と平和』『白い巨塔』『戦争と人間』『華麗なる一族』『金環蝕』『不毛地帯』『皇帝のいない八月』など、ご覧になった作品はありますか。(上の画像はGoogle検索画面より)
山本薩夫とは誰だ
山本薩夫監督は、山本勝巳(兄、建築家)、山本學(甥、俳優)、
山本圭(甥、俳優)、山本亘(甥、俳優)の著名人一族。
早稲田大学時代は、谷口千吉(八千草薫の夫)や森繁久彌らと同じ演劇部だったといいます。
松竹蒲田撮影所に入社して、成瀬巳喜男監督の助監督をつとめ、成瀬巳喜男監督が東宝に移籍すると行動をともにします。
東宝争議で組合側に回ったため会社を離れ、独立プロを作って映画監督を制作しますが、大映の
永田雅一オーナーから声がかかり、市川雷蔵主演の時代劇『忍びの者』の監督して大ヒット。
以後、大映、東映、さらには
藤本真澄プロデューサーからも声がかかり、古巣の東宝でも撮っています。
作風は、社会派の骨太作品で一貫しています
戦争と平和
亀井文夫・山本薩夫共同監督の『戦争と平和』は、“生きた英霊”を扱っています。
夫(伊豆肇)の戦死の報を聞いた妻(岸旗江)は、子どもがなつくことで、彼の幼なじみ(池部良)と再婚。
伊豆肇が妻子に会いたさにやっとこさ復員すると、な、なんと妻は池部良と楽しそうに暮らしている。
しかし、池部良も戦地での体験から、今で言うPTSDになってしまいます。
要するに、登場人物は誰も悪くないのに、ただひたすら戦争に翻弄される話です。
にっぽん泥棒物語
『
にっぽん泥棒物語』は、列車転覆事件(松川事件)を、一般的な史実には出てこないエピソードを加えて創作した山本薩夫監督渾身の一作。
列車転覆事件(松川事件)では、日本共産党員が逮捕されますが、土蔵破りの三國連太郎は、“仕事”帰りに真犯人の9人の大男を目撃します。
しかし、それを証言すると自分の仕事がバレてしまうし、ましてや自分は佐久間良子と新婚ホヤホヤ。
刑事(伊藤雄之助)の追求や、被疑者(鈴木瑞穂)らとの関わりで葛藤しますが、最終的には証言をして日本共産党員は無罪を勝ち取ります。←ここは本当の話です。
クライマックスの、三國連太郎の証言が、大笑いし、そして泣けてくる何とも味わい深いもので、戦後史上最大の謎といわれた松川事件を、見事な娯楽映画に仕上げています。これは邦画ファン必見です。
白い巨塔
『
白い巨塔』というと、一昨日の中村玉緒さんでご紹介したフジテレビ版(1978年)を何度かご紹介していますが、1966年に大映で、やはり田宮二郎主演、山本薩夫監督で制作されています。
原作はもちろん同じで、他の出演者も一部重なるのですが、映画版は、医師の権力欲や誤診を真っ向から厳しく問う社会派としてのイメージが強く、テレビドラマの方は財前五郎という人間の弱さや、一方で里見脩二の医師としての誠実さを描いています。
華麗なる一族
『華麗なる一族』(1974年、芸苑社製作/東宝配給)は、政財界の閨閥によって、富と権力を手にしてきた主人公の更なる野望と愛憎を描いています。
山崎豊子の長編小説『華麗なる一族』が原作で、1965年に起きた山陽特殊製鋼倒産事件がモデルと言われています。
同社に巨額の融資をした神戸銀行は、太陽銀行と合併。
そして太陽神戸三井銀行⇒さくら銀行⇒三井住友銀行と再編されていきます。
『沈まぬ太陽』『白い巨塔』などとともに山崎豊子の実話的小説代表作として知られています。
配給収入は4億2000万円を記録し、1974年度の邦画配給収入ランキング第4位。第48回キネマ旬報ベスト・テン第3位といいますから、豪華キャストでもモトはとれたのでしょう。
金環蝕
『
金環蝕』(1975年、大映映画/東宝)は、石川達三による同名のノンフィクション小説を原作とした山本薩夫監督の映画です。
かつての自民党総裁選では、何十億という札束が乱れ飛んだといいます。
そのカネの出処は、ゼネコンなど公共事業者との談合汚職によって得る「献金」。
『金環蝕』では、宰相夫人が名刺を使って、談合を事実上指揮しますが、それを暴こうとする者はみな消されてしまうという、政治の世界のダークな部分が描かれています。
『仁義なき戦い』と同じで、実録映画なのに仮名にしているのですが、役者はそれぞれ実在の政治家にメークを似せているのであまり意味がありません。
たとえば、池田勇人であろう役は久米明が演じています。
一級品の娯楽映画監督
ということで、山本薩夫監督は日本共産党員を隠すことなく、また映画も社会派作品であることから、「左翼臭」などと、つまらない政治的レッテルを貼る人もいます。
が、山本薩夫監督は、以上の作品で映画館を次々フルハウスにしてきたヒットメーカーです。
しかも、どう見たって体制派である、東宝の藤本真澄プロデューサーや、大映の永田雅一プロデューサーらが、何度も撮らせているのです。
重いテーマであるはずの社会派でありながら、広く国民の心を掴む作品を撮ることができる一級品の娯楽映画監督ということは、これを機会にぜひ知っていただきたいですね。
金環蝕 - 仲代達矢, 宇野重吉, 三國連太郎, 西村晃, 山本学, 中村玉緒, 大塚道子, 長谷川待子, 北村和夫, 大滝秀治, 山本薩夫, 田坂啓
にっぽん泥棒物語 [DVD] - 三国連太郎, 佐久間良子, 江原真二郎, 北林谷栄, 伊藤雄之助, 山本薩夫, 三国連太郎
重いテーマだと目を背けたくなる部分も出ると思いますが、それを含めても「娯楽映画」に仕上げるのは凄いですね。
by ナベちはる (2020-07-16 01:40)
皇帝のいない八月は見ました見ました超記憶あります(笑)
すんごいキャストだったと思ってたけど華麗なる一族の説明見ると普通レベルか(^_^;)
by pn (2020-07-16 06:17)
白い巨塔はみていました。優れた監督さんでしたね。
by ヤマカゼ (2020-07-16 06:29)
「華麗なる」芸能一家・一族ですねー。
by Rinko (2020-07-16 08:27)
山本薩夫監督、ご紹介の作品は全て見ています。特に選んでいる訳でもなく面白かった映画を調べてみたら山本薩夫監督作品だったというものは多いですね。「にっぽん泥棒物語」「忍びの者」や「戦争と人間」など所蔵しているものも数点あります。
>映画も社会派作品であることから、「左翼臭」などと、つまらない政治的レッテルを貼る人もいます。
>どう見たって体制派である、東宝の藤本真澄プロデューサーや、大映の永田雅一プロデューサーらが、何度も撮らせているのです。
思想やイデオロギーを越えて、面白く共感するものを追求すればそういう視点になってゆくと思います。
by 扶侶夢 (2020-07-16 09:39)
まさに血統書付きのご一族なんですね。残念ながら作品
名はほぼ存じていますが、山本監督は知りません。
by なかちゃん (2020-07-16 17:04)
その監督は知りませんが、代表作は2作品だけ知っていました。
by ヨッシーパパ (2020-07-16 18:53)
若い頃、話題の映画で山本薩夫監督の名前はよく目にしました。どれを見たかあまり記憶がないのですが
「金環食」は見たような気がするのですが。
by そらへい (2020-07-16 21:49)
世代柄、一番印象に残っているのは「戦争と人間」です。
ご紹介の代表作の他に、教育と平和を巡る問題(勤務評定反対闘争)を描いた「人間の壁」、治安維持法に反対し暗殺された山本宣治を描いた「武器なき斗い」、労働者群像を活写する「ドレイ工場 」(60年代)、「アッシイたちの街」(80年代)が記憶に残っています。
ドキュメンタリー映画「ベトナム」で、生身の人間としての「ベトナム人民」に初めて触れたという思いがあります。今井正とともに(ずいぶん色合いは違いますが)、青年期の自分に影響を与えた監督でした。
by kazg (2020-07-16 22:15)
白い巨塔と華麗なる一族は知ってます。他は知りませんでした
by mau (2020-07-17 00:10)
「華麗なる一族」はキムタクが演じる以前の昔に
あったのですね。
山崎豊子さんは見ごたえ(読み応え)のある小説を書かれますね。
by ようこくん (2020-07-19 17:10)
ご紹介いただいた「にっぽん泥棒物語」見ました。
面白かった。三国の独壇場でしたね。
by hitoshi (2020-07-23 06:43)