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渡辺淳一、情痴文学確立前に「和田心臓移植事件」を描いた渾身の一作 [懐かし映画・ドラマ]

渡辺淳一、情痴文学確立前に「和田心臓移植事件」を描いた渾身の一作

今日は渡辺淳一さん(1933年10月24日~2014年4月30日)の7回忌です。渡辺淳一作品といえば、『ひとひらの雪』『失楽園』『別れぬ理由』など、その作品群は“新情痴文学”と称されましたが、もとは医科大学整形外科の医師であり、社会問題となった医学事件も小説化しています。



渡辺淳一とは誰だ


渡辺淳一は、札幌医科大学整形外科教室講師をしながら、並行して北海道の同人誌で文筆活動を始めます。

そして、有名な「和田心臓移植事件」に遭遇。

和田寿郎教授に対して、学内にありながら講師の立場で疑義を呈したため、「白い巨塔」である医局にいられなくなり、作家として生きていくことになりました。

後に、「情痴に狂う男と女の姿を極めようとする新たな渡辺文学」(Wikiより)を確立しましたが、そのスタートは、「和田心臓移植事件」の小説化でした。

それが『ダブル・ハート』(文藝春秋、1969年)です。

ダブルハート



和田心臓移植事件というのは、簡単に述べると、和田寿郎教授が行った、日本初の心臓移植手術失敗をめぐる事件です。

ドナー(提供者)を脳死認定して心臓を取り出し、レシピエント(受容者)に移植します。

その場合、心臓の取替ではなく、手術ではレシピエント(受容者)の左房を残して、ドナーの左房と吻合するそうです。

つまり、ドナーとレシピエントのハイブリッド心臓になるのでダブルハートというのです。

しかし、レシピエントは2ヶ月後に亡くなりました。

そこには、刑事事件容疑に値する医学的不作為が多々散見されました。

結果的に和田寿郎教授は不起訴になりましたが、複数の研究者による不作為が明らかになり、功名心による事実上の殺人事件といわれ、その後31年間、日本では心臓移植が禁句となった、つまりその分野の発展が止まってしまいました。

医局を追われた当事者である渡辺淳一としては、その突破口に、書くことが自らの使命と考えたのでしょう。

渾身の一作だったと思います。

冬の陽




『ダブルハート』は、1975年にNTV系で『冬の陽』というタイトルでドラマ化されています。

和田寿郎教授役は、後に参議院議員になった中村敦夫。

中村敦夫と対立して医局を追われた北大路欣也は、札幌の大学病院から夕張の炭鉱病院に転出してある女性(金沢碧)と出会いました。


ところが、北大路欣也の能力を利用したい中村敦夫はしばらくして北大路欣也を大学に戻し、いったん北大路欣也と金沢碧は別れます。

そんなあるとき、交通事故で瀕死の重傷を負ったトラック運転手(石立鉄男)が病院に担ぎ込まれてきますが、かつて北大路欣也の恋人だった金沢碧の夫でした。

石立鉄男は心臓移植手術のドナーとなります。

ドラマでは、石立鉄男が、北大路欣也に金沢碧をよろしくと言い残し、最終回で2人は結婚するのですが、まあ結末になんとなく割り切れないものを感じたものの、タブー視されていた事件のドラマ化は意義がありました。

ヒロインに決まっていた大原麗子が、ギラン・バレー症候群で、急遽金沢碧に交代したことも話題になりました。

なぜか、再放送もDVD化も行われていませんし、原作自体絶版になっていますが、ぜひ復刊していただくか、もう1度本作を見たいものです。



氷紋


それ以降、『ひとひらの雪』『失楽園』『別れぬ理由』など、男女が愛し合わずにいられない様子を、艶めかしさを伴った描写で描き続け、小説だけでなくテレビドラマや映画化されました。

といっても、いわゆるポルノ小説ではなく、あくまでも人間を描くことに力点を置き、その描写も練りに練ったものでした。

『氷紋』という、2度ドラマ化された作品は、原作では大学の医局、ドラマでは病院が舞台になり、そこの教授(院長)の娘が、いったんは良心的な医師といわれる恋人を振り、野心家の医師と結婚するのですが、その結婚は破綻してしまいます。

破綻の主たる理由は、野心家医師がまさに野心による政略結婚で愛情がなかったことと、良心的医師に対するジェラシーによる自滅でした。

そして、原作では破綻したままですが、ドラマでは娘は良心的な医師と結ばれることになっています。

1986年にドラマ化された時は、院長が山村聡、娘が高橋惠子、良心的な医師が田村亮、野心家の医師が村井国夫でした。

原作では、良心的な医師にヤキモチを焼いた野心家医師が、あろうことか、もし不倫で子供でも作られちゃたまらんと、自分の妻なのに騙して卵管を塞ぐ手術をします。

ドラマでは、高橋惠子のお腹に村井国夫の子供がいるのに、村井国夫が不倫の子ではないかと勘ぐり睡眠薬を飲ませる設定になっていましたが、そのことで最終回、村井国夫が逮捕されることになり、やってくる刑事役が、当時劇団白鳥座に在籍していた私でした。

実はわたしはそれ以外にも、山村聰院長の総回診に同行する陣笠医師のエキストラもやっていたのですが、端役やエキストラが、同一作品に何度も違う役で出演するのはよくあることなのです。

いかにもうさんくさい思い出し笑いのような笑みを浮かべる医師役・村井国夫、大げさにおしりを振って怪しいお色気プンプンの村井国夫愛人看護師役・円浄順子、そして威厳のある院長役・山村聰。

ただ病院の廊下(実は緑山スタジオ)を歩くだけのシーンでしたが、本番前からそれぞれのキャラクターになりきった豊かな表現力で、役者というのはかくあるべしと感服した記憶があります。

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円浄順子さんの眼力が凄かった https://aucfree.com/items/q120458080 より

渡辺淳一さんの作品で、印象に残るものはありますか。

死化粧 (角川文庫) - 渡辺 淳一
死化粧 (角川文庫) - 渡辺 淳一

鈍感力 - 渡辺 淳一
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氷紋 (講談社文庫) - 渡辺 淳一
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失楽園 [DVD]

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コメント 13

爛漫亭

 野口英世を書いた『遠き落日』は名著と
思います。英世のトンデモぶりが描かれて
おり、傑出した人の栄光と悲惨に心うたれ
ます。
by 爛漫亭 (2020-04-30 11:04) 

pn

失楽園しか知らないけど映画での書の表現が変だって書家のカミさんが言ってた。俺は濡れ場しか記憶に無い(笑)
by pn (2020-04-30 11:46) 

十円木馬

渡辺淳一は好きな作家で、かなり読んでいます。
島村抱月との愛を描いた松井須磨子を主人公とした『女優』が、特に記憶に残っています。
by 十円木馬 (2020-04-30 15:14) 

みうさぎ

渡辺 淳一と言えば 単行本で読んだのが
『 自殺のすすめ 』が 私の第一冊目です
こういう結果になりますよ
てぇ解説がフムフムと読み進めました。
人間は生きるように出来てると言うのが記憶に残ってます。自殺をはかって30分ももがきたくないな~と思ったわっ
失楽園はドラマ化された切ない
人間らしさが滲み出てます 話題になりましたね。


by みうさぎ (2020-04-30 15:23) 

ヨッシーパパ

金沢碧さんは、妙な色気のある方でした。
by ヨッシーパパ (2020-04-30 18:25) 

U3

こんばんは。
渡辺淳一作品、何ひとつ読んだことがありません。
それにしても元役者さんだったとは・・・。
by U3 (2020-04-30 22:29) 

mau

私は、阿寒に果つかな。
by mau (2020-04-30 23:33) 

suzuran

中学生の頃にドラマ化された「ダブルハート」を楽しみにして見ていました。心臓移植手術に興味を持って将来は医者になろうと思いましたが、医大に行くにはとてつもなく巨額なお金と人並み以上に優秀な学力が必要だということを理解してあっさりと諦めました。

渡辺淳一氏の著作では「欲情の作法」が良いです。
by suzuran (2020-05-01 00:34) 

ナベちはる

医師であると同時にドラマ化もされるほどの作家…感服します。
by ナベちはる (2020-05-01 00:41) 

そら

渡辺淳一さん大好きなんです。
世界観とか、言葉遣い。美しいですよね。「花埋み」が一番好きです。
作品に携わってらしたなんて素敵ですね。
by そら (2020-05-01 07:55) 

Rinko

「失楽園」がすぐに頭に思い浮かびますが、医師の視点から描かれた「ダブルハート」をぜひ読んでみたいですねー。
by Rinko (2020-05-01 08:35) 

skeptics

医学的価値が高い物語ですね。
考えさせられます。
by skeptics (2020-05-01 22:49) 

犬眉母

昭和の時代は、レギュラー枠で
興味深い作品がたくさんありましたね。

by 犬眉母 (2020-05-03 20:48) 

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