小沢栄太郎、治安維持法では投獄もされた筋金入りの新劇出身役者 [懐かし映画・ドラマ]
今日は小沢栄太郎さん(1909年3月27日~1988年4月23日)の33回忌です。俳優座の創立者であり、新劇出身の映画俳優の代表格でもあり、テレビドラマにも多数出演されました。憎々しい悪役の名脇役が多かったのですが、このブログでも多数ご紹介しました。(上の画像は上段が『近頃なぜかチャールストン』、下段が1978年制作のテレビドラマ『白い巨塔』より)
小沢栄太郎とは誰だ
小沢栄太郎は、東京左翼劇場で初舞台を踏み、プロレタリア演劇運動に参加したため、戦前は治安維持法なる弾圧法で投獄されています。
当時の官憲の弾圧は異常極まりないもので、長い獄中生活で転向を余儀なくされた人もいますが、小沢栄太郎や、初代水戸黄門の東野英治郎らは、投獄されても非転向を貫きました。
戦後、その東野英治郎や千田是也らと俳優座を設立。
役者としては、憎々しい悪役を中心に演じました。
先日の稲葉義男さんでご紹介した『第五福竜丸』(1959年、近代映画協会・新世紀映画/大映)には、静岡県知事の役で出演しています。
水爆に被爆した23人の船員たちが戻ってきたとき、収容する隔離病棟を用意して、全面的な協力を約束する「善い役」だったのですが、いつも憎々しい役を演じているので、初めて本作を見た時は、またこの人が悪いことをするかもしれないと、ストーリーを追うのに予断が入り込みました(苦笑)
ということで、これまでの総集編のような形になりますが、過去にご紹介した出演作品を振り返ります。
妻は告白する
DVDより
『妻は告白する』(1961年、大映)は、主演が若尾文子、原作はタレント弁護士の食分け的存在だった円山雅也の小説『遭難・ある夫婦の場合』です。
若尾文子演じる滝川彩子は、DV夫である大学助教授・亮吉(小沢栄太郎)と、彼女に同情する製薬会社社員の幸田(川口浩)の3人で登山中、足を滑らせた小沢栄太郎と宙吊りになります。
3人の身体はザイルでつながれていましたが、若尾文子は自分と小沢栄太郎を結ぶザイルを切って、小沢栄太郎を谷底に落とします。
それが「危機回避」なのか「故意の殺人」なのか、そして、若尾文子と川口浩の間に恋愛感情があったのかなかったのか、弁護士(根上淳)と検事(高松英郎)は法廷で争い、結局若尾文子は勝訴。
ところが、本当は殺意はあり、それを川口浩に話したところ、彼女の無実を信じていた川口浩は急速に気持ちが離れていきます。
すると若尾文子は、川口浩の会社のトイレで服毒自殺してしまいます。
「女は怖い」とレビューを書いた人がいましたが、考えてみると、人を愛するということは、本来、身勝手で、誰かを傷付けているかもしれないものです。
それを感じさせる深い作品でした。
白い巨塔(田宮二郎版)
新潮社のツイートで知ったが、『シン・ゴジラ』の閣僚が『白い巨塔』な件。財前、里見、大河内、東、花森、金井、柳原、河野、関口…気づかなかった。『白い巨塔』ファン失格。鵜飼、葉山、今津、野坂、佃、安西、真鍋、岩田、船尾、菊川はいないな。 pic.twitter.com/aAq0BY2fr0
— 濱田研吾 (@hamabin1) September 4, 2016
山崎豊子原作の『白い巨塔』は、過去6回映像化されています。
- 1966年、大映(田宮二郎)
- 1967年、NET(佐藤慶)
- 1978年、フジテレビ(田宮二郎)
- 1990年、テレビ朝日(村上弘明)
- 2003年、フジテレビ(唐沢寿明)
- 2019年、テレビ朝日(岡田准一)
小沢栄太郎は、そのうち田宮二郎版の映画とテレビドラマに、同じ鵜飼雅行医学部長役で出演しています。
前半のヤマである浪速大学の教授選挙。
財前又一(曾我廼家五郎)から絵を送ってもらったり、自身の出世に役に立ちそうだとの打算が働いたりして、立場上中立を装いながらも、財前五郎(田宮二郎)を応援します。
一方、“政治”を嫌う前学部長の大河内清作(加藤嘉)とは、何かと衝突します。
初めまして。
— ムーミン (@moomin_art78) March 27, 2018
仰る通り憎たらしい役がとても上手い方で「不毛地帯」はその典型でしたね(^_^)。稀有な俳優さんでした。
(「白い巨塔」鵜飼雅行役) pic.twitter.com/1xWLxySlkv
ドラマの最終回では、余命幾ばくもない財前五郎の後任探しを始め、全教授の東貞蔵(中村伸郎)から、「財前くんはまだ生きているんですよ」と強くたしなめられています。
このツイートにも書かれているように、山崎豊子作品では『不毛地帯』(1976年、東宝)にも出演しています。
近頃なぜかチャールストン
『近頃なぜかチャールストン』(1981年、喜八プロ・ATG制作/ATG配給)は、岡本喜八監督が、自宅まで撮影場所に使った手弁当作品です
行きずりの少女を追いかけ、婦女暴行未遂で大作刑事(財津一郎)に留置場に入れられた非行少年・小此木次郎(利重剛)は、国会議事堂で無銭飲食をはたらいて、留められている中高年たちに出会いました。
彼らは、ヤマタイ国という独立国の国民と称していました。
内閣総理大臣(小沢栄太郎)、陸軍大臣(田中邦衛)、文部大臣(殿山泰司)、外務大臣(今福将雄)、大蔵大臣(千石規子)、逓信大臣(堺左千夫)、内閣書記官長(岸田森)の面々です。
彼らは偶然、次郎の父・宗親(藤木悠)が無償で提供していたものの、母・政子(小畠絹子)が立ち退きを迫っている家でヤマタイ国設立を宣言します。
「近頃なぜかチャールストン」これも久しぶりに見たけど、おもしろい映画だなあ。小沢栄太郎・殿山泰司・今福将雄・千石規子・堺左千夫・田中邦衛・岸田森・藤木悠・財津一郎・本田博太郎・利重剛・古館ゆき・寺田農・小畑絹子・平田昭彦・伊佐山ひろ子、みんな良かった。とても優しい映画だった。
— 針ぽたお (@haripotao) September 16, 2012
結局、ヤマタイ国は焼失してしまうのですが、ストーリーは「広島原爆投下の日」から「終戦の日」までの出来事になっています。
この当時は、社会科教科書検定で、「侵略」「侵攻」の文言が問題になり、いわゆる右傾化が云われ始めた頃です。
平和への思いを表現する岡本喜八監督のメッセージが込められていた作品でした。
ホームドラマの新しいスタイルを確立したかも
戦前の不当な弾圧による獄中生活をしていただけに、演技にはその陰翳を思わせる重みがありました。
それだけに悪役・仇役ははまり役でしたが、逆に、ホームドラマでいつもニコニコしている善良なおじいちゃんも見たかったなと思いました。
でも、この爺さん、にこにこしてるけど、いつか悪いことするんじゃないかと、予断を許さないホームドラマになったかもしれませんね。
小沢栄太郎さん、覚えておられますか。
白い巨塔 - 田宮二郎, 東野英治郎, 小沢栄太郎, 加藤嘉, 田村高廣, 下絛正巳, 船越英二, 滝沢修, 須賀不二男, 夏木章, 加藤武, 北原義郎, 高原駿雄, 竹村洋介, 早川雄三, 石山健二郎, 山本薩夫, 橋本忍
妻は告白する [DVD] - 若尾文子, 川口浩, 小沢栄太郎, 馬渕晴子, 根上淳, 増村保造
不毛地帯[東宝DVD名作セレクション] - 仲代達矢, 丹波哲郎, 山形勲, 高橋悦史, 北大路欣也, 小沢栄太郎, 八千草薫, 山本薩夫, 山崎豊子, 山田信夫, 仲代達矢
子供の頃こーもん様と見分けがつかなかった(笑)
by pn (2020-04-23 11:52)
「赤い激突」でも犯人でしたね。
最終回に判明したという。
考えさせられました。
by skeptics (2020-04-23 14:59)
思い出の中では気難しそうに見える叔父ちゃんでした。
by ヨッシーパパ (2020-04-23 18:27)
憎まれ役をよくここまでやるなと思うくらいの役者さんですね。
おぼろげですが吉良木住野介もされていたような。
by ヤマカゼ (2020-04-23 19:23)
治安維持法、記録を読むとこれが日本で起きていたことなのかと愕然とした記憶がありあります。
by mau (2020-04-23 22:18)
>『シン・ゴジラ』の閣僚が『白い巨塔』
これに気づいた方、凄いですね。
ほとんどの方が気が付かないのではないでしょうか…
by ナベちはる (2020-04-24 00:17)
おはようございます。
小沢栄太郎と小沢一郎。どちらも同じ小沢ですが、世の中からは憎まれ役だったとして、なぜか実像とは懸け離れている気がいたします。
「馬には乗ってみよ人には添うてみよ」、食わず嫌いはいけませんね。
by U3 (2020-04-27 09:29)