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『プロレス悪役シリーズ』梶原一騎と真樹日佐夫の“馬場対ロッカ”を比べる [スポーツ]

『プロレス悪役シリーズ』梶原一騎と真樹日佐夫の“馬場対ロッカ”を比べる

『プロレス悪役シリーズ1』(一峰大二:画、 真樹日佐夫:原作)が、Amazon kindle Unlimited 読み放題のリストにあったので読みました。今から40年も前に描かれた1話完結で実在のレスラーを主人公にするマンガですが、当時の読者は、虚実ないまぜのストーリーに想像力を膨らませて楽しんだものです。(上の画像は『ジャイアント台風』第3巻239ページ、『プロレス悪役シリーズ1』190~192ページより)



兄弟でも異なる創作




本書は、1つの話に1人のプロレスラーを主人公にした劇画ですが、昭和の時代に発表され、2006年に単行本として復刻されました。

中でも興味深いのは、アントニオ・ロッカという実在のレスラーが主人公になっている話です。

アントニオ・ロッカは、道場の教え子から金を取らない日系柔道家の谷圭一五段に厳しい攻撃をして、リングで絶命させてしまいます。

それに対して、日本人として敵を取るとジャイアント馬場が名乗りを上げ、なぜかブラジルで対戦。

アントニオ・ロッカがリングアウト勝ちしたことになっています。

ジャイアント馬場は悔しがりますが、アントニオ・ロッカが障碍児の施設を訪ねてリハビリに協力している光景を見て、「厳しすぎる悪役」であることがわかるような気がする、と納得して日本に帰るというストーリーです。

障碍者に比べたら、空手道場に通える子弟は恵まれているんだ、といいたいのでしょうか。

だからといって谷圭一五段を絶命までさせなくても、というツッコミは措くとして、この真樹日佐夫さんは、御存知の通り、劇画原作者としてマンガ史に名を残す梶原一騎先生の実弟です。

しかし、このアントニオ・ロッカとジャイアント馬場の因縁については、兄弟で描き方が全く異なっています。

梶原一騎(高森朝雄)原作の『ジャイアント台風』によると、アントニオ・ロッカは、ニューヨークの帝王と呼ばれ、プロレスの殿堂、マディソン・スクエア・ガーデンの超人気レスラー。

日系柔道家の谷圭一五段をリングで絶命させたことは同じなのですが、「ツギハオマエダ」と第二の犠牲者にジャイアント馬場を指名したものの、ジャイアント馬場には敗れ、以来人気を失い、寂しく故郷のイタリアに帰ったことになっています。

真相は?


では、真相はどうなのか。

アントニオ・ロッカのプロフィールは謎に包まれているといわれています。

ただ、ニューヨークで初代WWWFインターナショナル・ヘビー級チャンピオンとして活躍。(Wikiより)

若い頃のジャイアント馬場と対戦したことは本当らしい。

が、引退後もニューヨークでテレビコメンテーターなどをつとめていましたし、谷五段という人はが実在したかどうか自体定かではありません。

少なくとも、確信犯で相手を絶命させるようなレスラーだったら、興行主は危なくて使えるはずがありません。

要するに、梶原一騎、真樹日佐夫兄弟は揃って、実在のレスラーを勝手な創作で描いていたわけです。

それでも、当時から誰も批判的に突っ込むものはなく、今も「騙された」と叩かれずに読者はそのファンタジーを評価しています。

虚実ないまぜの劇画に胸踊らせた昭和時代


思えば、昭和を過ごした少年たちは、梶原一騎先生の虚実ないまぜのストーリーに胸を躍らせました。

たとえば、架空の主人公が実在の設定や登場人物の中で活躍する物語です。

『巨人の星』は、父親が志半ばにした退団した巨人で、体格に恵まれない主人公が魔球を編み出してマウンドで奮闘する話でした。


巨人という球団が実在するのはもちろん、父親に引導を渡したのは当時の監督、川上哲治であり、主人公に野球は1人でするものではないことを教えたのは王貞治でした。

『タイガーマスク』は、孤児の施設で育った覆面レスラーが、ジャイアント馬場やアントニオ猪木や大木金太郎らに助けられ、実在する外国人レスラーと対戦もしました。



その一方で、今回のように実在の主人公が架空のエビソードも加えられながらストーリーを展開する人物伝劇画も同様に人気がありました。

先程も述べた『ジャイアント台風』は、ジャイアント馬場が巨人を自由契約になってからプロレス入りし、強豪外国人レスラーと戦いながら強くなり、インターナショナルチャンピオンになって、プロレスの神様と言われたルー・テーズに勝ち、タイトルを防衛するまでが描かれました。



ジャイアント馬場が、巨人をクビになったのも、アメリカで実力が開花したのも、ルー・テーズに勝ってタイトルを防衛したのも、すべて本当のことです。



ただし、「強豪外国人レスラーと戦」う中身はフィクションでした。

実は当時は対戦した事実のない相手と戦っていたり、現実にはありえない「特訓」を行ったりシています。



梶原イズムが心を捉える


梶原一騎先生らの創作は、改めて論評するまでもなく、ヒロイズムをとことん描ききるという姿勢に貫かれていました。

梶原一騎、全体主義を否定した孤独の漫画原作者

「な、この人はきっとこういう生き方だったんだよ」「こういう生き方があってもいいじゃねえか」と情熱的に述べられたら、真相はどうあれ、その人の創作を真とする立場に立って物語を堪能しよう、という気になれます。

もちろん、今はもうこうした物語の作り方は困難ですから、新刊では見当たりません。

法律もありますし、そもそもこのネットの時代に、調べればすぐにバレるフィクションは成立しません。

そういう意味では、現代は味気なくなったと言えるかもしれませんが、それだけに、本書を読み始めるとハマってしまい、時間を忘れて続きが読みたくなってしまいます。

梶原一騎ワールドはいかがですか。

AmazonUnlimitedのほか、立ち読みサイトなどでも、一部無料で読むことが可能なようです。

プロレス悪役シリーズ1
プロレス悪役シリーズ1

プロレス悪役シリーズ1

プロレス悪役シリーズ1

  • 出版社/メーカー: グループ・ゼロ
  • 発売日: 2019/12/26
  • メディア: Kindle版



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コメント 9

せつこ

明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
by せつこ (2020-01-10 08:38) 

レインボーゴブリン

自分が覚えているプロレス漫画で最初に出会ったと思うのは、小学館学年誌に載っていた「キングZ」だと思います。多分、梶原一騎原作ではないと思いますが。
by レインボーゴブリン (2020-01-10 11:52) 

なかちゃん

梶原一騎のマンガは、大好きでした。
タイガーマスクも巨人の星も、プロレススーパースター烈伝も、たくさん読みました。
ただ、実際の本人は何やらヤクザみたいな事件を起こしてたように記憶していますが、違ったかな?
だから梶原一騎は嫌いになりました。
でも、その頃読んだマンガまで嫌いになった訳ではありません(^^;

by なかちゃん (2020-01-10 12:40) 

ヨッシーパパ

>私はこういうコップは持ち帰ることにしています

お子様が喜びそうですね。
子どもが小さい頃にポケモンジェットに乗った時に、コップやシートカバーなどいろいろ持ち帰りました。^_^
by ヨッシーパパ (2020-01-10 17:32) 

Boss365

こんにちは。
梶原一騎さんと真樹日佐夫さん、小生にはファンタジーな存在です。
特に真樹日佐夫さんは・・・
強面な面構えで極真の空手家・漫画原作者・小説家?不思議な人物です。
一時期テレビ番組に出ている姿も見ました。
「虚実ないまぜの劇画」漫画の世界なので許された可能性もあり。
昭和の時代は漫画を社会的に認めていなかった事もありそう?
現在は、政治家が漫画を堂々と語る時代(笑)
リアルに裏どり?しないとツッコミが入りそうです!?(=^・ェ・^=)
by Boss365 (2020-01-10 17:43) 

pn

昭和の持つ熱量は今とは比べ物にならないだろうねきっと、虚々実々あってこそのエンターテイメントであって欲しいと思う今日この頃。

by pn (2020-01-10 20:04) 

ヤマカゼ

懐かしい絵のタッチですね。昔、子供のころはこの漫画にあつくなりましたね。空手バカ一代も見まくりました。
でも確かに本当かなと思う箇所が多々あったような?
by ヤマカゼ (2020-01-11 06:38) 

犬眉母

自伝と称するものでも、バイアスがかかった
ものはいくらでもありますしね。
by 犬眉母 (2020-01-12 13:32) 

KINYAN

コメントありがとうございます。
「青春とはなんだ」は、子供の頃再放送で観たおもいでがあります。
かっこいい先生役でしたね(^o^)
by KINYAN (2020-01-14 20:35) 

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