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『43回の殺意川崎中1男子生徒殺害事件の深層』少年CはADHDだから犯行に及んだのか [社会]

『43回の殺意川崎中1男子生徒殺害事件の深層』少年CはADHDだから犯行に及んだのか

『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』(石井光太著、双葉社)が、AmazonUnlimitedリストに入っていたので読みました。2015年2月、神奈川県川崎市川崎区の多摩川河川敷で起こった13歳の少年殺害事件のルポです。関係者への取材が進められていますが、犯人の少年Cの家庭生活だけは詳細がなく、「ADHDの傾向」が背景として書かれています。



タイトルの「43回の殺意」は、被害者少年が、犯人の少年3人にカッターナイフで43回切りつけられて殺害されたことからつけられています。

不良たちによる凶悪犯罪であることに違いはありませんが、本書は関係者の取材を行うことで、「不良」の背景にあるものを明らかにしています。

率直に書くと、加害少年も被害少年も、毒親(暴力、ネグレクト=放任、一方で威圧)、シングルマザーの再婚、異なる血統(在日、ハーフ)といった「ほしのもと」であるがゆえに、群れ続けた少年たちだったということです。

そして、少なくとも本書で明らかにされている親たちは、体罰を正当化したり、派手好きだったり浪費家だったりといったくだりもあります。

したがって登場する少年たちは、学校だけでなく、家庭にも居場所のない者たちばかり。

たとえば、被害少年は、実父と離婚した母親が恋人と同棲を始めたことで自宅に帰るに帰れず、加害少年たちから酷い目にあっても、彼らと疑似家族のように群れ続けるしかなかったのです。

さらに悲しいのは、それでいて、少年たちが同じ境遇だから確固たる連帯感がある「親友」かといったらそういうわけではなく、一緒にゲームをする、賽銭泥棒をするという「連れ」でしかないところです。

不良の社会は「強弱」のヒエラルキーがあり、主犯の少年Aは実は別の不良にいじめられる側で、家に帰っても鉄拳制裁や長時間の正座など、「しつけ」と称する体罰を受けていました。

その反動で、自分が勝てそうな年少者の被害少年などには、ことさら威圧的な態度を取りました。

さらに、不良の彼らは義務教育期間中から飲酒や喫煙を当然のように行い、中でも飲酒は理性的自我を壊し、羽目を外す振る舞いにつながっていました。

マスコミは、例によって事件をセンセーショナルに報じ、インターネットを中心に「犯人捜し」の狂騒が巻き起こりました。

一方、犯行現場の河川敷には、1万人近くの善意の献花が行われました。

そのほとんどは、被害少年とは一面識もない人のはずです。

本書は、「冥福を祈りながらも、自らの内面を省みていた」と記しています。

被害少年の背景にはあまりにも不幸が詰まりすぎ、似たような「ほしのもと」や悩みを持つ人達が、他人事とは思えず、献花に駆けつけずにはいられなかったというわけです。

つまり、本書は、「凶悪性に目を奪われがちだが、事件の背景にある空洞化した家族の現状を直視すること」(Amazonの「メディア掲載レビュー」より)を、著者は突きつけているというのです。


たしかに、本書はおおむねそのレビューにふさわしい、関係者への取材によって、状況が明らかにされています。

ただ1人をのぞいては。

なぜ少年Cだけはサイコパスまで疑うのか


加害少年Cは、新事実もないくせに最高裁まで時間を稼ぎ、もちろん謝罪や後悔の気持ちなど全く見せなかったといいます。

法定で精神鑑定の結果が読み上げられた際、 性格については、「ADHD(注意欠如多動性障害)の傾向」「両親が養育に理解がなく、改善しようとしなかった」「中学時代は腫れ物に触るような扱いを受けた」などの分析がなされたと本書には記されています。

レビューのとおり「空洞化した家族の現状を直視」するというのなら、「両親が養育に理解がなく、改善しようとしなかった」ことこそが追及スべき点のはずです。

にもかかわらず、著者はその後の少年Cに対する記述で、ADHDの「衝動性」だの、「反社会性人格障害(サイコパスのこと)を二次障害で抱える例」があるだのと、とにかくADHDの側からアプローチしたくて仕方がない本音を隠していません。

「個人的には、犯罪者に発達障害や精神疾患のレッテルを貼り付けて、事件を捉えることには否定的だ」とエクスキューズを述べながらも、結局は「ADHDが直接の要因とは言えなくても、何がしかの病理に理由を求めなければ自分を納得させることができなくなった」と感情的な本音を述べています。

サイコパスの3/4はADHDを合併しているといわれますが、サイコパスはADHDよりはるかに少なく、統計的にもADHDの人のほとんどはサイコパスではありません。

にもかかわらず、ADHD「の傾向」があるというだけで、サイコパスだからという「仮説」を述べるのは合理的なロジックとは言えません。

私は片親で育った時期がありますが、物がなくなると、世間は「あそこの家はお父さんがいないから」と片親の子弟がやったことにするのが常でした。

たしかに、貧しかったりグレたりして、そうした行為に走る人もいました。

しかし、その論理をひっくり返して、そうした行為に走る人⇒片親、と決めつけることは間違いとわかるでしょう?

差別というのは、そういう非合理ロジックから始まっているのです。

というわけで、残念なところもありますが、被害少年と主犯少年の背景についてはよく書かれていると思いますので、ご関心のある方、AmazonUnlimited(定額読み放題)のリストに入っているうちに読まれることをお勧めします。

43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層
43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層

43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層

43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層

  • 作者: 石井 光太
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2017/12/13
  • メディア: 単行本



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コメント 10

犬眉母

個人の病理と、社会の病理の兼ね合いは、デリケートなものです。
「ADHDだから」なのか、「ADHDが色眼鏡で見られるから社会に失望して」なのか。
著者はちゃんと詰めたのでしょうか。
by 犬眉母 (2019-12-20 14:41) 

Boss365

こんにちは。
「ADHDの側からアプローチしたくて仕方がない本音」は問題。
切り口・結論としては「ADHD」を利用している感じですね。
殺傷事件の深層?正直「真相」は知りたいですが、読まない分野の本かな。
情報や知識がなくて、何となく「差別」が起きている事ありますね。
小生も気を付けよう!?(=^・ェ・^=)
by Boss365 (2019-12-20 16:26) 

ヨッシーパパ

難しい背景があったのですね。
by ヨッシーパパ (2019-12-20 19:35) 

pn

何でもかんでもADHDのせいにした所で解決にはならんだろうに。
by pn (2019-12-20 20:50) 

mau

人の思いは他者からは推測しか出来ず、自分の理解できるレッテルを貼りがちなのかも
by mau (2019-12-20 22:23) 

starwars2015

衝撃的な事件だっただけに、人は何か分かったような解釈をつけて
封印したくなるんでしょうね。
by starwars2015 (2019-12-20 23:22) 

ナベちはる

「サイコパス=ADHD」なんてこと、あってはいけませんね。
by ナベちはる (2019-12-21 01:01) 

さすらいの話師

ADHDだと判定できれば安心出来る感じが…なんとも。勉強学が出来ないのもADHD?ダラしないのも?中には"そういう人もいるカモ?"じゃなかと…。
by さすらいの話師 (2019-12-21 09:41) 

skeptics

少年らを、そこまで追い込んだ親を責めなきゃだめでしょ。
by skeptics (2019-12-21 21:37) 

そらへい

いつも報道等で知らされるのは、表面のごく一部なのでしょうね。
by そらへい (2019-12-22 14:34) 

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