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白川郷・宗教殺人事件、信仰心は犯行を免罪できるのか [戦後史]

白川郷・宗教殺人事件、信仰心は犯行を免罪できるのか

人の心に安寧をもたらすはずの宗教は、しばしば刑事事件のキーワードになります。1981年10月に岐阜県白川村で起こった白川郷・宗教殺人事件が、『殺人犯の正体』(鍋島雅治 (著), 岩田和久 (著)、大洋図書)という、殺人事件9件をマンガにまとめた本の中に収録されています。



白川郷・宗教殺人事件とは、富山県との県境にある、わずか15世帯の小さな村、白川村の一軒家で起こった、教祖による教祖の母親殺害事件です。

教祖は、母親の死亡について、宗教的儀式で仏の導きを受けた出来事、現世的には「事故」であると言いはりました。

しかし、刑事はその言い分を論破しました。

経緯は次のとおりです。

あらすじ


教祖とされた男は村出身の秀才で、岐阜県庁の上級職にパスして農業普及改良員をつとめていました。

高山市で結婚して、子もなしましたが、村に残っている母親が、自分は村を出たくないが息子とは一緒に暮らしたいと求めました。

男は悩み、たまたま既存宗派を破門された母娘が、島根から布教に来ていたため相談。

同村は信心深い土地柄で、男も「宗教家」を標榜していた母娘を頼りにしたのです。

結局、男は母親を見捨てられず、妻子を高山に残して村に帰ってきました。

何しろ、男が散歩しているだけで、姿が見えないと母親は大騒ぎするほど息子に依存しているのです。

県庁の上級職も棒に振り、人生の目的を探しあぐねていた男は、島根の母娘の誘いで、母娘の標榜する宗派の修行を始めます。

宗教母は、男に利用価値があると見込んで、娘と「交合の儀式」を行い男を取り込みます。

そして、男を教祖に祭り上げ、男の実家をのっとって信徒たちと暮らし始めます。

男にとっては、教祖に祭り上げられ、ちょっといい女の娘と「交合の儀式」に明け暮れる、新しい人生の道筋が掃き清められた思いでした。

ところが、息子をとられた気になった母親は、「息子は自分だけのものだ、役場に言いつけてやる」と口走ったため、宗教母は殺害を考えます。

そしてあろうことか、息子である男に対して、「お前の母はお前を産み落とすためだけに仏が遣わされた仮初の母。先程お告げがありました。明日はその生命が尽きるときです」と、宗教的体裁を装って母親の殺害を命じます。

男は、それに従って自分の母親に、「水行」として力づくで溺死させました。

しかし、刑事はこう見抜いていました。

「秀才のあなたが、あんな子供騙しの宗教にハマっているとは思えない。母親によって職も妻子も失い、過剰な愛情と独占欲が疎ましくなったので、母親を恨んでいたのではないですか? そこへ娘の肉体と教祖という目的を与えられたあなたは、母娘にたぶらかされたふりをして、実は明確な殺意のもとに母親を殺したんだ」

それでも、男は「心神耗弱(マインドコントロール被害)」扱いでたった懲役6年でした。

本書は、AmazonKindle読み放題などで読むことができます。


「定説」と言われたから殺人にはならなかった


これを読まれた方は、実際に手をかけて死に至らしめているのに、どうして殺害の意思が論争になるのか不思議に思えるかもしれません。

そこで、似たような事件として、成田ミイラ化遺体事件(1999年)も振り返ります。

頭部を手で軽く叩く方法で病気を癒すとの教えを信じた男が、高齢の家族を病院から連れ出して実践したものの、家族は死亡。

ところが、教祖はその家族を「まだ生きている」と主張したため、男をはじめとした周囲もこれを信じて、ミイラになるまで頭を叩き続けた事件がありました。

ワイドショーがとりあげると、教祖は「(生きているのは)定説」と言い張ったことを記憶されている方も多いでしょう。

その信者は、「確定的殺意を当初から持ち合わせていたとは考えにくい」として、殺人ではなく未必の故意が認定されました。

つまり、本人の信仰心では、殺したと思っていないから殺人には問わないというのです。

信仰心自体が、教祖のマインドコントロールという捉え方なんでしょうね。

しかし、好き好んで信仰して犯行に及んだものがお目溢しされるなら、サリン事件に関わったオウム真理教の幹部たちの一律死刑は辻褄が合わなくなります。

ですから、一口に「マインドコントロール」といっても、北九州一家監禁殺人事件のような“追い詰められてさせられる”ケースと、信仰による暴走は区別すべきと私は思います。

それにしても、当時の報道では、宗教はそこまでやるのか、気持ち悪いな、ぐらいの感想しかありませんでしたが、経緯を見ると、またもや事件の影に毒親ありの展開だったわけです。

親子のありようは、人の生きざまにいかに影響を与えるかが改めてわかりました。

殺人犯の正体
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  • 出版社/メーカー: 電書バト
  • 発売日: 2012/04/07
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コメント 8

pn

毒親ももちろん問題だが心の隙を巧みに利用する宗教ってやっぱ信用できないな。勧誘して他人を救っているつもりなんだろうけどあれ結局自分の徳を積むためでしょ?ネズミ講と一緒、ただの詐欺だよ特に新興宗教は。
by pn (2019-11-05 10:24) 

ヨッシーパパ

雪の深い茅葺き屋根で有名な地方ですか?
素朴な感じがするのにね。
by ヨッシーパパ (2019-11-05 19:46) 

なかちゃん

宗教は怖いですね。
我が家も20〜30年ほど前に宗教を語る女が来て、しかも親戚の名前とか全部知ってて『あなたの家には災いのタネが憑いています』と言い、我が家に入り込もうとしてました。運良くボクが帰宅して『あぁ、そんなもん取り憑くなら俺が全部引き受けてやる。だからキサマには用はないから帰れ』と、半分罵り倒したようにして帰したことがあります。
あの時は『気の弱い人だったら、厳しいかも…』なんて思いましたね。

by なかちゃん (2019-11-05 20:52) 

ナベちはる

宗教は目に見えないものなので、それを利用して人を操るのは怖いです…
by ナベちはる (2019-11-06 00:45) 

Rinko

刑事が言っているように、心の中ではその母娘の存在を利用していたところがあったのではと私も思います。
またしても「毒親」ですか・・・。考えさせられます。
by Rinko (2019-11-06 07:59) 

kou

宗教は怖いですね。
かなり前に私の〇〇が死亡しましたが、その時に宗教団体に傾倒していた同僚から「これは運命であり、入会すれば悪運は払われる」としつこく勧誘されたり、この時の雇い主の奥様から一昨年、あなたの〇〇を私の入信している〇〇でずっと供養していた。その縁もあるので一口何千円のお布施をしてくれないか・・・と勧誘されました。もちろんお断りしましたけど。どちらも素晴らしい方なのですが、宗教に傾倒するのは何かにすがりたい悩みがあったのでしょうね。
by kou (2019-11-06 08:04) 

エンジェル

宗教が絡んでくると刑期も随分甘くなるのですね。それにしても人を殺しておいて6年とは驚きです(・_・;?
by エンジェル (2019-11-06 22:30) 

そらへい

その宗教に帰依させ、心の安寧をもたらす宗教は
ある意味、現実逃避の側面があるかと思います。
この息子の行為も現実逃避の心理の中で行われたと
言うことなのだと思います。
by そらへい (2019-11-10 16:33) 

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