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ロボトミー殺人事件、恵まれない「ほしのもと」と人権蹂躙手術 [戦後史]

ロボトミー殺人事件、恵まれない「ほしのもと」と人権蹂躙手術

ロボトミー殺人事件といわれている、ロボトミー手術担当医師の家族殺害事件が、『殺人犯の正体』(鍋島雅治 (著), 岩田和久 (著)、大洋図書)という、殺人事件9件をマンガにまとめた本の中に収録されています。医学が人のために使われているのかを考えさせられる事件です。



ロボトミー殺人事件をご存知ですか。

一昨日のマブチモーター事件同様、「ほしのもと」に恵まれない人生がいかに生きづらいか、を考えさせられました。

そして「古き良き時代」である昭和の、今では考えられない人権感覚も改めて確認できました。


あらすじ


母子家庭に育った桜庭章司は1945年、家計を助けるために旧制中学を中退して13歳で工場で働き始めます。

働きながらボクシングで体を鍛え、英語を独学で勉強。

その甲斐あって、なんと20歳で米空軍OSI(諜報機関)の通訳に採用されます。

ところが、1951年に病気の母親のため、退職して長野県松本市に帰郷。

しかも、英語力を生かせる職場はなく土木作業員に。

桜庭章司は、正義感の強い真面目な青年ですが、ここでボクシングの腕前が災いします。

たとえば、手抜き工事の建設会社社長を殴って抗議。

社長からは、金を積まれて「収めてくれ」といわれた桜庭章司は、売れっ子作家になって母親に楽をさせたい思いから、生活の保証を当て込んでその金を受け取りますが、それは社長の罠で、彼は暴行と恐喝で逮捕されてしまいます。

もともと金目的ではなかったので、金を差し出した社長のだまし討ちです。

今も時々ある、ヤクザでもない人が突然恐喝で逮捕されるニュースは、もしかしたらこのパターンかもしれません。

だから、数行の新聞報道で、憶測からあれこれ論評するのは軽率なのです。

それはともかく、桜庭章司は英語力を生かして、シャバに復帰後はスポーツライター(のさきがけ)として活躍します。

新聞社にアメリカプロレス事情の記事の間違いを指摘したところ、スポーツライターとして見込まれたのです。

サラリーマンの3~4倍稼いだ桜庭章司は、その半分を母親に仕送りしたそうです。

ところが、彼の人生は、また母親が原因で転落します。

仕送りしているにも関わらず、母親の面倒をみない妹夫婦と口論の挙げ句、器物破損で逮捕。

取り調べで素直に従わないからという理由で、精神病院に強制的に入院させられます。

そこでは、「心が安らぐ」きれいな娘の「患者」が、ある日頭部の手術をしてから様子が一変する光景を見ました。

ロボトミー手術と言って、脳の中で感情や知性など思考を司る前頭葉の一部を切断する処置を受けたからでした。

その手術を受けた人は、感動を失い生きる気力をなくすため、精神病者を管理する手段に使われていたのです。

桜庭章司は抗議しますが、そのことで、やはりロボトミー手術の対象となってしまい、肝臓の検査といわれて睡眠薬をうたれ、前頭葉を切断されます。

またしてもだまし討ちです。

スポーツライターに復帰しても、以前のような仕事はできなくなっていました。

読み物は「活字のエンターテイメント」ですから、感情を奪われたらいい記事など書けません。

別の仕事も不運もあって長続きせず、人生をはかなんだ桜庭章司は、ロボトミー手術を行った医師に復讐することでロボトミー手術の恐るべき実態を世間に知らせようと、医師の自宅に乗り込みます。

が、たまたまその日は本人不在だったため、計画の口止めの意味もあって家族殺害に及びました。

判決は無期懲役。

動機と目的から、死刑か無罪かを求めていた桜庭章司は、「中途半端な判決」に失望し、改めて自分の人生の不運を呪いました。

本書は、AmazonKindle読み放題などで読むことができます。


科学や医学はいかなる価値で使われるかが重要


本書は、ラストでこう結んでいます。

ロボトミー手術は様々な問題があるとして、昭和50年、日本精神神経学界にて事実上禁止されたが……日本でこの手術を受けた患者の数は約12万人に上るといわれている

優生保護法による強制不妊手術とともに、このロボトミー手術なる人権蹂躙手術について思うのは、科学や医学はいかなる価値に使われるかによって、人類にとっては明暗が分かれることがある、ということです。

それと同時に、桜庭章司さんには悪いのですが、親離れの悪さも自分の人生をつまらなくした一因と指摘せざるを得ません。

本書では、毒親であるとは描かれていませんが、いつも母親が直接間接の原因で、子の人生の妨害をしています。

冷たいようですが、もっと自分のことを考えた人生は送れなかったのでしょうか。

親孝行で何が悪いんだ、と思われますか。

他人が差し出がましく物を言っても仕方ありませんが、子が親にエネルギーを奪われる人生は、やはり望ましい生き方とは思えません。

誰だって自分の人生に対して、天分や努力を全面開花した夢も希望もあるはずです。

それが実現できなければ、悔しいと思う方が自然ではないでしょうか。

もし、子が「それも味わい深い人生」なんていうとしたら、それは「引かれ者の小唄」のようにしか聞こえません。

まあいずれにしても、1度きりの人生は後悔のないように生きたいですね。

殺人犯の正体
殺人犯の正体

ロボトミー殺人事件―いま明かされる精神病院の恐怖 (エポック・メーカー)
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殺人犯の正体

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  • 出版社/メーカー: 電書バト
  • 発売日: 2012/04/07
  • メディア: Kindle版



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Take-Zee

こんにちは!
9月、10月の3連休はすべて雨でした。
ようやく11月になって晴れで迎えた連休ですね!

by Take-Zee (2019-11-02 11:57) 

pn

良い表現ではないかもしれませんがせめて医者を殺してればまだ報われたのかなぁ。
子の足かせになる親は親の資格無いと思います。
by pn (2019-11-02 14:06) 

そらへい

ロボトミー手術、約12万人
驚きです。
一人や二人の医者のせいではないですね。
by そらへい (2019-11-02 21:50) 

扶侶夢

ロボトミー…今では聞かれませんが、かつてよく耳にしました。'60年代~'70年代頃、映画「ショック療法」や「カッコーの巣の上で」などで知られる様に欧米ではよく問題になっていました。
今は技術の進歩でロボトミーのような言われ方はしていないけれど、優生保護法という感覚がある限りロボトミー的行為は今でも息を潜めて生きていると思います。
by 扶侶夢 (2019-11-02 22:24) 

ピストン

脳の前頭葉の一部を削り取ってしまうと人としての感情がなくなったり、やる気がまったくなくなったりします。
この「ロボトミー手術」を考案したエガス・モニス氏は、当時精神治療の画期的な方法だということで、ノーベル賞を受賞しています。
こんな非人道的な手術を考案して、ノーベル賞だなんて!
今の価値観で歴史を裁くことはできませんが、本当に恐ろしいことです。
by ピストン (2019-11-03 00:33) 

ゆうのすけ

いっぷくさ~ん
ご無沙汰してしまいました。お盆の後 PCがクラッシュして使えなくなってしまい やっと今月からWEB環境に そしてブログに戻ってこられました。(中古のPCを購入出来ました。^^)まだまだ以前のようなペースには戻れませんが約三か月ぶりに記事を更新出来ました。
またこれからも拙いブログですが良かったらお越しくださいね。ゆうのすけ
by ゆうのすけ (2019-11-03 01:52) 

斗夢

必殺仕事人に頼みたいと思うことがよくあります。
金を溜めなければなりません^^。
by 斗夢 (2019-11-03 06:41) 

犬眉母

12万人の中には、今なら発達障害の
診断を受けている人も含まれているのでしょうね。
by 犬眉母 (2019-11-03 23:22) 

なかちゃん

ものを知らなくて恐縮ですが、こんな悪魔のような手術があったんですね。

by なかちゃん (2019-11-04 06:01) 

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