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安部譲二さん、「伝えられないこと」を見抜く直感と推理力で活躍 [トレンド]

安部譲二さん、「伝えられないこと」を見抜く直感と推理力で活躍

安部譲二さん(1937年5月17日~2019年9月2日)の訃報で持ちきりです。自らの服役生活を描いた『塀の中の懲りない面々』で作家デビュー。「テレビも新聞も信用していない。世間も嘘とヤラセと談合」だからと、「伝えられることより、伝えられなかったこと」に着目した著述活動を行いました。



安部譲二さんのプロフィール


安部譲二さんは、日本郵船に勤務していた父親をもつ、かなり裕福で文化的水準も高い家庭の子弟として生まれたそうです。

しかし、それが窮屈だったのか、ガラの悪い人たちと付き合うようになり、麻布中学から高校への内部進学を許されず、本人曰く「夏祭りでテキ屋相手にカッとなって」人を刺してからは、塀の中の生活を経験しました。

高校は、慶應義塾など6校を転々とし、中央大学の通信課程を中退。

家柄で日航など大きな会社に就職しても、すぐ喧嘩をして長続きしませんでした。

それでも出所後、合計13年の服役生活を小説にした『塀の中の懲りない面々』で文壇デビュー。

以後は、政治批判のコラム・エッセイ、タレント活動など幅広く活躍しました。

もっとも、私が伺ったところによると、安部譲二さんは反体制派で日本共産党支持のため、昔の任侠仲間との付き合いが一切なく、ただ中学時代同級生だった自民党の橋本龍太郎政権のときだけは、批判は手控える任侠精神はあったようです


安部譲二さんが青年時代に属していたといわれるのは、東興業といいます。

安藤昇さんが率いる安藤組といわれたところです。

といっても、公安上は、安藤組はヤクザ組織ではなく、愚連隊扱いだそうです。

安藤昇さんは特定の親分から盃をおろされたわけではなく、入れ墨や指詰めは厳禁。

組員に当たる社員は、全員グレーの背広が制服だったといいます。

東興業と、既存のヤクザ組織とのもっとも大きな違いは、食い詰めたり世の中から弾かれたりして流れてきたのではなく、組員の多くは有名大卒や中退。

足を洗っても帰れるところがある「良家の不良集団」だったことで、安部譲二さんなどはその典型だったのでしょう。

安藤昇さん自身、「ヤクザ」引退後は映画俳優、プロデューサー、著述家に転身しました。

「伝えられないこと」を暴く推理力が必要


安部譲二さんは、もう10年以上前から、単行本の執筆は、少なくとも小説は書かれていなかったようです。

ただ、雑誌に連載する1~2ページのエッセイだけは続けられていたので、私はある月刊誌の連載をお願いに、阿佐ヶ谷のご自宅に、ウイスキーの「ヤマザキ」を持って伺ったことがあります。

安部譲二さんは以前も、私の妻が電話取材したことがあって初めての付き合いでなかったからか、それとも「ヤマザキ」が良かったのか、1ページだけ引き受けてくださいました。

ニコニコ出迎えてくださったのですが、ではどんなものを書こうか、という話になると一転して眼光鋭くなり、「良家の不良集団」のナマの迫力を感じました。

ちなみに、ヘビースモーカーで、「吸わないと太るから体に悪い」と私にも勧めていました。

俺はテレビも新聞も信用していない。俺は大ウソツキだが、世間も嘘とヤラセと談合で成り立っていると思っているからだ。だから伝えられることより、伝えられなかったことに目と耳が反応する

私は、安部譲二さんが連載に書かれていた、この一文が忘れられません。

たとえば、どこかの反社会的カルト教団が、「超能力」を喧伝していたとしましょう。

疑似科学なら、それは科学的根拠がないという批判を既存の物理法則で行えます。

比較的簡単に暴けます。

しかし、社会(たとえば政治)の不正や非合理の多くは、かならずしもわかりやすく見えるだけでなく、情弱を騙しながら、マスコミを籠絡しながら、深く潜行していきます。

ですから、メディアから「伝えられていること」を捉えるだけでは、どうしても限界があります。

つまり、世の中を知るというのは、「伝えられていること」は大事ですが、もう一歩踏み込んで、「伝えられなかったこと」も暴く推理と論理力が必要なのです。

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かつての未解明事件も推理


安部譲二さんは刑務所の小説だけでなく、かつての未解明事件を推理した『日本怪死人列伝』(扶桑社、2002年)などの著書もあります。

それをまた読み返して、「伝えられなかったこと」に気づく力を助けてもらおうと思いました。

安部譲二さんの生前のご遺徳をお偲び申し上げます。

塀の中の懲りない面々
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日本怪死人列伝 (バンブー・コミックス)
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ぼくのムショ修業 (講談社文庫)

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コメント 10

ヨッシーパパ

あの麻布中学に入学できると言うことは、頭脳は優秀だったようですね。
by ヨッシーパパ (2019-09-08 18:20) 

pn

「伝えられなかったこと」が「わざと伝えなかった」のならさらに暴く意味ありますよね。
何年前かは忘れましたがラジオで声聞いた時もう何言ってるのか分からなかったので具合悪いのかと思ってましたが死因は急性肺炎でしたか。
by pn (2019-09-08 20:40) 

coco030705

まずは、安部譲二さんのご冥福をお祈りしたいと思います。

いい家に生まれ、裕福に育ち、頭もよかったのに、裏街道へ足を踏み入れた人なんですね。どうもそれが、理解が難しいのですが、人間一歩間違えばそうなってしまうのでしょうか。
でも文筆業になられてからは、良いものを書いておられたんですね。ほんとうにユニークな人だと思います。
動物的な鋭い勘をお持ちだったのかなと思います。
by coco030705 (2019-09-08 21:12) 

なかちゃん

塀の中の懲りない面々は、映画で観ました。
こんな世界があって、それを書いて世に出す人がいることの方にビックリした記憶があります。
やぁこなんか表に出てほしくないですね(^^;

by なかちゃん (2019-09-08 21:57) 

そらへい

知らない塀の中のことが読めるというので
読みましたね。
安部譲二さん、もっと無頼派の方と思っていたのですが
そんなことは無かったですね。

by そらへい (2019-09-08 22:14) 

ヤマカゼ

お知り合いの方がなくなられてさぞかし御どかれたのでは。
それにしてもいっぷくさんは凄い方なんですね。
by ヤマカゼ (2019-09-09 06:55) 

旅爺さん

安部譲二さんは面白いキャラクターでテレビを賑わしましたね。最近はもう大部テレビから遠ざかってましたね。

by 旅爺さん (2019-09-09 09:36) 

Boss365

こんにちは。
安部譲二さん、詳しく知らないですが、経歴見ると破天荒?な人生だったと感じます。「「俺はテレビも新聞も・・・」の文章を読むと筋の通った「生き様・哲学」を感じます。コメントありがとうです!?(=^・ェ・^=)
by Boss365 (2019-09-09 12:03) 

Take-Zee

こんにちは!
この人も死んじゃいましたね!

by Take-Zee (2019-09-09 16:25) 

犬眉母

キックボクシングの解説もされていたんですよね。
by 犬眉母 (2019-09-10 02:14) 

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