『日本共産党と中韓ー左から右へ大転換してわかったこと』(ワニブックス)という書籍を久びさに読みました。筆坂秀世さんという、元同党の幹部で国会議員だった方が、日本共産党の変質の歴史を整理。その裏話を加えてまとめた書籍です。いろいろなことを考えさせてくれました。
本書の背景
先日ご紹介した、飲食雑談形式をとる還暦Youtuber、
篠原常一郎さんが公設秘書として仕えたのは、日本共産党のナンバー4とされた筆坂秀世さんでした。
筆坂秀世さんは2003年、党職員と飲食した際、ダンスを踊って女性の腰に手を回したというセクハラ事件で、国会議員を辞職。
政策委員長など党の役職もすべて辞任(解任?)しました。
しかし、それでも党は物足りなかったらしく、いろいろあって結局、筆坂秀世さんは離党へ。
私の記憶では、筆坂秀世さんはこの頃、膀胱がんを患ったと聞きます。
命を脅かすことがあったときに、そんなことが重なってさぞ大変だったでしょう。
以前の日本共産党は、幹部に東京大学卒や京都大学卒が多く、歴代政策委員長は上田耕一郎、工藤晃などは東京大学、現在の藤野保史という人も京都大学で、高卒の筆坂秀世さんは異例の出世と言われました。
たぶん、同党には、旧帝大出身者自体減っているのと、筆坂秀世さんはご夫妻で人生を捧げて、党の任務を懸命につとめられたのでしょう。
それが、尊厳を傷つけられるようなやめ方となったことで、これまでの離党・除名者に対してそうであったように、右派マスコミは筆坂秀世さんを大歓迎。
“日本共産党の真実”暴露を期待しました。
そんななかの一冊が、本書『日本共産党と中韓ー左から右へ大転換してわかったことー』です。
日本共産党の不破哲三さんは、筆坂秀世さんの暴露本について、「ここまで落ちることができるのか」と軽蔑していますが(2006年4月19日付『しんぶん赤旗』)、筆坂秀世さんの行為(党内の話を暴露)の是非については後に述べるとして、対外的な日本共産党の変質やご都合主義の指摘は、私だって知っている公然とした事実です。
つまり、本書に書かれている日本共産党の矛盾と動揺は、誰でも証明できる自明のことです。
日本共産党は、離党者の暴露が出ると、その真偽ではなく、人間性評価から反論が始まるのがいつものパターンですが、この「自己愛」はいい加減やめたほうがいいでしょう。
日本共産党は実はこうだった
それはともかくとして、日本共産党の変質やご都合主義とはどのようなものでしょうか。
細かくは本書を読んで頂くとして、ネットの無責任な書き込みを信じ込むネット民は、たぶん知らないであろうことをいくつか書きます。
まず、
日本共産党は一貫して改憲政党でした。
少なくとも護憲という言葉は自ら否定し、一貫して護憲を標榜してきた日本社会党⇒社民党を、自衛を考えていない無責任な政党と、1980年代までは批判していたはずです。
物持ちのいい私は、その頃の書籍やパンフレット、リーフレットを今もたくさん持っているのですが……
次に、
日本共産党は自民党の原発行政に反対だっただけで、原発そのものは「平和利用」と称する推進派でした。
いつから脱原発になったのでしょうか。これも全く説明がありません。
東日本大震災が契機となったのなら、きちんとこれまでの自己批判も含めて説明をスべきです。
そして、
日本共産党は暴力的左翼活動(いわゆる新左翼)とは一線を画し、味噌もクソも一緒くたの大衆運動を良しとしませんでした。
ですから、今の沖縄問題における日本共産党の関わり方は、1980年代ぐらいまでは考えられませんでした。
そして、私が一番失望したところは、
日本共産党は中国共産党にも朝鮮労働党にも毅然とした態度を取り、中国とは1990年代中頃まで、北朝鮮とは2005年まで絶縁していました。
つまり、外国の思想で、我が国を干渉することは許さないというナショナリズムを持っていました。
それほどの「大義ある断交」をしたのに、なぜか今の韓国に対しては正反対の態度です。
拉致問題にもだんまりを貫くなど、今の土下座追従ぶりは何なのでしょうか。
要するに、20世紀終盤から21世紀初頭にかけて、日本共産党は自ら掲げてきた「小さくてもブレずに夜空にキラリと光る北極星の如き」旗をおろし、同党が唾棄していた極左冒険主義に転落したのです。
マスコミでは、『しんぶん赤旗』の読者減が報道されていますが、私には、古くからの党員・支持者の悔し泣きと決別の声が聞こえてきます。
同党がそうなってしまった原因が、誰にあるかは、筆坂秀世さんよりも、篠原常一郎さんの動画のほうが詳しいので、ご関心のある方はぜひ篠原常一郎さんの動画をご覧ください。
本書を読んで考えさせられた2つの問題
暴露の是非
さて、書かれている日本共産党の対外的な変質は事実として、それ以外に本書は、2つの議論すべき問題があります。
ひとつは、日本共産党が「党の問題は党で解決する」と決めているのに、議論を党外に暴露したことです。
これは、経産省をやめて、官僚システムの暴露と批判を行っている古賀茂明さんも同様の批判をされています。
暴露は、たとえば企業のプロジェクトや待遇に係る場合、不正競争防止法に引っかかることもあります。
一般論で言えば、やはり暴露は物議を醸しても仕方ないかもしれません。
しかし、筆坂秀世さんや古賀茂明さんの暴露は、「闇」を世に晒した点で、社会的には公益性のあることです。
ということは、個人の行為としてはともすれば悪のそしりは免れないが、社会的にはいいことをしたともいえる、ことになります。
私が何を言いたいのかというと、
人間の行為は善悪のどちらかのオール・オア・ナッシングでは単純に結論づけられない 、ということです。
にもかかわらず、ネット掲示板は、悪を決めると、もっぱらそれを叩きます。
それでは、物の本質は見えてこないのです。
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保守派転向の怪しさ
もうひとつ、筆坂秀世さんは、本書によると保守派に転向したそうです。
私は、誰がどんな思想を持つかはその人の自由だと思いますが、「保守派」が筆坂秀世さんの本心だとしたら、この人はこりてないな、と思いました。
何々派とか、何々主義とか、そういうのに依拠しないと生きていけないのでしょうか。
今までは、日本共産党を鵜呑みにしてきたが、日本共産党を離れて、日本共産党の悪いところがわかった。
それはいいでしょう。
しかし、だからといって保守派になったら、今度は保守思想を鵜呑みにするという、同じ失敗を繰り返すだけではないでしょうか。
自民党は与党ですよ。
自由民主党の闇の深刻さのほうが、日本共産党のそれよりもずっと重いのです。
私の考える正解は、
自由民主党が絶対正しいという立場からも、日本共産党が絶対正しいという立場からも出発しないことです。
何党の誰が言ったことだろうが鵜呑みにしないで、是々非々で自分で調べてから判断することです。
まあただ筆坂秀世さんの場合、18歳から日本共産党に入党し、革命のための任務に賭けた人生を送ってきたので、そういう生き方しかできないのかな。
そうしたことも考えると、なかなか重い本でした。
ご関心のある方は、読まれてはいかがでしょうか。
日本共産党と中韓 - 左から右へ大転換してわかったこと - (ワニブックスPLUS新書)
自分で調べて判断することが大切、おっしゃる通りだと思います。
by ナベちはる (2019-09-07 01:01)
ほんとに、物事は善か悪の二元論ではないと思います。
ネットの暴走性は、どっちか一方だけで考えるから
抑えがきかないのかもしれませんね。
by 犬眉母 (2019-09-07 01:10)
○○党に投票しないひとは敵(国賊)という認識を教え込められ、盲目の投票をする。これでは真の野党、与党もありません。落選しても自分で決めた党や立候補者に投票しなければ見かけだけの民主主義国家になってしまうと思います。
自民党員の暴露本が出ればいいですね!
by 風太郎 (2019-09-07 05:38)
共産党は嫌いですが良くも悪くもそれなりに我が道を行くテレ東のごとく昔は一本筋が通ってた気がしますが、気が付きゃフジテレビみたいに節操なしになったと思う。
by pn (2019-09-07 07:29)
共産党員の知り合いがいますが、自家用にノー戦争という黄色い大きなステッカーを貼り、当番だからと時々街頭演説をしています。給与をいただいているので仕方がなくという感じでしたが、サラリーマン化しているように思えてなりません。
by kou (2019-09-07 08:56)
こんばんは!
私らの時代は共産党は意味もなく嫌われていました。
大企業は就職前に徹底的に共産党と関わったか調査
したようです。
by Take-Zee (2019-09-07 18:38)
政治的な本は、一度も読んだことがありません。
昔は、受験に出てくる文学作品、時に赤川次郎や片岡義男で頭を軽くしたり、五木寛之や吉行淳之介、エラリークイーンも読みましたね。
最近では、司馬遼太郎をほとんど読んで、吉川英治の世界に浸っています。
by ヨッシーパパ (2019-09-07 18:54)
最近の共産党、特に小池氏の発言に興味を持っていましたが、思想とは難しいものですね。どなたかが言っていましたが、白か黒かどちらかに決められないような問題点についてどう考えるか、この点に尽きると思います。
by レインボーゴブリンズ (2019-09-08 17:57)