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「アートで健常者に勝ちたい」四肢麻痺ペインターが語る3つの肝 [障害者]

「アートで健常者に勝ちたい」四肢麻痺ペインターが語る3つの肝

夢は世界へマウスペインター、という動画が約1ヶ月前、Facebookの『NHKハートネット』で投稿されました。肩から下が動かせないTakayukiMatsumineさんの話です。口にくわえた筆を自在に動かすアーティストとしての作品を通して夢が語られます。(上の画像は『NHKハートネット』動画より)



この体でいるというのも自分の一つの武器


『夢は世界へマウスペインター』は、NHKハートネットが約1ヵ月前にFacebookに投稿した動画ダイジェストのタイトルです。

初出は、2016年10月31日(月)午後8時00分のハートネットTV。

今日現在、再生2.8万回です。



主人公は、四肢麻痺のため、電子ペンを口にくわえ絵を描くTakayuki Matsumineさん(30)。

現在は、筆を自在に動かして、ミュージシャンやスポーツ選手のポートレート写真に、デザインを加えた作品を発表しています。

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動画から

高校生だった16歳のとき、フリースタイルスキーの練習中に頭から落下。

転倒しけい椎を骨折し、2年入院して必死のリハビリ後も、肩から下が動かせなくなりました。

友人は車の免許を取り、デートに行き、進学し、といった話を聞く一方、自分は何も変わらずベッドに寝たきりということにコンプレックスを感じました。

「俺も自立したい。好きなように生きたい」と考えたTakayuki Matsumineさんは、退院後、一人暮らしをはじめます。

そして……

「体が治らなくても、ひとつずつ“できる”と感じることを通して、楽しさを覚えていけるんだなあというか、体にあまりこだわらなくなったというか……」

自立を通して楽しさ覚え、いつしか体にこだわらなくなりました。

さらに、周囲の反対を押し切り、24歳でアメリカに留学。

そこで、口だけで描くアートを知ります。

「(健常者と)同じステージで戦って勝ちたいというのがずっとあって。ステージが一緒で、極めたら人を驚かせられるのって、アートじゃないかなと思って」取り組み始めたTakayuki Matsumineさん。

今、Takayuki Matsumineさんの夢は、ニューヨークでの個展開催だそうです。



体が治らなくてもひとつずつ“できる”と感じる


この動画のポイントは3点あると思います。

障碍は「個性」よりも踏み込んた「武器」という表現


動画で、Takayuki Matsumineさんはこう言います。

この体でいるというのも、自分の一つの武器かなと思っていますねえ

障碍は個性という表現はありますが、さらに一歩進んで武器と表現しています。

健常の人が電子ペンを口に加えても、たぶん手を使ったペイントを超える表現はできないでしょう。

肩から下が動かせないからこそ、マウスペイントに対する集中力によってマウスペイントを自在に行え、それがマウスペイントならではの表現力につながる、という意味ではないかと私は解しました。

体が治らないことを前提としている


動画では、「体が治らなくても、ひとつずつ“できる”と感じることを通して、楽しさを覚えていける」と述べています。

中途障害者の場合、つい“昔のような体に戻りたい”と、「元に戻そうと思うこと」のみが目標で、オール・オア・ナッシングに考えがちです。

しかし、障碍はケガや病気と違い、その損傷は元通りにならないから障碍というのです。

もちろん、たとえば手足が不自由な人が、リハビリで日常的な機能を回復した、ということならばそれに越したことはありませんから、元に戻すための訓練は諦めずに行ったほうがいいと思います。

ただ、人間は「生きる」ことそれ自体をトータルで考えるべきであり、「もとに戻す」という発想しかないと、もし戻らなかったらそこで待っているのは絶望や自己否定です。

障害者のリハビリというのは、実はもとに戻すことではなく、ましてや絶望することではありません。

このブログでは、すでに子どもの高次脳機能障害のリハビリ医である、橋本圭司医師の話としてご紹介しました。

「できないところではなく、できるところが大事(できるところを見出すのがリハビリ)」
「健常者と同じになろうとするのではなく、自分の『できる』『得意』を知って伸ばせばそれでいい」

Takayuki Matsumineさんは、マウスペインティングに『できる』『得意』を自覚して、その能力を伸ばしたのでしょうね。

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健常者と同じ土俵で勝つことを考えている


とはいえ、健常者ができることが自分にできなければ、悔しいと思うこともあるでしょう。

ですから、別の場面で勝てばいい、ということをTakayuki Matsumineさんは教えてくれています。

アートで健常者よりいい仕事をすれば、手足を使うことはできなくても、人生を通して何を成し遂げたか、という自己実現で納得ができる、勝てる、とTakayuki Matsumineさんは考えているのです。

たとえば、障害者の親御さんの前で「健常者と同じ土俵で勝とう」と言ったとしても、たいてい、“この人は何を言ってるんだ”と一笑に付されます。

その人たちは、「健常者に比べて、この障害があるからできない」と、「できないこと」を前提にネガティブに考えるからです。

でも、Takayuki Matsumineさんのように、「自分の『できる』『得意』を知って伸ば」すことを前提とした考え方なら、また話はかわってくるのではないでしょうか。

今回の話は、健常者でも、「障碍」を「苦手なこと」に読み替えることで、志す自己実現に立ちはだかる「苦手」をどう乗り切るか、どう活路を見出すかのヒントになるかもしれません。

齊藤諒の生きる力 四肢麻痺・人工呼吸器装着の僕が伝えたいこと
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犬眉母

弱点にこだわるより、長所が大事ということですね。

by 犬眉母 (2019-06-21 06:09) 

pn

はだしのゲンの・・・名前忘れちゃったけど口で筆くわえて絵を描く人思い出しました。やっぱやりたい勝ちたいって想いは重要ですね。
by pn (2019-06-21 06:10) 

末尾ルコ(アルベール)

「アートで健常者に勝ちたい」四肢麻痺ペインターが語る3つの肝・・・今、現代アートに関する本を読んでいるんです。わたしはアート全般に興味があるのですが、その中では現代アートに対する興味は薄かったのですが、その本を読みながら(なかなかおもしろいな)と今さらながら認識を新たにしております。アカデミックな超絶技巧を駆使して描かれた作品ももちろん素晴らしいのですが、それだけでは絵画の世界、表現の幅はどんどん狭くなっていたでしょう。シーンにまったく新たなものを生み出してきた人たちがシーンに強烈な新風を巻き起こし、より豊かにしてきたという歴史もあらためて理解できて来た気がしております。新たなものが衝撃を与えるからこそ、結果的に旧来のものの価値がより増すという現象も起こります。そして現代アートは常に新たな表現方法による新たな作品が注目を集めます。当然賛否が飛び交うのですが、そこで起こる激しい議論がアートの世界を活性化させます。権威が胡坐をかいているだけのアート界ではほとんど政治の世界に接近してしまいますから、「新たな才能」「新たな表現」、そして「活発な賛否」・・・アート界のみならず、どんな世界でもこの循環が求められているのだと思います。そうした意味も含めて、Takayuki Matsumine氏のような方が独自の表現方法を生み出しながら作品を発表することには、アート界のみならず、様々な分野を巻き込んでいくだけの可能性もあるのではないでしょうか。わたしもぜひ注目していきたいです。

>「健常者と同じ土俵で勝とう」

アートと言いますか、文学も含めた文化芸術の世界では大いにその可能性がありますね。本来文化芸術は「誰に対してもドアを開けて歓迎している世界」であるべきです。過去においてはエリートだけの世界の時代もありましたが、もうそんな時代は終わっております。心身条件や社会条件などを超えて、より多くの人が参加し、それ以前に興味を持っていただきたいものです。

・・・

>日本⇒アメリカ⇒メキシコと渡っています。

凄いですね~。日本映画でメキシコロケとか、なかなか想像がつきません。それで動員的にも作品的にも上手く行かなかったとは残念なことです。しかしそのような作品が今観たら案外おもしろいなんていうこともよくありますので、近いうちに観てみたいものです。浜美枝と海外ロケというのはすごくしっくり来ます。しかし確かにご説明くださったストーリーを拝読させていただくと、ギャグもかなり苦しい感じがいたします。

> 結果を出せないと「クレージーも限界」と使い捨てられてしまう。

大スターだっただけに、風当たりは現在のタレントたちとは比較にならなかったのでしょうね。どんなに売れていた芸能人でも勢いがなくなる時期は必ずありますが、そんな時にファンやメディアがどれだけ大切にできるかということも国民の質と関わってくるのではと思います。国民に大きな愉しみや希望を与えて来た大スターに勢いがなくなってきたからといって(もう終わり)の大合唱で足を引っ張るような雰囲気が、結局現在のような、実質いてもいなくても変わらない「ひながた芸人」たちが小狡く儲けるような状況の一因になっているのでしょうね。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2019-06-21 07:12) 

Rinko

言葉は少し違いますが「ピンチをチャンスに変える」を思い起こしました。
すごいバイタリティーですね~。
ぜひその『武器』で勝っていって欲しいです!!
by Rinko (2019-06-21 08:20) 

なかちゃん

障碍は武器とまで踏み込んでいるなんて、スゴイですね。
考えれてみればボクもガン治療の後遺症?で顔の左半分の動きがおかしくて、それを何とかしたいという思いで頑張った記憶があります。
関係無いかもしれないけれど、何やら重なって思えたもので(^^;

by なかちゃん (2019-06-21 08:29) 

Take-Zee

こんにちは!
生き物の生活力はすごいですね。
他の器官が肩代わりする、驚きです。

by Take-Zee (2019-06-21 12:43) 

ヨッシーパパ

人間の能力には、もの凄い物が潜んでいるのですね。
その能力を活用する人間が一番素晴らしい。
by ヨッシーパパ (2019-06-21 19:25) 

coco030705

Takayuki Matsumineさんの努力はすごかったのでしょうね。すばらしいと思います。感動します。
アメリカって、嫌なところが多い国ですが、日本より進んでいるところもたくさんありますね。特にアーティストには門戸を開いている国だと思います。ニューヨークで個展をされて、もっと羽ばたいてほしいですね。


by coco030705 (2019-06-22 00:05) 

ナベちはる

>この体でいるというのも、自分の一つの武器かなと思っていますねえ

そこまで考えることが出来るということ、なかなかできないと思います。凄いです。
by ナベちはる (2019-06-22 00:43) 

そらへい

私は健常者ですが、いろいろ出来ないことがあったり
至らないことがあってコンプレックスを持っていますが
それも私という個性だと思うようにしています。
by そらへい (2019-06-22 20:32) 

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