幻冬舎の見城徹社長が、百田尚樹氏の『日本国紀』はネットの情報を無断引用しているとの指摘を行った津原泰水氏に対して、幻冬舎から出る予定だった小説の出版を中止にした上に、同氏の過去の作品の部数をツイッターで公開する“報復”を行ったことが話題になっています。
幻冬舎の見城徹社長のツイートはもう削除されていますが、あちこちのサイトでそのまま残っていますし、やはり問題のもとになるツイートなので、ここからご紹介します。
津原泰水さんの幻冬舎での1冊目。僕は出版を躊躇いましたが担当者の熱い想いに負けてOKを出しました。初版5000部、実売1000部も行きませんでした。2冊目が今回の本で僕や営業局の反対を押し切ってまたもや担当者が頑張りました。実売1800でしたが、担当者の心意気に賭けて文庫化も決断しました。
ー見城 徹 (@kenjo_toru1229) 2019年5月16日
それに対して、作家たちが反発。
高橋源一郎氏のツイートは、もっともすぎるほどもっともでしたが、さらにこのような逆襲まで……
今は初版の数が少ないときなのに、印税2%なんてねえ……。
このように非難の声が殺到すると、幻冬舎は会社として謝罪。
社長もツイートを削除して「ツイッターもやめる、テレビも見ない」としているのに、一部ネトウヨ的主張を行っている人の中には、まだ蒸し返して社長の行為をかばっています。
ということで、
出版社社長が作家の実売部数をばらして攻撃材料とする手法をどう見るかです。
というのも、出版業界のことをご存じない方は、いまひとつピンとこない部分もあるのではないかとおもいます。
結論から述べると、今日、優れたミステリー作品に贈られる日本推理作家協会賞の贈呈式で、受賞者である葉真中顕さんが述べたことにつきます。
「
本音とされる部分を露悪的に暴露して、誰かを馬鹿にすること、差別することを喜ぶような風潮や空気は間違いなく存在してしまっている」(朝日新聞デジタル 2019年05月28日 09時14分)
まさに、簡にして要を得るコメントだと思いました。
例えるなら、雇用関係もないフルコミッションの一般企業で、あなたにすら知らされていない会社のノルマを、あなたが達成できなかった罰として、営業成績をネットにいきなり晒されたらどうですか。
そういう話です。
出版契約とはどのようなのか
作家が出版社から本を出すときに、出版社とは出版契約をかわします。
何部刷るか、報酬(印税)はどうするか、売れて増刷したり、宣伝したりする時はどうするか、といった内容です。
大事なことは、この場合、何部刷るかは、出版社側に決定権があるということ。
すなわちそれは、出版社側のマーケティング責任ということです。
そして、実際には、その契約自体にいろいろ問題があります。
まず、出版社によっては、出版契約書自体を締結しません。
ということは、著者は刷り部数も実売部数もわからないし、印税をいくらにするかすら決められていないわけだから、出版社側の気持ち一つで、相場より少ない金額になっても文句が言えないのです。
また、契約書はかわしても、実際に何部売れたのか、著者に対して積極的に明らかにされないケースが大半です。
つまり、津原泰水さんは、幻冬舎社長の暴露ツイートで、初めて自分の本の実売部数を知ったかもしれません。
しかも、売り方(宣伝の仕方、販売チャネルなど)も明らかではないので、そもそも売れないことが著者の責任ともいいきれません。
にもかかわらず、幻冬舎社長があのようなツイートをすれば、出版業界のことを知らない一般の人々は、「津原泰水の本は売れていない⇒批判は信用できない、説得力がない」という思いを抱くかもしれません。
つまり、幻冬舎社長のツイートは、2つの意味でアンフェアです。
1.論争に有利になるように、必然性のない業務上の数字を勝手にツイートに利用した
2.本当なら著者に対して「初版5000部、実売1000部も行」かなかったマーケティングのミスを釈明すべきなのに、まるで著者がすべて悪いように責任転嫁した
人材(作家)に責任転嫁するような出版社では、そりゃ、批判されて当然でしょう。
そして、先に引用した、葉真中顕さんのコメントです。繰り返します。
「本音とされる部分を露悪的に暴露して、誰かを馬鹿にすること、差別することを喜ぶような風潮や空気は間違いなく存在してしまっている」
要するに、幻冬舎社長は、その批判が正しいかどうかではなく、
「本が売れないお前に批判なんか出来るのかよ、みなさん、こいつはこれだけしか本が売れてないんですよ」といっているに等しい、というわけです。
そして、このような手法は、本件に限らず、昨今の「風潮」としてある、と指摘されているのです。
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それでも逆ギレして庇っている人もいるが……
げんに、幻冬舎社長本人ですら、「本来書くべきことではなかったと反省」と謝罪しているのに、いまだに社長の行為を庇い立てている人がいます。
たとえば、百田尚樹氏の『日本国紀』にWikipediaなどからの転載があることを著者自身が認めているのにもかかわらず、逆ギレしている女性ライターとかね。
https://rondan.net/8166
こんなところにも、昨今のネットにみられる“手段を選ばない”叩き方の傾向が見えてくると思われます。
それにしても、これまで、このブログで何冊かレビューしましたが、一読者として個人的に申し上げると、幻冬舎の本はあまりおもしろくないですね。
おすすめの図書はありますか。
はじめての今さら聞けないツイッター入門[第2版] (BASIC MASTER SERIES)
>>幻冬舎の見城徹社長は、「Twitterやめる、テレビもやめる」というとるらしいけど、それ「出版社が実売部数で作家を叩く」という前代未聞の大失態に対する「引責」として、なんか意味あるんか?(ツイッターより)
これだけでも十分事態がわかるような気がします。
by 犬眉母 (2019-05-29 02:43)
ざっと書架を眺めてみたら思ったより幻冬舎の本は少なかったです。『ゴーマニズム宣言』の印象が強かったのでもっとあるかと思いましたが、そう考えると個人的にはあまり嗜好には合わないようですね。筑摩書房や白泉社の方が趣味に合うのか、多かったです。
by 扶侶夢 (2019-05-29 02:44)
幻冬舎の見城徹社長、実売部数ツイートの何が問題かを論考する・・・この社長は百田尚樹が佐藤浩市の役作りに対してディスった件についてもツイートしてますよね。そしてこの件も百田尚樹がらみなんですね。仲がいいですね。それだけお互いを大切に思っているのなら、どこかの島へ行って二人だけで暮らしてほしいですね。わたしとしてはこのような二人、あまり日本にいてほしくありません。しかしお二人とも憂国の士を自認しているのでしょうから、日本から離れるはずないですね。
>「ツイッターもやめる、テレビも見ない」
「テレビも見ない」というのは何かよくわかりませんが、見城徹社長という人の人間性はこの一件でよく分かったので、今後はまともな人はまともに相手しなくなるのではと思いますし、そうでなければならないとも思います。
>出版社側のマーケティング責任
書籍に限らず、売れているもののクオリティが優れているとは限らず、素晴らしい作品でも売れてないものは無数にあるはずですよね。そんなことは出版界で仕事をしておれば普通に知っているはずなのに、あたかも作家がすべて悪いかのように、逆ギレした小学生のような行為をしてしまったわけですよね。このような人物は、反省したようなことを言ったところで、生涯その性格の根本はあらたまらないことが多いと思います。幻冬舎の本はBOOK OFFで買って(笑)けっこう読んでおりまして、つぶさには覚えてないですが、内容が薄いものが多いというくらいの印象があります。佐藤浩市の件に口出ししてきた内容もなかなかでしたし(ホリエモンも口出ししてました)、幻冬舎の書籍はもう触れないようにしようなか、とさえ思ってしまいますね。
・・・
『空海』のように特定の宗教団体がお金を出した映画は珍品として愉しめますね。本当にもう、(おいおい、それでいいのかい!)とツッコミたくなるところだらけ(笑)。でも信者以外でも真に受けちゃう人もいるかもしれませんね。『空海』の場合はツッコミだらけのおもしろさだけでなく、佐藤監督の手腕でエンターテインメントとしても一定以上の水準でした。そして俳優陣がやはり豪華。という話題ではつい名前を出したくなるのですが、時代劇で「主演 岡田准一」というだけでもう豪華さとは縁遠い気分になるのです。そういえば岡田准一、『白い巨塔』も主演でしたね。
>Youtubeだと、もしかしたら興味の持てる動画もあるかもしれませんね。
確かにそうですね。わたしも病室でYouTube見たいです。しかしなにせA病院の病室設置テレビはBSでさえも映りません(笑)。入院前は起きている間はテレビつけっ放し母でしたが、考えてみれば、「あー、おもしろうない」とか「こいつ、嫌い」とか言いながらも画面を眺めていたところがありました。大病、大手術の後、体調はよくなっても、さすがに昨今の多くのテレビ番組を馬鹿々々しいと感じ始めているのかもしれません。
>タブーの分野(笑)で
そういう動画を視聴してらっしゃるって、何かこうすごくタフでカッコいい女性のように感じます。わたしの母はけっこうパンクな言動をしてしまうことがあるのですが(見た目はまったくパンクではないのですが)、母のそんなところは実は大好きなのです。 RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2019-05-29 03:17)
悪徳自費出版と変わりないですね。
by 風太郎 (2019-05-29 06:15)
作家の実売部数をばらすなんてしないで口頭や文書で本人にだけ言えば何も問題はなかったと思いますが。
by 旅爺さん (2019-05-29 07:19)
悲しいかな、葉真中顕さんのコメントのそのような『風潮』は、今の世の中ここそこにはびこっていますね。
by Rinko (2019-05-29 07:37)
頑張った担当もこれじゃ浮かばれないような。
by pn (2019-05-29 08:25)
日本国記がネット情報など引用しているのは
百田氏も認めているそうですが、なぜに
爆発的に売れたのか、考えてみる必要があります。
平易で読みやすく、多くの日本人に受け入れられたのですね。
出版社は売れなきゃ商売になりません。
by kohtyan (2019-05-29 08:35)
幻冬舎は出来て20年以上になりますね。
その当時は興味があって広告を見ていたのですが、
最近は買いたい本が見当たりません。
百田尚樹氏はなぜか生理的に嫌いで本を買いたいと思いません。
従ってどんなことを書いているのかわかりません。
by 斗夢 (2019-05-29 10:10)
こんにちは!
トランプの帰国とともに涼しくなりましたね!
by Take-Zee (2019-05-29 16:10)
そんな出来事もあったのですね。
私はのんびり、司馬遼太郎氏の後は、吉川英治氏に浸っております。
by ヨッシーパパ (2019-05-29 18:20)
擁護している人がいると言う話には暗くなりますが
批判している人の方が圧倒的に多い事にほっとします。
by そらへい (2019-05-29 22:16)
ネットたたきって、怖いですね。幻冬舎の社長さんはやりすぎだと思いますが、ネットって、顔が見えないだけに、何でも言いたいことが言える、どこまでも、悪意を拡張できる。だから、私はツイッターやフェイスブックは、やらないことにしています。ブログのみ。今まで困るほどのことはありません。ソネットさんが適当に削除してくださってるのかしら?
by coco030705 (2019-05-29 23:24)
本を出すのは出版社なので、それが売れなければ出版社のせいのはずなのに…それに対して著者まで巻き込んではいけないですね。
by ナベちはる (2019-05-30 00:35)
出版社の経営としてはそうでしょうが、売れるからいい本ってわけじゃない。著作料2%ですか?え〜。
by nachic (2019-05-30 13:21)