アテトーゼ型の脳性まひで話すのも困難な重度障害のある方の起業について特集した動画を、ご本人のお母さんがFacebookに投稿されていたので拝見しました。人生は自己実現達成への道筋を歩む営みなのだと改めて勉強させていただきました。
これまで、このブログでは、難病(医療ケア児者)や障害のある人が、ハンデを乗り越えて自己実現や社会復帰を達成した話を数例ご紹介しました。
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脳挫傷⇒高次脳機能障害の元競輪選手がパン屋として社会復帰したこと
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心臓発作による低酸素脳症⇒高次脳機能障害の青年が好きだった歌のデビューを果たしたこと
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脳挫傷⇒高次脳機能障害の元競輪選手がパラリンピックの自転車競技で金メダルをとったこと
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視床脳梗塞⇒高次脳機能障害の小児科医師がリハビリ科医として復帰したこと
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脳挫傷⇒高次脳機能障害の騎手が障碍者馬術の選手として復帰したこと
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公式戦に出られなかった知的障害者が知的障害者のフィギアスケート大会で銅メダルをとったこと
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膠様滴状角膜ジストロフィーの中途障害者がパラリンピック女子マラソン(視覚障害)でメダルを獲得したこと
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先天性ミオパチーの医療ケア者が支援学校中等部から高等学校に合格したこと
そして、これも何度かご紹介していますが、
「そんなのは一部の成功に過ぎない」
「大半の人はそうではないので、華々しい話はあたかも障害者がギフテッド(天才)であるかのような誤解を招くので迷惑だ」
といった、
ネガティブな反応が必ずあります。
それについては、
人生、前に進むか、進むことから逃げて言い訳と悪口で終わるかという違いだと私はお返ししてきました。
それについて今度は、再反論が入りました。曰く
「しょせんその人達は軽度の障害だから目標にできたのであり、重度の場合、前に進みたくてもそれらは参考にならない」
それについて、私の答えを書きます。
上記の例は、パラリンピックに出るから偉い、高校に入るべきである、ということを述べたくてご紹介したわけではありません。
そうではなくて、
生きるということは、どんな立場や状況であっても、自己実現達成への道筋を歩む営みになり得るということを述べたかったのです。
たとえば、主体的な改善が困難な、寝たきりの遷延性意識障害の人であっても、今日一日を無事生きるという事自体が、将来実現するであろう再生医療開始の日に1日近づいた、という成果と解すこともできるわけです。
もし、意識だけでも清明になれば、身体は自由に動かせなくても、限られた機能を使って、なるべく少ない動きで最低限のコントロールを自主的にできるような技術も現在は提案されています。
⇒
『紙屋克子看護の心そして技術』で遷延性意識障害と向き合う
ですから、たとえ重度障害でも、前向きに生きる道はないのか、と真剣に考えることで、進むべき「前」がないと言い切ることはできないと思います。
ということで、今日は、Facebookに、ご本人のお母さんが投稿されていた動画をご紹介します。
重度障害者の起業
大阪市に住む畠山亮夏さん(19)は、「アテトーゼ型」の脳性まひで、話すのも困難の重度障害です。
『脳性まひ』の最大の特徴は、不随意運動です。
一定の姿勢の保持や、可動範囲を意識どおりにコントロールできません。
障害者の場合、進路は作業所か施設、と親御さんが頭から決めつけることがほとんどですが、畠山さんはそうではありませんでした。
亮夏さんは高校卒業後に、何と
起業します。
それは、現役の介護スタッフや学生らの勉強のために、自らの不自由な身体を「生きる教科書」として提供する出前モデルです。
身体を提供する見返りに、報酬をもらい自立を目指そうというのです。
動画の中では、お母さんが移動の車中、亮夏さんが仕事の態度が悪かったことについて、「障碍があるからって甘えるな。お金をいただいているんだ」と叱り、亮夏さんが助手席を蹴って感情を爆発させる緊迫したシーンもありますが、私はすばらしい親子関係であるとおもいました。
こういう例があると、決まって「どうせ1人じゃできない」とケチをつける人がいるのですが、タレント事務所だって、タレントだけではなくマネージャーその他スタッフが支えているのですから、おなじことなんですよ。
普段から「前向きに生きよ」とエラソーなことを書いていた私ですが、「
重度障害でもこのような自立のビジネスモデルがあったのか」と、ただただ脱帽です!
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脳性麻痺的症状からは回復したが……
動画に出てくる、畠山亮夏さんと同じような動きを、実は私の長男もしていました。
低酸素脳症による完全な昏睡寝たきり状態を脱したと思ったら、脳性まひのような状態になりました。
これは、シェーをしているわけではないのです。
脳性麻痺というのは、身体のどこかを動かそうとすると、本人が思ってもいない方向に動いてしまうのです。
畠山亮夏さんは、まだ口元を見ると発語を確認できますが、この時点で長男は発語がなかったので、もっと深刻な状態でした。
当時、病院側も悲観的で、この先もこのままかなあと思っていましたが、長男の場合は幸い一時的な状態で、次第に不随意運動はおさまり、1年ぐらいで普通に歩けるようになりました。
といってもまだまだ課題はあるのですが、どのような状態であろうと、畠山亮夏さんのように、自分の「道」を見つけられるよう前向きに頑張ってもらいたいと思っています。
小児科の先生が車椅子だったら ─私とあなたの「障害」のはなし (ちいさい・おおきい・よわい・つよい)
人生やるかやらないか、シンプルな分水嶺ですね。
by 犬眉母 (2019-05-23 02:34)
重度障害者の起業、人生は自己実現達成への道筋を歩む営みと悟る・・・このお話は障害者の方々のみならず、万人にとっても豊かな学びを提供していただけますね。発想を大いに柔軟にし、時に大きく転換させることにより人生を切り拓く一つの例として実に考えさせていただけます。
>進むべき「前」がないと言い切ることはできないと思います。
本当にそうですよね。(ここで終わり)と自分で決めてしまっていては、その通り終わってしまいます。逆に考えれば、自分で「終わり」と決めなければ、人生終わることはないとも言えますね。もちろん万人に待ち受ける「死」の手前までのお話ですけれど。そしてわたしはこうも思うのです、どうせ万人に「死」が待ち受けているのなら、そうなるまでは無様でも踊り続けよう。いっぷく様のお言葉を借りれば、「前を目指し続けよう」ということになるのではないかと考えております。
障害者の方々が前を向いて進んでいるお話に対して批判する人たちがいらっしゃるというのは結局、ご自分の家族には前を向くという意識や行動を「しない・させない・諦める」と決めつけておられる方々にとって、現実に前を向いて行動している人たちがいるのは精神的に不都合だからなのではないかと思います。もちろん障害をお持ちのご家族がいらっしゃる方々のご苦労は大変なものでしょうけれど、「前を向いている人たち」の足を引っ張ろうとする思考傾向は本当に残念です。わたしの母も現在は障害者という名目になっており、しかも高齢なのですが、わたしは絶対に諦めませんし、母も同じ気持ちです(長い入院生活で精神の動揺はありますけれど)。そのような折ですので、わたしにとっても今夜のお記事、実に興味深く拝読させていただいております。
>「重度障害でもこのような自立のビジネスモデルがあったのか」
まったく同じ感想です。まず「前向き」を忘れずに、そして頭を徹底的に柔軟にしておれば、実は無数のチャンスが周囲にあるのでしょうね。わたし自身も大いに刺激をいただきました。いつも有難うございます。
・・・
>最後はお金の価値がわからなくなって
「お金の価値」の理解という文脈においては、わたしはかなり深く分かっていると自負しております。少々せつない自負ではありますが(笑)。なにせこの前にも書いておりますように、自販機で「30円高い」ボタンを押してしまって「ああっ!」と半ば悲鳴を上げるほどお金の価値は心身に沁み通っております。
それにしても普通の人なら何もしなくとも人生過ごせるくらい稼いだ人たちって、「何かして」破産しちゃうケースが多いですね。貧乏人の想像ですけれど、大きなお金を手にすると、(自分は何でもできる)という妄想に取りつかれる人が多いのではないかと。それとまあ、根本的な人生哲学や死生観などを一切持ってなかったのだとも想像します。それと、そのような人たちって、どうも人相が悪くなってしまう傾向があると思います。
>場末を舞台
昨今の映画だと、場末のはずが小ぎれいだったりするのですよね(笑)。本物感がまるでありません。だから過去のいい監督の作品を観たときの充実感が格別になります。過去作品の価値や充実ぶりを再認識させる素材としては、昨今の映画は役割を果たしているとも言えますが(笑)。 RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2019-05-23 03:12)
成功とか自立が前向きの結果って思うからじゃないのかな?
健常障碍関係無く先ずは生きる、すべてはそこから。
by pn (2019-05-23 06:14)
物理化学者のホーキング博士は、いつも車いすに乗られてはたから見ると痛々しく見えますが、障害をものともしない強い意志を感じますね。
by ヤマカゼ (2019-05-23 06:18)
「一日を無事生きるという事自体が、将来実現するであろう再生医療開始の日に1日近づいた、」と前向きに生きることも大切ですね。
by 旅爺さん (2019-05-23 06:31)
たとえ健常者であっても「人生は自己実現達成への道筋を歩む営み」を忘れがちですね。
がんばろう。
by Rinko (2019-05-23 07:29)
今ある作業所で働こう、ではなく
自らを出張モデルにするという発想にびっくりしました。
by ようこくん (2019-05-23 12:26)
>『重度障害者の起業、人生は自己実現達成への道筋を歩む営みと悟る』
ひと言で言い尽くす良いタイトルですね。人生の重みは万人に同等ですから、“だからどうのこうの”という言い訳は無用で、いっぷくさん面目躍如の痛快なタイトルだと思います。
by 扶侶夢 (2019-05-23 20:17)
自らをモデルにして起業…なかなか出来ることではないですね。
by ナベちはる (2019-05-24 00:35)