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井手俊郎はユーモラスなストーリーで人間をしっかり描いた脚本家 [懐かし映画・ドラマ]

井手俊郎はユーモラスなストーリーで人間をしっかり描いた脚本家

井手俊郎(いでとしろう、1910年4月11日~1988年7月3日)さんの生まれた日です。『青い山脈』で頭角を現し、『三等重役』や『めし』など、日本映画史に残る明るく楽しい東宝映画を中心に活躍しました。ユーモラスなストーリーなの中でも、人間をしっかり描いた脚本家であったとおもいます。(画像は断りのない限り劇中より)



ハイハイ3人娘


女性映画の名手ともいわれる井手俊郎は、江利チエミ、雪村いづみ、美空ひばりのジャンケン娘(三人娘)に続くユニットとして注目された、渡辺プロダクションの園まり、中尾ミエ、伊東ゆかりのスパーク3人娘の初主演となる『ハイハイ3人娘』(1963年、宝塚映画製作所/東宝)の脚本を書いています。

スパーク3人娘

中心となるのは、植木等(父)、北川町子(母)、中尾ミエ(姉)、田辺靖雄(弟)の家庭。

中尾ミエ

ホームドラマの原型となる『めし』を手がけただけに、家族のユニークなやりとりがテンポよく描かれています。

ちなみに北川町子というのは児玉清夫人で、田辺靖雄は初代コメットさんの九重佑三子の夫です。

当時の人気者、スリーファンキーズも出演しています。

スリーファンキーズ

黒澤明作品も手がけた井手俊郎ですが、『天国と地獄』に先駆けて、いたずらスケベ電話の犯人探しを、周囲のノイズをヒントにしているなど、決してアイドル映画と馬鹿にできない凝った構成。

クレージーキャッツが、クレージー映画30作で2度しか披露しなかった音楽コントもちらっと入っています。

クレージーキャッツ

水原弘は出演者に名前がないのでサプライズ出演です。

水原弘

これは楽しさ盛りだくさんで、かつストーリーもしっかりした東宝らしい傑作です。

この作品をきっかけに、スパーク3人娘はそれぞれの歌もヒットして大活躍しました。

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青春学園ドラマの基礎を作った脚本家


井手俊郎については、「一見明るく楽しい東宝映画と思わせて、実は塩コショーが利いたスパイシーな作品が多い」「小説の脚色を手がけて、原作より面白い作品もある」(脚本家・北里宇一郎 http://www.laputa-jp.com/laputa/program/idetoshiro/ )という批評もあります。

山口瞳原作の『江分利満氏の優雅な生活』(1963年、東宝)、曽野綾子原作の『ぜったい多数』(1965年、松竹)、石原慎太郎原作の『青春とはなんだ』(1965年~66年、東宝・テアトルプロ/NTV)などをさしているのかなという気がします。

山口瞳原作が面白くないわけではないのですが、岡本喜八監督のリズミカルな演出を最大限に引き出した脚本で、映像作品らしい面白さが加わったとおもいました。

妻は新珠三千代。父親は東野英治郎
『江分利満氏の優雅な生活』より


私がもっとも思い出深いのは、『青春とはなんだ』です。

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同じ年に、日活が石原裕次郎で同作を映画化していますが、裕次郎版は、石原裕次郎の野々村先生と生徒たちとの対決、地元ヤクザとの対決、十朱幸代マドンナとの関わりが描かれています。

『青春とはなんだ』(1965年、日活)

一方、井手俊郎脚本の『青春とはなんだ』は、夏木陽介の野々村先生が主役であることに違いはないのですが、たとえば岡田可愛など生徒一人ひとりの生活まで描かれている群像劇に近いもので、「学園ものでもヒーロー物でもない、1人の新任教師とともに生きる人々の生きざま」を描いたものとなりました。

それが、そこから15年間続く、日本テレビの青春学園ドラマシリーズのモチーフになっています。

青春学園ドラマ、そして井手俊郎の弟子といえば、やはり、「人間を描く」ことをモットーとする鎌田敏夫です。

鎌田敏夫によると、井手俊郎宅の内弟子になったものの、井手俊郎は脚本の技術的なことは何も教えず、もっぱら人の生き方や価値観の話をしてくれ、それが後の自分の脚本作りに役に立ったと述べています。

来て!見て!感じて! 鎌田敏夫イズムリファレンス

それが、学園が舞台でも教育問題ではなく、人間の生き様を描いた『飛び出せ!青春』や『俺たちの旅』につながっているのかもしれません。

ということで、今日挙げたのはほぼ60年代の人気者のみなさんですが、何人ぐらいご存知ですか。

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犬眉母

水原弘さんは本にもなった伝説の方ですね。
「黒い花びら」を歌われているのですか。
by 犬眉母 (2019-04-11 02:13) 

末尾ルコ(アルベール)

井手俊郎はユーモラスなストーリーで人間をしっかり描いた脚本家・・・実に多くの、しかもバラエティに富んだ作品を書いていたのですね。わたしが一番印象に残っているのは、今井正監督の『にごりえ』です。と言っても、井出作品をそんなに多くは観ておりませんもので、あくまで自分の見た範囲の中ではありますが。そもそも樋口一葉が大好きでして、どれも短い作品ながら、その密度の濃さ、そして言葉としての快調なテンポなど、樋口一葉は日本文学史の中でも特筆すべき天才の一人ではないかと思うのです。その作品を見事に映画化。もちろん小説とは違う作品として、とても充実した傑作だったと思います。
『ハイハイ3人娘』などは観ておりませんが、『にごりえ』の脚本家がこのようなコメディ作品をどのように造形しているか、とても興味があります。このところの日本映画、コメディもおもしろくないものがほとんどですので、余計に興味が湧きます。

>「小説の脚色を手がけて、原作より面白い作品もある」

「原作よりおもしろい」映像作品、かなりあると思います。世の中には「原作原理主義者」的人たちがかなりおりまして、彼らは「映像作品が原作よりおもしろいなんてことあり得ない」と、よく映画やテレビドラマを貶める発言をするのですが、わたしはこうした意見には組しません。異論はあろうかと思いますが、『ベニスに死す』なんかも、文豪トーマス・マンの原作よりも、ヴィスコンティの映画の方がよかってですし、スティーブン・キングの『キャリー』も、ブライアン・デ・パルマ監督の映画の方がおもしろかったです。でも原作原理主義者は(そんなことあり得ない)と信じているのでなかなか議論にはなりませsん。

『青春とはなんだ』は映画もドラマも観ておりませんが、これも機会があればぜひ観たいです。

>もっぱら人の生き方や価値観の話

そうなのですよね。結局この部分の理解が足りてないと、薄っぺらな作品しかできないものですよね。これまた昨今の脚本家の方々に知っていただきたい大きな真実だと思います。

・・・

>臭素酸カリウム問題

これはやっぱり意識しておくべきですよね。確かに「なぜ使うのか」という疑問は大切です。「売れさえすれば、そして大問題化しなければいいだろう」という杜撰な意識が透けて見えますね。味的には他社と比べて「ヤマザキの方がいい」と感じたことはまったくありません。

>主治医と話ができる知識と、同じような立場の人との意見と情報をやりとりできることが目的です。

わたしも同じです。ただ、わたしにはとても弱い部分がありまして、「できればより前向きになれる情報はないか」と探し続けてしまうことがあります。もちろんインチキ情報は分かりますので飛びついたりしませんが、「信頼できる情報の中から、より肯定的なものを見つけたい」という意識はかなり強いです。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2019-04-11 03:21) 

pn

原作より面白い、かぁ。今じゃ捻り方間違えると原作マニアに総攻撃だろうな(笑)。
by pn (2019-04-11 08:36) 

Take-Zee

こんばんは!
三人娘もスリーファンキーズも懐かしいな。

by Take-Zee (2019-04-11 17:52) 

ヨッシーパパ

中尾ミエさんは、こんにちわ赤ちゃんを歌った人ですね。
by ヨッシーパパ (2019-04-11 19:42) 

ナベちはる

「人間を描く」というのは難しいですが、井出さんはそれを見事に作品にした方なのですね。
by ナベちはる (2019-04-12 00:28) 

そらへい

夏木陽介主演、TVドラマの「青春とはなんだ」
はよく見ました。
石原裕次郎の映画もあったとは知りませんでした。
原作が石原慎太郎というのもはじめて知りましたね。
by そらへい (2019-04-14 16:47) 

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