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放射線医が語る福島で起こっている本当のこと(中川恵一著) [(擬似)科学]

放射線医が語る福島で起こっている本当のこと(中川恵一著)

放射線医が語る福島で起こっている本当のこと(中川恵一著、ベストセラーズ)を読みました。新刊ではありません(2014年刊行)が、だからこそ、著者の考えがブれていないか、どこが正しく、どこが間違っていたかなどがわかります。



今日、通っている眼科に行った際、『いまどきママパパの基礎知識〈放射線について〉』という復興庁の小冊子がありました。

いまどきママパパの基礎知識〈放射線について〉

あれから8年経つのに、まだこういうものが出回るのか、と思いました。

中身は、日本は世界で最も厳しいレベルの基準を設定して食品の検査をしていること、福島県内の主要都市の放射線量は、今では東京やシンガポールと変わらないことなどが書かれています。

しかし、原発事故については、いまだに解決したとは言えません。

地元住民の原状復帰はもちろん、農作物に対する風評被害も相変わらずです。

そこで、『放射線医が語る福島で起こっている本当のこと』を今更ですが読んでみました。

中身を一口に述べれば、

1.原発の是非と放射線の影響を混同した語りはやめよう⇒反原発だからと科学的根拠を無視してでも過剰に危険を煽る、というポジショントークはやめよう
2.医師でもなければ、放射線生物学を極めたわけでもない“自称専門家”が、放射線被ばくによる健康影響を語る姿には、正直言って違和感を感じる
3.(放射線量が)危険ではないという証明をしろという意見は「悪魔の証明」といってそんなものは(論理学上)ありえない
4.福島の人は放射線では死なない。ただし避難生活の困難さで死んでいる⇒避難命令や福島に対する偏見を批判

といったことを書いています。

要するに、著者自身は反原発陣営を批判する本音をいだきながら、放射線については科学的医学的合理的に恐れよう、というもっともな話を書いています。

一部反原発陣営が、科学もへったくれもなく騒ぎ、原発被害を最大限に描かないものは「御用学者」のレッテルを貼るという、正気とは思えない反対運動をしてきた以上、これは一定の見識があると思います。

ただし、逆から見ると、同書にも問題があるのですが、それは後述します。

この本が出た当時、『美味しんぼ』で、福島に行ったら鼻血が出たという話が問題になりました。

そんなことを書く方も書く方なら、確認も取らずにフクシマキケンとのレッテルを貼ってしまう反原発陣営の愚かさを批判しています。

咽頭がんの放射線治療は、7万ミリシーベルト。

福島の線量とは桁が違いすぎますが、誰も放射線治療で鼻血など出しません。

野菜不足や受動喫煙で100ミリシーベルト、本人喫煙で200ミリシーベルトぐらいがんのリスクが上がるが、それに比べたら原発事故の放射線は少ない、と具体的な数字を出して反証しています。

そして、“反原発”のシンボルのような存在になっている元京都大学の小出裕章氏が危険の根拠とする、「直線しきい値なし仮説(LNT)」モデルを科学的ではないと否定する、専門家としての反論もあります。

このへんは、大いにやっていただきたいですね。

【目次】
第一章 放射線のウソ・ホント
第二章 がんのウソ・ホント
第三章 避難が最大のリスクという福島の皮肉
第四章 豊かさと健康長寿は相関する
第五章 「バカの壁」で健康を損ねる人類
対 談 玄侑宗久×中川恵一
「福島に住む人々の暮らしを守るために」

目次でだいたい内容がわかるかな。

「豊かさ」は必要だから、節電反対。

石炭は途上国に譲って、日本はコントロールしながら原発を我慢して使おう、というのが著者の考え方です。

まあそれは著者の個人的「意見」なので、ここで賛成反対は措くとして、そういうことを述べている、という紹介に留めましょう。

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事実と道理で語る真実に右も左もない


科学的医学的には学ぶべきところが多い同書ですが、残念なこともあります。

原発事故の評価=政治的立場になってはならないとしている中川恵一氏自身が、反原発陣営のデタラメさを批判するあまり、自分も同じことをしていると見られても仕方ない軽率な書き方に陥っているところが1箇所あるのです。
私の経験では、マルクス・レーニン主義の洗礼を受けた学者たちが、今回の原発事故を受けて、放射線は非常に危険だと言ってるように感じます。

客観的なものの見方を説いてきた中川恵一氏が、肝心な結論のところで、急に「私の経験」の話になってしまうのです。

なーんだ、この人は要するに反原発の非科学性を説くふりをしながら、結局は「マルクス・レーニン主義」批判だったのか、と思わせる、書かずもがなの画竜点睛を欠いた政治的本音を垣間見た気がしました。

私がこのブログで何度もご紹介しましたが、放射線防護学者の安斎育郎氏は、日本共産党支持を同党機関誌で述べておられますが、東大の助手時代の1973年に、国会の参考人として日本の原子力行政を批判しています。

『福島県下での放射能調査に取り組んで』安斎育郎氏が訴えることは?

ところが、これが原発推進派にはよほど「痛いところを突かれた」のか、その後17年にわたってネグレクト・排除・恫喝・罵倒・差別・嫌がらせ・尾行・密偵・懐柔など、私のような市井の凡人では想像を絶する経験をされたそうです。

原発で利益を得ている「原子力ムラ」の圧力というのは実在するのです。

そこを見ずに一方だけを非難する中川恵一医師はアンフェアのそしりは免れないでしょう。

しかし、だからといって安斎育郎氏は、ミソもクソも一緒くたにした、大きなくくりでの現在の「反原発」を無条件に良しとはしていません。

『美味しんぼ』の鼻血騒動はまっさきに批判しているし、福島には毎月訪れ、土壌や空間の調査をして、「住めないところ」という一部反原発陣営が流している“風評”に徹底的に反証しています。

要するに、原発行政に批判的な「マルクス・レーニン主義の洗礼を受けた学者」でも、非科学的なフクシマキケンなどという人ばかりではないということです。

自民党の青山繁晴参議院議員は、こうした立場に共鳴して、安斎育郎氏を自分の出演番組に呼んでいました。

私は、この青山繁晴氏の態度をよいことだとおもいました。

つまり、科学的命題の真偽自体には右も左もないんです。

それをいかなる価値で使うか、というところで政治的魂胆が入りこむのです。

私たちは、「原子力ムラ」であれ「反原発」であれ、そんな魂胆には騙されずに、事実と道理で物事を捉えたいものです。

みなさんは、今も、福島や、福島の農産物が苦手ですか。

放射線医が語る福島で起こっている本当のこと (ベスト新書)
放射線医が語る福島で起こっている本当のこと (ベスト新書)

原発事故の理科・社会

原発事故の理科・社会

  • 作者: 安斎 育郎
  • 出版社/メーカー: 新日本出版社
  • 発売日: 2012/09/01
  • メディア: 単行本


nice!(220)  コメント(13) 
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コメント 13

犬眉母

真実を知るのはなかなか難しいですね。
by 犬眉母 (2019-03-30 02:03) 

末尾ルコ(アルベール)

放射線医が語る福島で起こっている本当のこと(中川恵一著)・・・そうですね。あからさまなポジション・トークが常態化している人たちって、本当の意味での知性が欠けているという以前に、人間性そのものを疑いたくなります。政治家にも学者にも非常に多いですよね。こういう人たちって、自分の発言がいかに陳腐なポジション・トークに陥っているか気づいてない場合もあるでしょうし、潜在的には気づいていても、人生のすべてを偏った思考で生きてきたので、最早引っ込みがつかなくなっている場合もあるのでしょうね。いずれにしても無様であることに変わりはありません。

>正気とは思えない反対運動

結局このような人たちって、いかなる事件・事故、いかなる悲劇であっても、自分たちの偏向した考えを正当化するための「ダシ」にしてしまうのですよね。人間として最もやってはならないことの一つだと思うのですが。だからわたしはこうした言動を見かけたら、人間性そのものを信用できなくなります。内を言っても、何の説得力もなくなりますよね。

>結局は「マルクス・レーニン主義」批判

ここでいきなり「マルクス・レーニン主義」を持ち出すのも、頭が硬直している感を受けますが、この方はまだ60歳にもなってないのですね。その若さですぐにマルクス・レーニン主義が出てくるというのはちと不思議です。「非科学的なフクシマキケン」を連呼している人たちの中に、今日びマルクス・レーニン主義に触れたことがある人が多いとは思えません。とてもじゃないけれど、彼らには理解できる代物ではないです。だからマルクス・レーニン主義とかではなく、ヒステリックな「いい人ファナティシズム」とでも言いましょうか、原発問題だけでなく、多くの分野で蔓延っていると思います。

・・・

>たしか魚のあらを餌にするリサイクルの飼育で安くネタを提供

そのようなことは知りませんでした。有難うございます。まあ必要以上に安価なものは要注意ですよね。

>廃棄品を豚に食べさせて

それも知りませんでした!どうもわたしの情報収集にはかなり偏りがあるようです。同時に実は、かつて食品には非常に神経質だった時期が長くあったのですが、このところはやや大雑把になっておりました。それではいけませんよね。また適度な敏感さを取り戻したいと思います。

>豚が一頭死ぬと翌日には

すごいですね~。最近では『孤狼の血』、以前であれば『ハンニバル』で、豚(小屋)の世界の獰猛さが描かれておりましたが、けっこうリアルな描写だったのかもしれませんね。

母は今回の入院以前から足元が覚束ないところがありまして、脚腰が痛いのは分かるのですが、当人の不注意が原因である場合も少なからずあります。少し注意深くしておれば防げる転倒は多いはずですから。もちろん今はまだ自分で立つことも難しい状況で体力回復が大事なのですが、転倒骨折など高齢者は本当に気をつけねばなりませんよね。かの内田裕也も転倒事故により大きく体調を崩したようですから。 RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2019-03-30 03:43) 

pn

何が正解かよく分かりませんが三宅島避難民も噴火で死んで無いけど避難後自殺あったんだよ確か。
by pn (2019-03-30 06:27) 

足立sunny

福島で避難しなかったらその人たちがどうなっていたかは、壮大な人体実験の機会だったのかもしれませんが、すぐにガンになるかどうかはともかく、本人とその子孫の人体機能に大きな影響が出ると思っています。
といいますか「実際は分からない」がどの科学者、学者も本音なのではないか。
汚染された土地で育った農作物を食べないのも同じ。
除染といいますが元の通りに除染ができるとは思えないので、検査した農作物自体の残留放射能が基準以下でも、汚染の下で育った植物ですからそこに生物レベルで何か影響がある可能性は否定できないと考える人がいても、あながち不合理、非科学的とはいえないでしょう。
目の前の農作物に放射能が残っていないから食べても安全だ、というのは、一種の科学者マジックの論理として科学的なのだと思います。「実際はわからない」が本当なのだと認めようとしない、科学者たちです。
自分は残りの人生も少ないし、福島さんの農作物を食べた影響よりも違うことが原因で病気し死ぬことが普通なので安全と表示された福島産農作物を食べますけれど、そうでない人たちがいるのは合理的に非難できません。
鼻血を出したと言われれば、信じるほうに心が傾きます。
by 足立sunny (2019-03-30 07:06) 

ヤマカゼ

避難されてる方々のつらい心中を察せられる内容ですね。
by ヤマカゼ (2019-03-30 07:06) 

Take-Zee

おはようございます!
原発の話題(記事)を見るたびに思います。
消せないもの、止められないもの、処分できないものは
作るべきでないです。
 その典型(象徴)が原発です、止めるべきですね!

by Take-Zee (2019-03-30 08:09) 

kou

風評被害というのは殆ど気にしないですし、福島産の農海産物も平気で口に入れるでしょう。
昨年、千葉から帰るときに常磐自動車道を通って帰りましたが、帰還困難地域を通過する時の風景は当時のままで、復興は遠いな~と感じました。
by kou (2019-03-30 08:23) 

如月大翔

そもそも原点はあの未曾有の大津波であって
東電ばかり悪者にするのはどうかと思います。

by 如月大翔 (2019-03-30 11:14) 

kohtyan

福島の農産物、まったく気にしません。
農家の方が苦労して作られた作物です。
風評被害が困りますますね。
by kohtyan (2019-03-30 18:28) 

ヨッシーパパ

昨年、数年ぶりに会った旧友が、ひたち市で被災しましたが、ライフラインが止まったり、物資が供給されずに困ったことなど、話をしてくれました。
by ヨッシーパパ (2019-03-30 19:21) 

えくりぷす

福島の農産物など全く気にしていません。旅行も何度もしています。反対に気になるのは、福島市や郡山市のような離れたところでも、いまだに除染作業をやっているのを見ることです。酷い無駄遣いにしか思えなくて…
by えくりぷす (2019-03-31 14:16) 

レインボーゴブリンズ

復興五輪などという政府の掲げる偽りの声よりも、福島産品を従来通りに買うことこそが、本当の意味での復興を助ける姿勢だと思います。
by レインボーゴブリンズ (2019-03-31 16:16) 

チナリ

こんにちは。

福島は震災が起こる何年か前に1度だけ家族旅行で行ったことがあります。

農産物に関しては、安全だからお店に並んでいると思って、気にしたことがありませんね。

by チナリ (2019-04-04 11:46) 

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